国内景気は回復を継続へ

国内景気は回復を継続へ

三井住友アセットマネジメント
理事 チーフエコノミスト
宅森 昭吉 氏



聞き手 編集局長 島田一

――12年12月調査の日銀短観は予想よりも悪くないようだ…。

宅森 ロイター短観によると、大企業製造業の業況判断DIは3カ月前の9月と比べてかなり落ち込みマイナス19という数字が出ていた。これに対し私はマイナス15と予想していたが、日銀の短観ではマイナス12という結果で、まあまあという感じだ。予想外だったのは中小企業製造業DIが意外に底堅く、特に素材業種のDIが改善していたことだ。海外需要に対する見方が9月調査と同水準でしっかりしていることがその理由だが、大企業と中小企業では全く逆の結果になっているのが興味深い。大企業は非常に慎重に考えており、想定為替レートが前回より円高の78.90円/ドルと設定している。大企業は、安倍自民党総裁の発言を受けて日銀に思い切った金融緩和をやってもらいたいが、万一何もしないと為替レートはまた円高に戻ってしまう、と考えているのかもしれない。

――実質GDPだけをみると4〜6月期がゼロで7〜9月期がマイナス。このままいくと10〜12月期もマイナスになるのではないか…。

宅森 私は10〜12月期がマイナスになるという予想はしていない。個人消費は良さそうだ。今年は10月初旬に30度以上の日が続き、なかなか秋冬物の商品が売れなかったが、11月には急激に気温が下がったために全国百貨店売上高が前年同月比2.2%増と7カ月ぶりに増加に転じた。また、急激に冷え込んだために紅葉が大変綺麗で、11月の紅葉の名所は沢山の人で賑わっていたようだ。私はちょうど11月の3連休の前日の夜に仕事で名古屋から東京駅に戻ってきたのだが、「1〜3号車のお客様は駅のホームが大変混雑しているので4号車より前の車両から降りてください」という車掌さんの異例のアナウンスを聞いた。指定席が満席のため自由席で京都などに行こうとする人たちがホームに溢れていたのだろう。観光地に人が出向けば消費も活発になる。政府の月例経済報告に採用されている消費総合指数でも、7〜9月期は105.4、10月は106.1と改善している。寒さや紅葉によって11月もさらに上がっているはずだ。そう考えると、10〜12月期の個人消費の前期比はプラスと期待出来る。

――外需については…。

宅森 為替が円安方向にあることを背景に良好になりつつある。モノの実質輸出の10〜11月分平均の7〜9月分平均比は前期比マイナス5.2%だったが、控除項目であるモノの輸入は同マイナス5.9%であり、これは環境税導入前の原油などの駆け込み的な輸入の反動が寄与していよう。10〜12月期は控除項目の輸入が大きく減少しているため、外需の前期比寄与度は7〜9月期のマイナス0.7%というような大幅なものではなく、サービスを含んでも10〜12月期は小幅なマイナス寄与にとどまると見られる。設備投資は前期比マイナスだが、住宅投資は前期比プラスとなろう。赤字国債発行法案の成立にやや時間がかかったため地方を中心に公的部門の支出が抑えられた可能性があるが、それも一過性のことと言えよう。

さらに、他の統計を見ると、概ね季節調整済みの統計数字は、春と夏の分はリーマンショックの影響で弱い数字が出がちだが、秋と冬の分は強く出やすいようだ。10月分景気動向指数CI一致指数で「悪化」という判断が出て、景気後退の可能性が高いというのはあくまで過去のパターンからの経験則だ。10月分のヒストリカルDIは50を割っておらず、CI一致指数採用系列のひとつである生産指数は9月を底に10月は前月比プラスになり、11月の製造工業生産予測指数は前月比0.1%の微減のあと、12月は同7.5%増を予測している。生産指数は底打ち傾向にある。

――秋には尖閣問題が起こったが、その影響は…。

宅森 製造工業生産予測指数を見る限り12月は大幅プラスになっており、尖閣問題が生産に与える影響は大きくはならないと思う。鉱工業生産は1月をピークに下り坂となり、2005年を100とした指数水準は9月が86.5で10月が87.9となっている。9月に大幅に下げた理由は輸送機械工業がエコカー補助金打ち切りとなったことへの調整として全体の生産の半分以上もの減産をさせたからだ。また7月と8月に関しては従来ならば年末用に増産する電子部品デバイス工業が中国の需要減などに対応して減産している。ただ、輸送機械工業も電子部品デバイス工業も、9月まででかなり低い水準まで生産を抑えたために、尖閣問題で多少足が引っ張られても、スマートフォンや自動車のニューモデルなど、確実にある程度の需要があるなかでは増産も必要となり、これ以上に下がることは考えにくい。9月、10月は80台の指数水準になっているが、これは2011年の3月、4月、5月以来だ。東日本大震災で生産が大変な状況にあった時の水準に近い状況で、今後さらに生産を切り下げ震災直後のレベルを下回るかといえば、そこまでの環境ではないだろう。尖閣問題があったとしても日中間の交流がすべて途絶えるわけではない。米国・中国などを中心にした世界経済の持ち直しや、80円台のドル円レート定着という外部環境が改善する中、内需も引き続きしっかりしており、生産は増加基調が続くだろう。

――その他のデータを見ても、来年は期待出来そうだ…。

宅森 大河ドラマで平清盛が出るとこれまでは必ず株価が上がったが、今年も松山ケンイチ主演の「平清盛」により、株価は昨年よりも上がっている。また、東日本大震災や尖閣、竹島問題で心配されていた観光客の減少も、現在では、台湾など他アジア諸国からの旅行客が増えてきており、心配はなさそうだ。株価は辰巳天井。為替も辰巳と2年連続円安になりやすい干支にある。あまり円安になりすぎると原材料価格の問題などが出てくるが、80円台半ば辺りで安定すれば中小企業の方々も安心できるのではないか。

――日銀のインフレターゲット導入問題については…。

宅森 日本経済研究センターが実施している「ESPフォーキャスト調査・12月調査」で民間エコノミスト40名に日本の経済政策について聞いたところ、インフレターゲット導入に賛成しているのは40人中14名、どちらかといえば賛成が10名という結果だった。両者を合わせた賛成は24名つまり6割が賛成しているということだ。賛成の人に具体的な数字を尋ねた結果は、1%が6名、2%が7名、2〜3%が1名など、諸外国に合わせて2%と答える人が多かった。そして、安倍政権になったことからインフレターゲットを日銀が導入してくる可能性は今までよりかなり高くなったとみられる。また、海外が回復してきたこと、円安方向に動きつつあること、そして、復興支援を中心に内需がしっかりしてきたことで公共投資が出始めた。雇用の数字もそれなりに良くなっており、給与とは関係ないところで高齢者の消費が観光などサービス支出を中心に活発化してきている。また、消費税増税が実施されるとなれば、その前の駆け込み需要もあるだろう。そのようなことをすべて勘案すると、13年度の実質GDPは1.5%程度の成長を予測している。ただ、14年度はその反動で落ち込む可能性もあり、EPSフォーキャスト調査では0.1%程度に戻すという数字も予測されているため、きちんとした対策を考えておく必要がある。

――世の中はデフレに飽きてしまっている…。

宅森 今年は15年ぶりに自殺者数が減り、中央競馬の売上げも15年ぶりにプラスになったようだ。また、地価LOOKレポートによると、高度利用土地では10月1日時点で上昇地点が下落地点を上回った。このように、変化の兆しが見えつつあり、ようやくデフレが終焉を迎える兆しが少し出てきている。物価見通しについては、来年度は若干プラスになる程度だと思うが、「ESPフォーキャスト調査・12月調査」では、2014年度から2018年度までのコアCPI物価上昇率の予想平均は0.7%という結果が出ており、さらに2019年度から2023年度の5年間の予想平均は1.0%となっている。これは日銀も以前から言っていたことであるが、長期の予想としてエコノミストの平均が1%程度の物価上昇を期待している。これは、お金を貯めておくよりも消費に回したほうが良いと考えるようになったり、お金を借りて何か行動を起こそうという気になりやすい水準だと思う。2%のインフレターゲットにしても、2%超まで物価が上がれば引き締めを行うという理解で良いのではないか、その結果として1%程度で推移させることが出来れば、安定的な状況と言えるのではないだろうか。(了)