スマートシティで都市の価値を向上

スマートシティで都市の価値を向上

横浜市
温暖化対策統括本部 環境未来都市推進担当理事
信時 正人 氏



聞き手 編集局長 島田一

――横浜市ではスマートシティの構築が進んでいるが、スマートシティの概念とは…。

信時 スマートシティとは、都市の中にIT技術が実装され、張り巡らされて、住んでいる人々が楽しみながら、低炭素で便利な生活が出来るような都市だと理解している。 横浜市では、省エネルギーや低炭素といった問題をクリアするための新しいインフラストラクチャーとして、家庭内のエネルギー管理システム(HEMS)、ビル内のエネルギー管理システム(BEMS)、工場内のエネルギー管理システム(FEMS)、そして、それらをまとめた地域内のエネルギー管理システム(CEMS)の実証実験を行っている。例えば、不安定な再生可能エネルギーを蓄電池等と組み合わせて安定的な電源として利用できるようにしたり、エネルギーが余っている方から自動的に足りない方へ流したり、或いは、発電量と比較して電気を使いすぎている場合は自動的に節電するというようなことを、ネット上で行う仕組みだ。そうすることで、都市全体の電力を節約することが出来るようになる。

――市全体でエネルギーを管理することで、エネルギーが効率的に使われる…。

信時 例えば、太陽光発電や風力発電のような再生可能エネルギーの電力を、効率的に安定的に地域として利用する場合には、蓄電池を利用して電力を平準化させる必要がある。そのためには、スマートグリッドという技術が必要だ。つまり再生可能エネルギーを導入したとしても、その技術がないと、個別のエネルギー供給にしかならない。蓄電池は価格の面から考えてみても、例えば家電量販店で1キロワットの蓄電池を購入すれば100万円程度かかるが、電気自動車なら16キロワットから24キロワットの蓄電池が内蔵されており、値段は約300万円で、普通に蓄電池を買うよりも遥かにコストパフォーマンスがよい。さらに横浜市は低炭素社会の構築に向けた取組に力を入れているため、補助金も付き、今、電気自動車を非常に安く購入することが出来る。24キロワットあれば一般家庭で約2日間分の電力を賄える。万が一、電気の供給がなくなった場合でも、電気自動車に満タンに蓄電されていれば2日間は大丈夫ということだ。みなとみらいの商業施設でBEMSの実証実験を行っているが、そこでは電気自動車10台分の蓄電池からの電力を建物に流して実証実験を実施している。スマートシティが実現すれば、CEMS(地域エネルギー管理システム)により、電気が足りなくなりそうな時には自動的に地域全体の電力使用量を下げるため計画停電をする必要もない。これは家庭にとっても企業にとっても大変喜ばれることだと思う。

――横浜市がスマートシティの取り組みを始めたきっかけは…。

信時 もともと横浜市は、温暖化対策のために太陽光パネルに補助金をつけるなど色々な取り組みを行っていたのだが、その中でスマートグリッドの技術を実証実験している海外都市の事例を知った。そこで企業にも声を掛けて勉強を進めようとしていたところ、丁度、国がスマートシティ実証実験の地域公募を始めたため、その機を捉えて応募したという訳だ。もちろん低炭素化は必要だが、それだけではコストが掛かるばかりだ。我々がスマートシティ化を進めている理由は、横浜市の都市としての価値を上げるためでもある。実は、日本は世界の中でも地震リスクの高い地域という認識が世界でされている。その中で企業誘致を叫ぶならば、災害時にもビジネスが中断しないようなBCP(事業継続計画)対策を万全にしておく必要がある。東日本大震災の時に六本木ヒルズの建物が停電しなかったのは個別の発電機を備えていたからであり、その結果、震災後は六本木ヒルズが脚光を浴びた。このように、BCP対策はいまや日本の都市には不可欠だ。そういった意味でもスマートグリッドは必須のものだと考えている。

――スマートシティを構築するにあたって、都市のあり方や市民生活が大きく変わってくるのではないか…。

信時 生活していればエネルギーを全く使わないということはない。電力の利用がなければ何かしらの異常状態にあるということだ。スマートグリッドで各家庭のエネルギー使用状況がわかるようになれば、例えば高齢者の単身世帯の様子をチェックし、万が一の時はすみやかに対応することが出来るようになるだろう。一方でそれは、いつ家に戻ってきて、いつお風呂に入って、いつ就寝したかというプライバシーや個人情報が、高齢者の単身世帯だけでなくどの世帯でも明らかになってしまうという問題があるため、個人情報の取扱や運用方法等にも視野を置かねばならないといけないと思っている。

――実用化されるまでには、あとどのくらいかかるのか…。

信時 実証実験はあと2年で終わり、その後は実践段階に入っていく。すでに都市部ではBEMSを導入しているビルがどんどん増えており、HEMSを導入している住宅メーカーもある。ただ、その先のCEMSについては、今のところ積極的な事業者がいないことが問題だ。CEMS業者を捜すことが我々の今後の大きな課題といえよう。今後、電力自由化が進むとするならば、地域ごとに節電を競争するというようなことにもなってくるはずだ。そうならなければ再生可能エネルギーも伸びない。日本の空洞化が進む中で、地域としてのきちんとしたエネルギー戦略と、その核となる会社が必要だと考えている。

――現在、エネルギーは有効活用されているのか…。

信時 現在、特に熱エネルギーは余っている。これをいかに活用するかが都市にとっての大きな課題でもある。例えば京浜工業地帯の製鉄所やその他の工場や、ごみ焼却炉の熱もれっきとしたエネルギーなのだが、これらの熱の大半は利用されずに捨てられている。例えばパリでは、ごみ焼却炉3つの熱を管路にて配送し、ダウンタウンの熱をすべて賄っている。横浜にはゴミ焼却炉が4つ稼働中のため、その気になれば横浜市にとって非常に魅力的な熱源になる熱量はあるはずだ。しかし、その管路の資金を誰がもつのかというところに大きな課題がある。他にも下水熱の有効利用も生態系保持のためには必要だ。東京湾の温度上昇を防ぐ意味からも検討しないといけない。海水温が1度上がると、魚にとっては、人間に例えると体感温度が10度上がったのと同じという話もあり、そこに住む生態系はかなり変化すると言われている。下水の熱を如何に取り出して行くのかという事の検討が急がれる。横浜市では、日産スタジアムの冷暖房の一部には処理した下水の熱を使っている。これは日本最先端の技術であり、まさにこういった技術開発に日本は取り組むべきではないか。

――スマートシティの構築には市民の賛同が欠かせない…。

信時 スマートグリッドはハイテクノロジーを駆使したものだが、基本は市民だ。太陽光パネル、電気自動車、そしてスマートハウスを作るためのHEMSの導入も、最終的にお金を払うのは市民だ。そのため、市民の方に必要性を説明して納得した上で自分の懐からお金を出してくれる気になるかどうかが最終的な課題になる。スマートグリッドを地域に根付かせ、市場原理に則って継続していける事業にしていくために、国や他の都市との連携やメーカー側との協力も合わせて考えていく必要があると思っている。(了)