中国とは『政熱経冷』の関係を

中国とは『政熱経冷』の関係を

翻訳家
政治・経済評論家
徳川宗家19代目にあたる
徳川 家広 氏



聞き手 編集局長 島田一

――中国をどのように見ているのか…。

徳川 一番重要なことは「中国」と「中国人」は違うということだ。中国人の大多数は、貧しく、教育も乏しい。昨年、中国では反日暴動が相次いだが、暴動を起こした中国人の中には日本がどこにあるのかも知らない人もいただろう。格差が拡大していく中で、貧しかったり、失業状態にあったりする数多くの不平分子が、不満の表現方法として暴動に走ったというだけのことだ。そのような暴動でも、反日と謳っている以上、テレビなどで報道されれば、日本人が不愉快に感じるのは当然だ。だが、そもそも怒ってもしょうがない相手だ。いっぽう、中国国家となると、デモクラシーでないということもあって、話が全然違って来る。中国は非常に現実的で慎重な国であり、日本と良好な関係を持つことが有利だと理解している。ただし、向こうから頭を下げるわけにもいかない。国民の目に、中国政府、共産党が弱いと映ってしまうからだ。私自身は、中国という隣国とは仲良くした方が良いと確信している。大気汚染などは典型的だが、中国は自力では解決できない様々な問題を抱えており、それらに関して協力を拒み続ければ、結局、被害は日本にまで及んでくる。

――中国経済についての考えは…。

徳川 一人当たりGDPは、どんなに頑張っても日本の3分の1くらいが関の山ではないか。官僚の腐敗がひどく、国民の騙し合いが当たり前になっている中国では、知的財産権も必然的に脆弱だ。だから、技術開発をじっくり進めることは難しく、仮に新技術の開発に成功したところで、その特許がきちんと守られるかどうかも怪しい。そうなると、特許を取れるような最優秀の人材は、中国で頑張って特許を取るよりも、米国や日本に行った方が良いということになる。この技術革新力の「天井」が、中国の経済成長の最大の障害だと思う。日本企業がASEANへの進出を拡大している今、製造拠点としての中国の重要性も低下している。一人頭の購買力が中進国レベルで頭打ちで、人件費が割高となると、少なくとも経済面では、中国は日本にとって、それほど重要ではない。一方、中国としては日本の技術や信頼性の高い日本製品を必要としている。こうした現実を踏まえて、企業は中国との関係では、相手を助けようとか友好のためにとか余計なことを考えず、儲かる案件は続けて、儲からない物は切るという、現実的なスタンスで臨むべきだ。友好は政府にまかせておけばよい。

――「政冷経熱」ではなく、「政熱経冷」だと…。

徳川 中国は一昨年、胡錦濤前政権が最低賃金を倍以上に上げて、外資にそれを被せてしまった。それでも日本がその後2年ほど中国に踏みとどまっていた理由は、そもそも最初に中国に進出した際に、日中友好のお題目を信じていたり、あるいは日本政府、政治家、省庁からそんなことを吹き込まれていたりしたからだろう。だからこそ、中国に裏切られたという思いも強くなる。日本企業はもっとクールにビジネスをすべきだと思う。第二次世界大戦の埋め合わせもあって中国のために何かをしてあげたいと考える日本人はかつて多かったし、今でも本当のところは少なくないと思うが、ビジネスに関してはその気持ちを脇に置いておいたほうが、日中双方のためだ。歴史認識問題は重要だが、それはまずもって、第二次大戦における日本国家と日本人の間の問題であって、内政問題だと思う。日本が中国に何をしたかはもちろん重要だが、その前に日本国家が日本人をどれだけ無駄に死なせたかを見つめなくてはならない。

――尖閣諸島問題もなかなか落ち着かないが、日本の安全保障は大丈夫なのか…。

徳川 中国としては、人口の大半が生活に不満を抱え、内陸部には分離独立の動きがあるとあって、海を越えた敵との戦争はあまりにコストが高い。いや戦争どころか、軍事的緊張の高まりからインフレになることでさえも、中国にとっては耐えられない。そう考えると、中国が日本に対して攻撃してくることは考えられない。仮に攻撃してくるとすれば、それは日米が中国を攻撃すると、中国側が確信した時だけだ。日本としては、中国側が日米同盟を恐れているという事実を理解しなくてはならない。中国に対する否定的な世論が日本で沸騰していたとしても、少なくとも政治家、特に閣僚の方々は冷静な対応をしなくてはならない。安全保障面から見た日中関係で大切なのは、軍事衝突ではなしに、公害や感染症の問題、そして国境を越えた犯罪問題など、むしろ両国が協力し合える問題点だ。これらについて、緊密な情報交換と協力が出来るような協力体制を日中間で築くことだ。

――日・米・中の貿易関係については…。

徳川 日本は一貫して対中で貿易黒字を出している。つまり、日本人は安いだけの中国製品をあまり必要としていないということだ。一方で、米国では貧困層の増加により安価な中国製品が飛ぶように売れており、そのため中国には巨額のドル建て外貨準備が生じてしまった。そして、ドルが価値の高い国際通貨だと信じている日本は、ドルを豊富に保有する中国をビジネス相手として重要だと考えている。つまり、ドルの循環の中に日本と中国の経済関係はあるということだ。しかし、私はここに大きな疑問を持つ。米国経済はボロボロだ。特に財政問題は深刻で、政治的な分裂がそれに拍車をかけている。しかも貿易赤字はものすごく大きい。そうした米国の現状を考えると、ドルはいつ価値がなくなってもおかしくない。いや、ある朝、新聞を開いたら「アメリカ消滅」と大きく出ているかもしれないほどだ。そんなアメリカの通貨ドルを「買い支え」しているのが日本の現状だ。

――日本は敗戦後、米国の軍事政権下に置かれて高度成長期を迎えた。そういった経験から、米国の言うことは正しいという観念から抜け出せない日本人が、特に年配者に多い…。

徳川 確かに、日本人がアメリカを仰ぎ見る感覚は、敗戦からオイルショックまでの期間で、日本人の心身に刷り込まれてしまった。その結果というわけか、日本の政治家が米国に気に入られようとして言いたいことを言わないため、米国側としては日本人の本心がわからずに困惑しているという話はよく耳にする。また、マスメディアが米国の悪いことを言わないというのも大きな問題だ。アメリカが強いという思い込みから、日銀のドル過大評価政策が変わらず、さらにいえばドルを稼ぐ能力だけが高い輸出企業の発言力が過大になってしまう。今の日本では、円高によって家電会社が1〜2社潰れたとしても、国難というわけではない。もともと工業製品の国内での供給は過剰なのだ。だから無理をして輸出しなければならず、そのために日銀がドルを高値で引き受ける。アメリカの貿易収支については、シェールガス、シェールオイルが希望の星だという議論はあるが、これもどこまで信じてよいのか……。

――安倍新政権についての感想は…。

徳川 長老も重鎮もいない、軽量内閣。ただし、菅官房長官が極めて有能なので、ミスはない。だが、それも株高で世論が好意的だからこそだ。内閣の本当の目玉は麻生財務大臣兼金融大臣だと思う。財政と金融が一元的に監督される、かつての大蔵省への回帰ではないのか。だとすれば、金融規制も成長重視すなわち政府歳入重視という視点から緩くなって、銀行の貸し出しも増えていくだろう。これが日銀の金融緩和と合わされば、確かに景気は上向く。だが、それは結局バブルにしかならず、国民全体の生活水準が上昇する本当の経済成長には繋がらない。

――その点で、日本の政府がやるべきことは…。

徳川 最大の経済問題は、これは日本に限らず世界中が同時に直面している問題だが、雇用の確保だ。果たして今のGDPを実現するのに、国民全員がきちんと雇用されている必要があるのか。私はないと思う。機械があり、ITがある。ITが普及するとともに、ホワイトカラーの仕事がどんどん必要なくなっていく。また、今では細かな手作業まで再現可能なロボットが出て来た。そこまでIT技術は進歩してしまった。同じGDPを生み出すのに必要な労働者が減り続けているのであれば、企業が製品を売りさばくためにも、ワークシェアリングやベーシックインカムといった話が現実味を帯びてくる。そういったことを言うのは今の日本では異端中の異端かもしれない。だが、思い切った再分配を考えないことでは、日本が今後、再び高度成長に戻ることはもちろん、低成長も覚束ないであろう。政策的にすぐに出来ることは、将来のない輸出企業の救済ではなく、福祉と再分配を充実させることだ。しかも選挙の票を気にして高齢者にお金を注ぐのではなく、未来を支える若者やシングルマザーへの支援をもっと手厚くする。企業救済に5000億円もの資金を投入する余裕があるのならば、生活保護を増やす。内需を大切にして、購買力を支えるためにも、福祉の充実が重要だと私は考える。(了)