マネー増加率は150カ国中最低

マネー増加率は150カ国中最低

嘉悦大学
経営経済学部 教授
高橋 洋一 氏



聞き手 編集局長 島田一

――経済政策を行う上で重要なことは…。

高橋 この10年間の最高株価は安倍政権時代につけた1万8200円だが、当時私は安倍内閣の総理補佐官補(内閣参事官)として金融政策の助言を行っていた。基本的に、経済政策を行う際に見るべきものは、GDPと失業率だけだ。この2つが水準をクリアしていればほぼすべて上手くいく。反対に、この2つが駄目だと何をやっても駄目だ。実際に当時は過去10年間でGDPが一番高く、失業率が一番低かった。やったことは金融緩和だけで、増税もしていない。金融緩和を行えば直ぐに株高円安になる。円安になれば輸出企業の景気が良くなり、多くの関連企業の株価にも良い影響を及ぼす。株価は消費を上げるし、実質金利が下がってくれば設備投資も容易になる。順番的には、まず輸出企業の収益があり、次に消費が活発になり、そして設備投資という流れだ。どの程度円安にするかは数字を見れば分かる。

――現在行っている金融緩和について…。

高橋 全くやっていないのと同じだ。為替は金融政策の相対比較であり、マネタリーベースの相対比で決まる。日本が過去と比べてマネタリーベースを増やしても、米国がそれ以上にお金を放出していれば、ドルが増えて円の希少性が高くなり円高になるのは当たり前だ。しかし、日銀はそういった他の国との比較をしない。マスコミに対しても「緩和しています」と言っているが、何をどの程度緩和しているのかも言わない。さらに、マスコミは日銀がすべて正しいと思っているため、踏み込んだ質問はしない。為替はすべて他の国との相対関係で決まる。日本だけが円高なのは他の国と比べて相対的にお金を出していないからだ。実際に2000年代のマネーの増加率は世界150カ国以上ある中で日本は最下位であり、今、まさに理論どおりのことが起こっている。

――購買力平価ではむしろ円安だという人もいるが…。

高橋 例えば、学者などがある時点で計算した購買力平価や実効為替レートなどの数字を掲げて議論したとしても、それは、企業や経済界など、輸出が困難になり国内で企業を維持できないため海外展開をしようと考える人達の意見とは全く違うものであり、意味のない議論だ。例えば家電業界では8割方、為替レートと売上高が連動しているため、家電業界の収益を伸ばしたいのなら為替レートを動かせばよい。現在、家電業界全体の損益分岐点は80円であり、80円を下回っている今は業界にとって大変厳しい。シャープの業績悪化にしても、経営陣は「こんなに円高になるとは思わなかった」と言っており、本当に気の毒なことだ。もしも今が円安だったら、シャープの業績は、設備投資も効いて大変好調に推移していただろう。

――何故、日銀はデフレ政策を続けているのか…。

高橋 日銀の白川総裁は自分がこれまでに行ってきたことが正しいと思い続けているため、一度の間違いがそのまま続き、さらに間違いを重ねてしまっている。例えば2000年8月のゼロ金利解除、そして06年3月の消費者物価がゼロ以下時点での量的緩和解除は明らかな間違いだ。当時私は総務省にいて、06年3月に発表されたプラスのデータには上方バイアスがかかっているため、8月の改定ではマイナスになると日銀に話したのだが、それは無視された。さらにその後のリーマンショックでは、他の国がマネタリーベースを増やす中で日本だけが増やさなかったため、円高になり、現在の大変な状況を招いている。白川総裁はこの3回の間違いすべてに関っている。

――米国のヘリコプターマネー政策は正しいと…。

高橋 それが正しくなければ、欧州や他の国は真似しない筈だ。リーマンショックの震源地であった米国がすでにリーマンショック前の株価を確保しているのに、日本は震源地でもないのにショック前の株価を確保できていない。それは統計分析において為替レートでほとんど説明できる。為替が高いと企業が海外へ逃げ、税収が減少する。そこで慌てて消費税を上げる。馬鹿な話だ。安倍政権の時には為替を安くしたことで法人税収が上がり、プライマリー収支が28兆円から6兆円になった。リーマンショックがなかったら、とっくにゼロにバランスしていたはずだ。しかも、その時は増税などしていない。決して増税なしの財政再建は難しい政策ではない筈だ。

――ここまでデフレにしたからには、少しくらいバブルにしなければ…。

高橋 現在のように凍り付いてしまったデフレを溶かすには、多少の熱湯が必要だろう。バブルも行き過ぎは良くないが、1970年から世界では130回ものバブルが起きており、珍しい話ではない。しかも、日本で起きたたった一回のバブルの規模は、その130回のうちの平均程度だ。もちろん、バブルがはじけた後の景気回復策は上手くやらなければ再びバブルが起きてしまい大変だが、日本は一回のバブルに懲りてしまい、後処理政策を何もしなかった。そのため、日本の景気は凍り付き、しかも、凍ったままで良いと考えている人が日銀にいる。とにかく感情論になり、まともな政策をすっかり忘れてしまっている。それはプロフェッショナルではない。世界レベルでは、バブルなど「大変だったけど、まあ、よくあることだね」くらいのものだ。その後に凍り付いてしまっていることの方がよっぽど酷い。

――国債に資金を流し続け、パブリックセクターを肥大化させた結果、25年前と比べて借金は300兆円から1000兆円に、税収は半分になった。明らかにマクロ経済政策の失敗だ…。

高橋 経済成長すると、すぐに財政再建できるのだが、それをやらずに公的セクターに頼りすぎると、民間が益々駄目になってしまう。民間企業が好調で失業率が下がれば、生活保護の受給者数も減少する。失業者の3割程度は仕事がなくて働けない人達であるため、雇用を増やしてその3割を下げれば、不正な生活保護需給を行う人もいなくなり、生活保護が財政を圧迫するということはなくなる。インフレ率が上がると失業率が下がるという関係性は明らかなのだが、ここで、日本では失業率を日銀ではなく厚生労働省が扱っているというところに大きな問題がある。失業率を出来るだけ少なく見せたい厚生労働省は、雇用調整助成金をばら撒いている。助成金をなくせば現在の日本の失業率は米国と同じ7%台であり、こんなことは到底まともな政策とはいえない。米国のように金融緩和を行うことで失業率を下げるべきだ。またインフレターゲットについては、政府のいわゆる子会社である日銀は、政府の指示に従って当然だろう。普通の企業の親会社と子会社の関係をみても、その独立性において日常の細かいことには口を挟まないが、指示は行う。指示通りの結果が出せなければ子会社の社長はその責任を取る必要がある。政府と日銀の関係においてもまったく同じだ。世界中でインフレ目標がいやだという人はいない。白川総裁はインフレ目標について「現実的ではない」と発言していたが、それは自分が責任を取るのが嫌だから言っているだけだ。

――生産性が上がらなければデフレは治まらないという意見もあるが…。

高橋 生産性については規制緩和など政府が行うべきことであり、それを日銀が言っていっているのであれば、デフレの解決という仕事において「それは自分の仕事ではない」と公言しているようなものだ。そもそも、企業の生産性を上げることは出来ても、国全体として生産性を上げることは非常に難しい。国の生産性を上げる方策があれば、世界中で貧困国などなくなり、それはノーベル賞ものだ。日銀はその議論が無限ループのように広がっていくことを分かっていながら、そういう話をわざと持ち出して言い訳をしているに過ぎない。はっきり言うが、生産性とデフレの関係性はない。デフレの解消には、お金を刷ってベースマネーを増やせばよいだけのことだ。物とお金があって、相対的に物が増えればデフレになるということくらい、中学生にだって分かる。それすら出来ない、分からないのが今の日銀の姿だ。(了)