資産運用には基本が大事

資産運用には基本が大事

野村アセットマネジメント
CEO兼執行役会長兼社長
岩崎 俊博 氏



聞き手 編集局長 島田一

――株式相場の環境が上向いている…。

岩崎 今のような金融相場では、不確実な期待値が高まることで上昇しやすい株が増えてくる。今後それらの企業業績がどのように変化するかわかりにくい中で、我々のアクティブ運用は其々のベンチマークを上回るという目標があるため、そのような上昇にもしっかりと対応していかなくてはならない。市況が改善し、お客様のポートフォリオが改善していることはプラス材料だが、我々は下げ相場と同様に上昇相場においても常に緊張して良いパフォーマンスを目指さなくてはならない。

――運用が大変だと…。

岩崎 資産運用業務で最も重要なことの一つは、高いパフォーマンスを継続的に提供させていただくことだ。換言すると、優秀で多様なポートフォリオマネージャーを揃えることだ。優秀なポートフォリオマネージャーを外部から雇ったり、内部で育成したりして、実現させている。例えば、ヘッジファンドの運用戦略を増やすことを考えた場合、米国で債券のヘッジファンドをやろうと思えば現地で経験を積んだ人を雇ったり、日本株のヘッジファンドをやろうと思えば社内でポートフォリオマネージャーを育てるなど、個々の得意な能力を多面的に取り込むため様々なやり方をしている。大事なことは、我々が優秀なポートフォリオマネージャーにとって魅力的な組織であり続けるということだろう。

――商品で力を入れていくところは…。

岩崎 良い商品があれば世界中の顧客から受け入れられる。高いパフォーマンスの商品を、どのように作っていくかを常に考えていかなくてはならない。例えば、年金の運用では3年超のトラックレコードからパフォーマンスの優劣を判断されることが多いが、高いパフォーマンスを出し続けることは非常に難しく、こうすれば出来るという秘訣のようなものはない。また、一過性の人気と継続的なパフォーマンスは違うものだ。例えば、株式が上場する時に大変な人気だった銘柄であっても、必ずしもそれが何年も長続きする訳ではない。如何に様々な特性のある株式を組み合わせて継続的な良いパフォーマンスに繋げるかが大事なのであり、それには経験と優れた分析が必要だ。そこで、我々はパイロットファンドを組成し、社内で実績を積んでいる。その中で自信を持ってお薦めできる運用戦略マネージャーを残していく仕組みを取り入れている。それぞれのポートフォリオマネージャーの得意分野を十分に活かし、色々なアイデアを出して試行錯誤しながら、良いものを残していく。このようにして、常に高いパフォーマンスを実現する仕組みを作り、お客様にご満足いただくことを目指している。

――日本はもちろん、シンガポールでアジア株を中心とした運用体制を整備している…。

岩崎 シンガポールには様々な国籍の人がいて、かつ、ビジネスは英語で行われているため、情報を収集するのに圧倒的に有利な環境だ。国の政策として金融市場の発展に力を入れているため、運用会社や金融機関にとって恵まれた環境が整っている。弁護士や会計士も高いレベルで揃っているのは、アジアでは日本かシンガポールだろう。我々の海外展開について言えば、すでに米国、英国、ドイツ、シンガポール、マレーシア、インド、香港、中国、UAEに現地法人や調査拠点を設立している。現在の我々の運用資産額はリテール、機関投資家を合わせて約30兆円。機関投資家の約4割は海外だ。今まで海外で基本的に機関投資家向けの運用サービスを行っているが、徐々に海外でのリテールビジネス拡大の必要性も感じており、そのための準備も進めている。例えば、海外で広く我々の商品を提供していくために、既にアジア内でも残高が積みあがってきているUCITS(欧州域内で投資信託を流通させるための統一規格)は我々も更に仕掛けることが出来ないか、というようなことも考えている。

――日本の投資信託の運用残高は欧米などに比べて著しく少ないが…。

岩崎 日本の投資信託残高が約70兆円であるのに対して、米国は約1100兆円と、この20年で大きな差になっている。投資信託の残高が大きく伸びている国々の多くは様々な制度を工夫しており、例えば、英国のISAや米国の401(k)、豪州のスーパーアニュエーションなどがある。これらを参考に、日本独自の制度を拡充したり、新たに作ったりしていく必要があるのではないか。人口1億2600万人、GDP世界第3位、個人金融資産第2位の日本の投資信託残高が、人口や個人金融資産が少ない国々の投資信託残高よりも少ないのは、制度の影響があると思う。その意味で来年から始まる新制度、少額投資非課税制度NISAには期待している。個人のお金が「貯蓄から投資」へと動き、産業資金として供給されれば、その企業は活性化し、利益を増やすことで株価が上昇し、結果的に投資家としての個人に還元され喜ぶという好循環が中長期に起こりやすい。実際に米国では401(k)、豪州ではスーパーアニュエーション、英国ではISAで好循環が起こったと言われている。NISAの導入で顧客からはさらなる満足度が要求されると思うが、お客様が望む商品はどういったものなのか、販売会社とも意見を交換し合いながら作り上げていく。一方で、NISAの成功のために、個人投資家に幅広く制度が利用され、日本においても「投資」が根付いていくように、運用会社の立場から貢献していきたい。

――日本では、株よりも国債に資金が回っていく仕組みになっている…。

岩崎 金融機関は国内の融資が伸び難い昨今、世界的にバーゼル規制・ボルカールール等の金融規制も強化されてきていることもあり、預金が増えるとリスクウエイト等を鑑み、国債で運用をしてきた。つまり、預金が伸びると国債を購入する構造になってきていた。しかし、資金の流れを預金ではなく投資信託に向ければ、国債を購入する必要性は低下するということになる。多くの金融機関が取り扱うNISAや確定拠出年金は、投資信託への資金移動という流れを生み出すことが期待され、その流れは金融機関の資金運用の行動を変える可能性があるだろう。個人金融資産における「貯蓄から投資」の流れを期待したい。また、金融審議会で提案され、今国会で審議されている投信法改正を含む「金融商品取引法等の一部を改正する法律案」についても、それによって個人のお客様に有価証券投資の理解を深めていただけるものだと我々は積極的に捉えており、これまで同様にしっかりと対応していきたいと考えている。

――最後に、CEOとしての抱負を…。

岩崎 まず、お客様のためにパフォーマンスを継続的に良くする、同時に様々な金融制度などの変化に対応していく、といった基本的な部分が一番大事だと考えている。もちろん非オーガニックな成長も視野にあり、我々は常にオープンマインドで様々な準備はしている。しかし、それにかまけて足元のことが疎かになるようなことはしない。アセットマネジメントビジネスは基本的には残高を積み重ねていく非常に地味なものだ。市場のボラティリティが高まると、証券会社の損益の変化幅は運用会社の何倍もあるというイメージだ。我々の今行っている運用や施策の結果が出てくるのは未来だ。その時のために、今後ともお客様、運用に対して忠実であり続けるとともに、様々な変化を感じて先取りしていきたいと考えている。(了)