福島、水俣病化の恐れ

福島、水俣病化の恐れ

松本市長
菅谷 昭 氏



聞き手 編集局長 島田一

――福島で、また小児甲状腺がんが見つかった…。

菅谷 福島県が行っている子どもの甲状腺検査ではすでに3人が甲状腺がんと診断され、残り7人も高い確率で甲状腺がんだと疑われている。しかし、こういった話が新聞やテレビなどでは大きく報道されておらず、マスコミの原発被害問題に対する扱いは非常に軽い。私はチェルノブイリにいた頃、よく「日本人はとても大らかで寛容だが、熱しやすく醒めやすい民族だ」というようなことを思っていたが、それは、事が起きるとすぐに騒ぐが、暫くするとすぐに忘れてしまうという意味だ。私はこのような症状に対して「悪性反復性健忘症」と診断名を付けていたが、今回の福島の事故については、その健忘症から脱却して欲しいとずっと伝え続けてきた。しかし、結局脱却はできていないようだ。これはもう、「難治性」とつけざるを得ない。

――先日は静岡県の袋井市で講演をなさったそうだが、反応は…。

菅谷 浜岡原発が近くにあるため、市民の心配は絶えないようだ。講演後の質疑応答では、私に「国政に出てください」と発言した若者がいて、「このような話をする人がいない。そういう人がいなければ国は変わらない」という危機感を強く抱いているようだった。私自身に出馬する気は全くないのだが、実は前回の衆議院選挙の時にも、あちこちから私に出馬の要請があった。市民の動きとしては、「何とかしなくてはいけない」と思っている人がたくさんいるのだが、実際に何とかしてくれそうな人は国会議員の中におらず、結局、東日本大震災から2年たっても政府が何もやっていないため、私のような人間のところに要請が来たと言うわけだ。これはある意味、とても悲しいことだ。

――政府は被害の実態を全く理解していない。現場の人に話を聞かず、現場を知らない学者の机上の空論に則って動いているからという印象が強い…。

菅谷 私は事故発生当時から、早くヨウ素剤を飲ませるようにと言ってきたが、国は甲状腺被曝線量が国際基準値の50ミリシーベルト以下だから大丈夫といって飲ませなかった。しかし、甲状腺がん患者が3人も出てきている。形だけの知識に頼った机上の空論は信用できないということだ。例えばこれが欧米のような訴訟大国だったら、基準値を測る前にヨウ素剤を飲ませていただろう。その大きな理由は、飲ませなかったためにがんになったと訴えられたくないからだ。「ニコニコ笑えば放射能は来ない」と発言していた福島医大の山下俊一副学長も、今後また発症例が増えれば、どう責任を取るのか。もうひとつ、私は先日、福島に夫を残して母子二人で松本市に避難してきた母親と話をしたが、今の福島では、特に大人の間で原発の話がタブーになっている雰囲気があるそうだ。そういう中で中学生や高校生は友達同士で「もう、私たちは国から棄てられちゃったんだよね」というような会話をしているという。これは本当に大変なことだ。私は「汚染地域に住む」ということに対するメンタル面でのケアも早くすべきだと唱えてきたが、残念ながら、そういった動きも十分ではない。そして、子どもたちは「国から棄てられた」というような意識を持っている。こういった現状を、果たして安倍総理は知っているのだろうか。国民の命を守るという、国家の最も大切な視点が抜け落ちていないか。

――何故、子どもたちは「国に棄てられた」と感じているのか…。

菅谷 被災地における健康診断の体制はまだまだ不十分で、迅速な検査が受けられない。もっと検診の回数を増やしたりすべきなのだが、これまでの行政対応はあまり良いものとは言えないと聞く。そういった中で、新たに2人に甲状腺がんが見つかった。同地域に住む方々の心配は大変なものに違いない。一方で、地域の長は市町村の存続を優先し、出来れば地域から出て行って欲しくない、一時的に避難しても何とか住民に戻ってきて欲しいと考えている。それは、汚染された地域に住む人、それぞれのことを本当に心配してのことなのか、そういった色々な事情をある程度判断できる中学生や高校生等が「国に棄てられた」という意識を持つのだろう。しかも、そういった話を家庭ではお互いに遠慮して出来ないという。子どもたちにとって、それはストレスだ。ベラルーシでは現在でも汚染地域に住む6〜17歳の子どもたちに年2回、18歳以上の大人に年1回の無料健康診断を行っている。そして毎年1カ月は国の費用負担で保養に出かけることが出来る。日本の復興庁も、原子力発電所の処理ばかりに目を向けるのではなく、現地に住む人達の現状をしっかりと理解して、健康面を含めた色々なケアに取り組んでもらいたい。

――今後、さらに甲状腺がんが発症してくる可能性は高い…。

菅谷 事故後、最初に甲状腺がんが見つかった時、福島医科大学の鈴木真一教授は「チェルノブイリでは4年後に発症したから今回の発症は原発と関係ない」とはっきり言われたが、それは間違っている。チェルノブイリでも事故後1〜2年での発症例がある。さらに新たに2人が甲状腺がんと診断された時も鈴木教授は「検査の性能が良くなったため、元々あったものが見つかったのであり、事故とは関係ない」と言っている。しかし、それではこれまで100万人に1人〜2人といわれていた、小児甲状腺がんの国際的発症率の通説自体が崩れてきてしまう。福島で検診したのは約4万人で、そのうち既に3人が発見され、かなり疑わしいとされている7人のうち1人でもがんと診断されれば、発症率は1万人に1人だ。100万人に1人だった通説が一気に1万人に1人になることなど、まず有り得ない。今後5〜10年後にさらに何らかの影響が出た場合に、国内で大きな問題になることは言うまでもなく、海外からは確実に馬鹿にされるだろう。

――政府が隠蔽に隠蔽を重ね、結局何十年か経って非を認め、最後には莫大な損害賠償問題に発展していった水俣病の問題と似ている…。

菅谷 事故後、小児甲状腺がんが3人も発症しているということは、大局的に見れば、放射性ヨウ素だけの問題ではなく、セシウムやストロンチウムなどの心配もしなくてはならないということだ。様々な放射性物質は混合してあちこちに飛散している。その影響が出てくるのが10年後、20年後であれば、それはまさに水俣病の問題と同じだ。しかも、放射性物質の場合は目に見えず、匂いもしない。知らないうちに浴びてしまうため、水俣病よりももっと大変だ。今でも汚染地域に住む人達は、毎日のように放射線を浴びている環境にある。甲状腺がんの疑いのある残り7人についても早急に治療をして、その結果によって再度、低・中度汚染地域にいる人達をどうするか、併せて除染の問題をどうするかを考え直していくべきだ。やや大袈裟かもしれないが、それくらいの危機意識を持って対応すべきではないか。

――放射能の高濃度地域の除染作業は実現不可能であり、税金の無駄遣いと思うが…。

菅谷 特に高度に汚染されている地域での除染は難しい。チェルノブイリでも費用対効果を考えて除染作業をやめてしまった。日本政府は「26年前のチェルノブイリと違って除染方法は進化している」と言って除染を進めているが、果たしてその方法できちんと除染されるかどうかを証明する手立ては何もない。むしろ除染作業をやめて、例えばそこに放射能の研究センターなどを設置するなどしたほうが良いのではないか。すでに福島復興のための研究開発にはかなりの資金が投じられているが、川べり、林、草むらなどを除染するのは結局手作業であり、しかも、作業を行っている人達は少なからず「こんなことをやっても意味がない」と考えている。こういった状況を政府はどのように考えているのか。言葉は悪いが、除染特需のような部分があるのではないのかと思ってしまう。これだけ言ってもやめられないのは、国の体制の問題もある。ベラルーシでは事故後すぐに国家非常事態省を設置して窓口を一本化し、そこに事故対策における多大な権限を持たせたが、日本では復興庁を設置したものの、結局、厚生労働省や経済産業省、環境省などすべてが縦割りになっているため全く前に進まない。前に進まないから福島の人達は政府に不信感を持ってしまう。

――最後に、原子力行政についてのお考えは…。

菅谷 今、原発は一基しか動いておらず、今年の冬も非常に寒かったが、特に大きな問題など生じていない。昨夏は非常に暑かったが、原発ゼロでもなんとか大丈夫だった。やろうと思えば原発がなくても生活できるということだ。痛みを伴うかもしれないが、本当に国民が原発を続けることに対して心配しているのであれば、とりあえず一回原発なしでやってみて、駄目だったらまたそこから考えればよいというのが私の考えだ。安倍現政権は原発推進の方向に舵を切っているようだが、私は全国各地から原発に対する心配のお電話をいただく。原発そのものに対して大方の日本人がやめた方が良いと考えているのであれば、その意思を尊重すべきだ。日本人の優れた開発能力や高い技術力があれば、代替エネルギーをみつけることはそう難しくないはずだ。除染や原発よりも、むしろそういった技術開発にお金をかけた方がよいのではないか。(了)