女性の力で日本を豊かに

女性の力で日本を豊かに

女性労働協会
専務理事
福沢 恵子 氏



聞き手 編集局長 島田一

――民間から女性労働協会の専務理事となられて…。

福沢 この協会は1952(昭和27)年に当時の労働省婦人少年局(現在の厚生労働省雇用均等・児童家庭局)の唯一の外郭団体「婦人少年協会」として発足し、その後、1980年に財団法人となった。発足当初からしばらくは「婦人と年少者」という専門誌の発行が主たる事業内容の小さな団体だったが、2000年から厚生労働省の委託事業として「女性と仕事の未来館」の運営を行うことになり事業規模が大幅に拡大し、それに伴い歴代専務理事には厚生労働省のOBが着任するようになった。しかし、事業仕分けにより2011年3月末をもって「女性と仕事の未来館」は閉館となり、協会もいわゆる「天下り」を排した新体制での再出発を余儀なくされた。私は元・新聞記者で厚労省とは直接関係はない立場なので、協会初の民間出身の専務理事ということになる。これは私が「女性と仕事の未来館」の開館から10年余り運営協議会委員を務めていたことや、講座や研修の講師を担当していたことでご縁があったということだろう。女性の労働状況は国によってかなり違う。例えば、シンガポールやフィリピンでは、キャリアを追求する女性達は住み込みもしくは通いのメイドやヘルパーを雇っていることが多いが、日本では家庭内のことに他人の手を借りることに対して抵抗感があり、それが家事を外注する障壁になっている。そのため、現在の日本では結婚や出産をしないで働く人と子育てに専念する人の棲み分けが出来てしまっており、結局、働く女性の6割は、第1子の出産を機に仕事を辞めてしまっている。育児に専念している女性の中にも高い職業的能力を持つ人がいることを考えると、これは大きな損失だ。

――日本の女性がもっと社会に進出していくためには…。

福沢 大きく分けて2つの就業環境の整備があるように思う。ひとつは「仕事を辞めなくても働き続けることが出来る雇用環境」、もうひとつは「暫く仕事から離れていても再び仕事に戻れるような社会環境」だ。具体的には、家や会社の近くに十分な数の保育所を整備することで、小さな子どもを持つ母親も安心して働けるようにする。また、短時間勤務制など働き方の柔軟性も必要だ。さらには、一旦離職してもスキルアップの機会や再就業の機会が提供されるような仕組みを考えることも求められている。私はこれまで取材やヒアリングなどで多くの働く女性達と会う機会があったが、彼女たちは異口同音に「いかに有名な大企業でも、毎日12時間労働が当たり前では、結婚後や子どもがいる状態で働き続けることは難しい。もっと違うペースで働くことが出来て、かつ社会的貢献のできる仕事をしたい」と言う。この発言からは、長時間労働を前提とした「男性スタンダード」に合わせて働くことを求められる女性の辛さがうかがえる。

――「ワークライフバランス」が重要だと…。

福沢 極力残業をしない働き方や、短時間勤務を浸透させるなど労働時間の柔軟性に留意することにより、女性が結婚した後も会社を辞めることなく働き続けることが出来る。また、例えば通常8時間勤務の中で、6時間勤務を望む人がいれば、残りの2時間は他の人を雇うことが出来て雇用の拡大にもつながる。しかし、男性の働き方を現状のままにして、女性だけ「育児期間は短時間勤務」というような措置は、結局「女性は2流の労働者」という扱いとなるだけだろう。やはり、「男性スタンダード」を見直すことが重要だと思っている。現在の35歳以下の男性は、従来の日本の男性とはかなり価値観が異なっており、自分も育児休業を取得したいと考えていたり、実際に家事・育児に積極的に参加している人が多い。この世代以下が労働人口の主流となれば、働き方は自ずと変わってくる可能性もあるように思う。

――保育所が不足している理由は…。

福沢 それは政策的怠慢といわざるを得ない。保育所の設立にはまず資金が必要であり、その支出の源をどこから得るのかということになるのだが、今の日本社会は圧倒的に高齢者のためにお金を使っている。それは、政治家が高齢者に手厚くした方が選挙の票につながるということで、若年層を冷遇してきたからだ。生まれたばかりの赤ちゃんには選挙権はなく、その母親世代は政治に無関心だったり、仕事が忙しくて投票に行けないということが多いため、政治家はそれを奇貨として結果的に子育て世代に十分な配慮をしていないように見受けられる。

――例えばシンガポールなどではインドネシアや中東などから家政婦を雇うようなケースが一般的だが、日本でそのような動きは…。

福沢 ドメスティックヘルパーについては日本でも外資系で働いている人達の中ではすでに当たり前になっており、例えばフィリピン人のメイドを雇っていたりする。また、住み込みではなくとも週2日程度のヘルパーを雇っている人もいる。もちろん実際に労働力を提供できるような環境になったとしても、それを利用するかどうかは個人の価値観にもよるもので、どうしても自分の家に他人を入れたくないと考える人もいるだろう。ただ、プライバシーの問題について言えば、例えばフィリピンの人達は日本語が理解できる人ばかりではなく、基本的に英語でのコミュニケーションになるため、むしろプライバシーは守られやすいのではないかと思う。現在、日本への外国人労働者は、高度な専門職以外はビザが出にくいが、きちんとコントロールされている状況でドメスティックヘルパーにもビザが出るようになれば、それは働く日本人にとっても、家事労働を提供してくれる国の人にとっても良いことなのではないかと思う。

――欧米などではベビーシッターの利用は当たり前だが、日本にはなかなか浸透しない…。

福沢 日本の場合、預ける側の権利意識が非常に強いため、他人に自分の子どもを預けてもし何か事故があった場合に、その責任の所在がどこにあるのかを明確にしておきたいと考える。私共の協会では一定の講習を受けた市民が地域の子育て支援を行う「ファミリー・サポートセンター」の運営支援をしているが、そこでは万一のケースにも備えて保険も扱っている。そのくらい慎重な対応が求められるということだ。

――もう少し気軽に、個人的なつながりの中で子どもを預けられる環境も必要ではないか…。

福沢 米国などでは、特に女子学生のアルバイトとしてベビーシッターが浸透しており、「ベビーシッターハンドブック」といった書籍も販売されている。この種のハンドブックにはベビーシッターとしての必要な知識や、両親への報告の仕方、ベビーシッターとして仕事を得るための営業方法や名刺の作り方まで書いてあり、とても参考になることが多い。私はこのようなハンドブックからヒントを得て、日本の中・高・大学生など若い世代の人達に、基本的な保育の素養を身につけるような講習会や検定ができないかと考えている。このような検定や講習会などを受講済みで、一定の知識を持っているという認定書があれば、子どもを預ける側も安心だろうし、高校生や大学生にとっては貴重な育児経験とともに若干のアルバイト収入も得ることが出来るのではないか。今は兄弟の数が少ないため、赤ちゃんに触れる機会は非常に少なく、高校生くらいの年代が赤ちゃんの世話をするようなことはほとんどない。ここで他人の子どもの世話をするという経験をしておけば、将来的にも役立つのではないか。

――子どもが増えないのは、今の若者がなかなか結婚しないからだと思うが…。

福沢 結婚しない理由は色々あると思うが、一番の理由は、忙しすぎて出会いの場がないのだと思う。潜在的には女性も男性も信頼できるパートナーが欲しいと思っているのだが、今は若い世代の人達があまりにも忙しく働かされているため、社会人になって新しく出会いを求めようとしても、現実的には非常に難しい。ワークライフバランスは独身の人達にとっても大変重要であり、仕事以外の時間を持ち、新しい出会いの場に参加できるような時間的ゆとりがなければ、結婚など到底出来ない。近頃は会社が結婚紹介ネットへの加入に補助金を出すようなところもあるようだが、例えば、実際に自分が興味のある勉強会や習い事の場などに出向いてみれば、興味の方向性が一致している人達に出会う可能性は高いと思う。そのためには、やはり時間的なゆとりが必要だ。若い世代の人達をあくせく働かせすぎると、結婚はおろか、出産などとても期待できないだろう。
もうひとつ、女性の側が「結婚はめんどくさい」と捉えている傾向も見逃せない。現状のように男性が長時間労働を強いられていると、家事や育児は全て自分が一手に引き受けることになり、今後は男性の収入の伸びも期待できないから自分も賃労働をする必要がある。そうなった場合、自分に過重な負担がかかってくることは容易に予想ができるはずで、それが結婚・出産を魅力的に考えられなくなっていることにつながっているのではないか。

――日本では結婚しなければ子どもが生みづらいということも少子化の原因だ…。

福沢 欧州などでは結婚せずに生まれた子どもに対する差別がないため、未婚でもたくさんの子どもが生まれており、特にフランスやスウェーデンではシングルマザーの比率は50%を超えている。一方で、日本では結婚せずに生まれた子供は戸籍上にも非嫡出子と記載され、結婚した男女との間に生まれた嫡出子と明確に差別されている。これは、古き悪しき時代の政治家によって作られた「本妻の子どもを守る」ための制度だと思うが、今後は、結婚していない男女(広範囲には性同一性障害やゲイカップルなども含め)多様な関係性も認めるべきではないか。フランスのパクス(連帯市民協約法)のように、法律上は結婚していなくても家族として保護される仕組みを日本でも確立していけば、また、税負担は多くなっても子育て世帯への支援を充実させれば出生率は回復するだろうと思う。
また、シングルマザーにしても、日本のこれまでの政策をみてみると、死別、離別、結婚していないシングルマザーをそれぞれ色分けして分類しており、支援の体制も異なっている。一番手厚いのが死別で、圧倒的多数である離別や非婚のシングルマザーに対してのサポートは必ずしも十分とはいえない。「結婚したカップルから生まれた嫡出子だけが社会に存在すべき子ども」というような認識はもはや時代に即応していない。「生まれてきた子どもはその出自に関わらず、すべて喜んで受け入れる」という社会的価値観を持つことが、日本の少子化対策や女性の労働力向上につながっていくことは海外の例を見ても明らかだと思う。(了)