日銀の問題点は無責任なシステム

日銀の問題点は無責任なシステム

衆議院議員
理事 チーフエコノミスト
山本 幸三 氏



聞き手 編集局長 島田一

――積年のインフレターゲット導入がようやく実現されつつある…。

山本 日本で最初にインフレターゲットを唱え始めたのは伊藤隆俊さんだと思うが、私も95年頃に伊藤さんからインフレターゲットという言葉を聞いて以来、これは絶対に導入すべきだと思い、国会では毎回のように日銀への追求を重ねてきた。最初は孤軍奮闘で、唯一賛同してくれていたのは、当時は自民党で今はみんなの党の党首である、渡辺喜美さんくらいだった。金融庁の中にも一人や二人はこの考えを面白いと思ってくれる人がいて、細々と日銀法改正を目指して活動していた。かれこれ15年になる。それが、一昨年の東日本大震災の後に、私が日銀の国債引受けで20兆円規模の財源を作り出し、それを復興財源にあてるような提案をしたことがきっかけとなり、増税することなく、迅速に、さらにデフレ対策にもなる「日銀の国債引受」という財源確保の考え方があるということが、ようやく議員の間にも広まってきた。

――一時は官邸でも日銀の国債引受を検討したこともあったようだが…。

山本 当時の財務大臣は野田佳彦前総理だったが、彼は日銀に国債を引き受けさせるなど乱暴すぎると言うような発言をして承認しなかった。私はその後行われた財務金融委員会で野田さんを追及したのだが、彼は特別会計で毎年行われている日銀の国債引受の存在すら知らなかったようだ。一方で、安倍総理は06〜07年に総理大臣を経験し、金融政策の重要性をよくご存知だ。総理の資質として、教育や防衛だけでなく経済の知識が大切だという問題意識を持ち、私とともに1年半前くらいからインフレターゲットの勉強会を重ね、彼の中にあった色々な疑問が解消されるにつれて、これは日銀を変えなければいけないと考え始めたようだ。

――米FRBがインフレターゲットの導入に踏み切る姿勢に変えたことも、追い風になっている…。

山本 FRBのバーナンキ議長はインフレターゲット論の第一人者だ。緊急時には金融緩和でお金を出さなくては駄目だという考えが基本にあり、日銀の失敗も批判している。FRBのそういう姿勢に対して日銀がお金を出さなければ円が高くなるのは当然だろう。それなのに、日銀は、デフレでも何でも構わず、金融システムさえ安定していれば良いと考え、自分たちの権限を守ることだけに必死になっている。マクロ経済のことなど全く気にしていないという極めておかしな状況が長く続いてきた。

――バブル時の国の借金は300兆円で税収が60兆円。それが今では借金1000兆円で税収は40兆円。企業の経営者であればとっくに辞めさせられている…。

山本 日銀の問題点は責任を取るシステムがないことだ。例えばインフレターゲットにしても、期限を決めずに「中長期の目標」という言い方をしていては何の意味もなく、責任感もまったくない。このため、期限は最大1年半と決めることが政策の実現性にとっては重要だ。また、それにはグロスの数字だけでなく、ネットでバランスシートがどれだけ増えるのかをきちんと証明させることも必要だ。期限を決め、責任の所在を明らかにすることによって初めて政策に透明性が出てくる。さらに、例えば党の総裁が代わったり、日銀総裁が代わったりした場合にこういった決め事が再びあやふやになるような事態を避けるために、きちんと日銀法を改正して、法律上のシステムとして作り上げることが大切だ。

――自民党はインフレ目標値の公約を2%としたが、この数字の妥当性については…。

山本 インフレ目標値は、理論的には雇用の最大化と矛盾しない数字が最適とされている。ここで、過去の消費者物価と失業率のトレードオフ関係を示す日本のフィリップス曲線を見ると、日本ではインフレ率が2.5%を下回ると失業率が急激に上がっており、この理論では2.5%以上のインフレ率が必要ということになる。個人的にはデフレが長く続いたため当面3〜4%でも良いと思うが、諸外国は大体2%程度を目指しており、それに合わせれば最低2%ということになろう。学習院大学教授で経済学者の岩田規久男さんが作ったシュミレーションによると、リーマンショック以降ではインフレ率が2%になれば株価は11300円、為替は1ドル98円になるという。そうなると日本経済は随分楽になる。日銀はよく、バブル時のインフレ率は平均1.3%だったというデータを持ち出して議論を始めるが、1%という数字は有り得ない。バブル最後の89〜91年のインフレ率は2〜3%あったはずだ。この3年間を無視して平均数字を出して低めに見せるところはいかにも日銀らしい誤魔化し方だ。このため、インフレターゲットに上限と下限を決めるとすれば、2〜4%程度が一番良いのではないか。

――失業率に関しても、日銀の目標数値として盛り込むべきではないか…。

山本 日銀はこれまで実体経済のことには何も配慮してこなかったが、フィリップス曲線を見れば物価上昇率と雇用が直接的に関係していることは明らかだ。FRBのように、物価の安定と雇用の最大化という二つを日銀が手がけることは現実問題として直ぐにはなかなか難しいが、雇用に配慮することは必要だろう。このため、日銀法改正をする段階で、日銀の金融政策の目的の中に、雇用に関する一言を加えて「物価の安定を図ることを通じて(雇用を含む)国民経済の健全な発展に資すること」という文言にすれば、自ら雇用についても配慮するようになるだろう。

――日銀の中にもインフレターゲット論者はいる。そういった人達と連携して変えていかなければ…。

山本 ただ、日銀の中で若い時はそう考えていても、段々と宗旨替えせざるをえなくなるというのが現実だ。白川総裁自身、もともとはマネタリーアプローチを唱えており、為替もお金の量で決まると言っていたのに、今では180度変わってしまった。上司と同じ考えにしなければ外部に出されてしまうというおかしな組織が日銀というところだ。

――日銀の一番の問題点は、昔の理論で頭が凝り固まり、現場を見ていないことだ…。

山本 政治家である我々は、様々なところから色々な相談を受け、個人の家も一軒一軒訪ねて歩くことで、実際に何に困っているのかを痛切に感じることが出来るが、日銀の幹部役員などは、何ひとつ不自由のないところに住み、良い給料をもらって、年金もしっかりして心配事などない。また、相手にしているのは資本金2000万円以上の企業ばかりで、デフレになっても誰も困らない。むしろデフレ下で現金の価値が増え、得をしているかもしれない。そういった環境にいるのが日銀の人達だ。そういう現実を考えると、もっと日銀の中に、きちんと現場を知っていて、日銀の組織を壊すことが出来る人間を増やしていかなくてはならない。例えば日銀総裁・副総裁にはプロパーを入れないというようなことも必要であろうし、インフレターゲッティングを確実なものとするように日銀審議委員にも同じ考えを持った人を送り込む必要がある。

――2%の物価上昇が公約倒れになったら、自民党が民主党の二の舞になる恐れがある…。

山本 そうならないように、日銀法改正を始め、様々なことをしていかなければならないと考えている。例えば、市場から批判されている、無記名、無責任な物価見通しや、「ある審義委員」という表現が使われている議事録の審議委員名を開示するなどの工夫も必要だろう。頭脳明晰かつ自分の島しか守らず、責任逃れの上手な日銀を相手にして金融政策を大きく変えていくには、それなりの戦略や工夫が不可欠だと考えている。(了)