大胆緩和は世界経済の利益

大胆緩和は世界経済の利益

財務官
古澤 満宏 氏



聞き手 編集局長 島田一

――4月から財務官に就任された…。

古澤 失われた20年と言われる時を経て、これから日本経済が上向くであろう時に財務官に就任できたのは光栄なことだ。我々が取り扱う問題はボーダレスであり、もはや日本だけで完結する問題ではない。絶えず世界経済全体のことを考えながら、色々な政策を作っていかなくてはならない。厳しい時代も、明るい時代も、状況を理解していただくための説明、説得に努めることに変わりはないが、そういう意味では、今の明るい雰囲気の中で仕事に取り組めるのはラッキーだったと思う。

――黒田日銀総裁とは、仕事上で28年前からの付き合いということだが…。

古澤 私は黒田日銀総裁が大蔵省国際金融局国際機構課長だった頃に国際機構課補佐を務め、総裁が財務官だった時に財務官室長や国際機構課長を務めるなど、非常に近い場所で一緒に仕事をしており、よく存じ上げている。よく、インタビューで「手の内がわかりすぎて、やりにくくないですか?」と聞かれることがあるが、そういったことは全くない。もちろん、私がそう思っているだけで、黒田さんはそうではないかもしれないが(笑)。

――黒田緩和といわれる大胆緩和で円安・株高になり、国民は喜んでいるようだが…。

古澤 金融の大胆緩和については長い間IMFや国際社会から提言されていたことであり、それにより日本経済がきちんと立ち直ってくれることが、世界経済の利益になる。それをマーケットも好感しているということだろう。

――一方で、円安になりすぎるのを不安視して、「やりすぎだ」というような声もあるが…。

古澤 日銀の金融緩和は日本国内の目的のためにやっているのであり、為替を目的にしている訳ではない。これはG7、G20の合意にも沿ったものだ。為替はマーケットがそう反応しているだけであり、介入しているわけでもない。その辺りは既に国際社会からも理解していただけていると思う。日本がすべきこと、すべきと言われ続けてきたことを、ようやくだが実行していることを受けて、株にしろ、為替にしろ、マーケットが反応しているということだ。

――これ以上の円安方向になってくると、100兆円もの外貨資産が積み上がっている外国為替資金特別会計の使い方を市場は先読みしてくるが…。

古澤 基本的に外為特会は為替の安定のために保有している訳であり、例えば産油国のように、石油収入が潤沢であるからというような理由で使用できるようなお金ではない。政府短期証券を発行して市場からお金を調達し、それがドルなどに変わっているというだけのものだ。それは市場でもご理解いただいていると思う。また、現自民党政権の考え方は、そのうえで、例えば海外展開支援融資ファシリティなど、為替の安定に資する施策に利用していくということであり、決して、今ある資金をむやみやたらに大きな投資などに使って、その結果、たくさん稼ごうというような考えではないと思う。石油収入などが豊富にあるような国とは違い、我々は市場から借金をして、外貨建て資産を持っているというだけの話であり、その目的は限られている。

――4月下旬のG20前に米国で発表された為替報告書では、日本の一段の円安進行をけん制する内容が記されていたが…。

古澤 個々の記述についてコメントすることはない。繰り返しになるが、日本はG7、G20の合意に沿って国内政策を行っている訳であり、為替を目的にしているわけではない。それはこれまでもずっと言ってきており、これからも言い続ける。米国が主要通貨である円の動向を注視するというのはある意味では当然のことであり、それだけのことだ。もちろん、それは人のことを全く考えずに独自の政策を貫くということではない。現在のボーダレスな環境において、GDP世界第3位の国である日本の色々な政策が、諸外国や世界経済に対して影響を与えうることは当然であり、その辺りについてはきちんと認識し、必要があれば他国に理解を求め、意見交換をしながら進めていくべきだと考えている。それはどの国の政策についても同じであり、実際に私がIMF(国際通貨基金)の理事だった頃は、当時のFRBの政策をめぐって常に色々な議論が行われていた。各国の政策や経済状況については、IMFの場であれ、G20の場であれ、常に議論が行われている。

――BRICS開発銀行の創設について各国間交渉が進んでいるようだが、実際に設立された場合、IFMやG7との関係は…。

古澤 BRICS開発銀行創設の全体の仕組みや資金規模が不明なため、今の段階では何ともいえない。何を目的に、どれくらいの資金規模で、どういったところに資金を提供していくのかといった具体的な形がはっきりしていなければ、それが与える影響についてもわからない。例えば、IMFは地域の仕組みと協調していく方針だ。欧州危機における救済状況を見ても、資金援助の大部分はEUが出し、残りをIMFが出すという割合になっている。もちろんIMFの中立的な分析は非常に役立つもので、だからこそEUもIMFとの協調体制を求めている。また、アジアにおいてはチェンマイ・イニシアティブが、多国間通貨スワップ制度としてIMFと協調している。さらに、アジア開発銀行についても、この地域における重要性は非常に高く、引き続き必要なものだと考えている。BRICS開発銀行が設立された場合、他の機関とどのような関係になっていくかは、すべてその仕組み次第だ。

――ASEANは急成長している。これがさらに発展し、例えばEUのような巨大組織となり、ユーロのような単一通貨が出来るような可能性は…。

古澤 ご承知の通り、ユーロは長い歴史を経てようやく実現された。しかし、今でも、ユーロが出来たことによる新たな問題や軋みが出てきている。アジアが将来的にEUのような組織になるかどうかはわからないが、日本としては、チェンマイ・イニシアティブ等のセーフティネットの仕組みを整えたり、アジアにおける債券市場発展のための取り組みを進めるなど、世界経済の成長の一翼を担うアジアの成長と安定のため貢献していきたいと考えている。(了)