コンパクトシティで地価上昇

コンパクトシティで地価上昇

富山市長
森 雅志 氏



聞き手 編集局長 島田一

――富山市でコンパクトシティの取り組みが進んでいる…。

 私は平成14年1月に富山市長に就任した。そして若い職員らと議論する中で、人口減少時代に突入することが確実な今の時代に、これまで地方都市が進めてきた拡散型の街づくりを続けていては、将来市民の行政維持管理コストが増すばかりだという話になった。拡散型の街づくりでは除雪エリアもごみ収集エリアも広がり続け、そういった行政負担は若者が負担することになる。そんな不安が潜在している場所に若い人達を呼び込むことは出来ない。そこで平成15年に本格的にコンパクトシティへの取り組みを始めた。富山市のコンパクトシティへの取り組みは、高齢者のためというより、若い人達の将来の安心のためともいえよう。日本の自治体で最初にコンパクトシティの概念を取り入れたのは青森市で、富山市は2番目だと認識しているが、青森市のように郊外開発を規制するやり方ではなく、我々は富山駅に集結する公共交通の利便性をさらに向上させて中心市街地を活性化させることに注力した。

――具体的には…。

 中心市街や駅・電停から500メートル、或いは1日60本以上走るバス停から300メートル以内を居住推奨エリアと位置づけ、その地域内に住む人達に補助金を出している。例えば中心商店街や中心市街地に質の良い集合住宅を建てた建築業者には上限5000万円で一戸当たり100万円。住宅を購入した市民には、住宅ローン利用者に限り一戸当たり50万円という具合だ。結果、推奨エリアの居住率は平成17年の28%から、現在では31%に増加した。目標は20年後に42%にすることであり、これは決して郊外居住を否定するものではない。目標数字の達成によって将来の行政運用管理コストの増加を抑えることが目的だ。また、富山市在住の65歳以上の方が公共交通機関を利用して市内各地から中心市街地まで移動する際には、市が1枚1000円で発行する年間会員制ICカード「お出かけ定期券」を使えば1乗車100円で乗車が出来るシステムを作った。岐阜県との県境ほどの遠いところから乗車しても降車するのが中心市街地であれば100円、帰りも中心市街地から乗ればどんなに遠くまででも100円だ。利用時間は9時から17時までに限られるが、日中の地方都市のバスなどほとんどが空気を運んでいるようなものであり、その間に高齢者が街に足を運び、お金を使ってもらえば、経済の活性化にも繋がってくる。

――「お出かけ定期券」の効果は…。

 「おでかけ定期券」を提示すると、市の文化施設や体育施設を半額で利用出来たり、商品が割引になるというような特典もある。現在、要介護認定を受けていない高齢者の約25%、約2万3千人が入会しており、1日平均2700人が利用している。単純計算すれば毎日2700人の利用で民間の交通機関には年約8千万円強が入り、さらに市から交通機関への補助金約5千万円を合わせれば1億3千万円の収入となる。市には年間ICカードの売上金が年2300万円入ってくるため、交通機関への補助金5000万円は実際には2800万円で済む。また、中心市街地の活性化と回遊性向上を目的とし、既存の市内電車の一部を延伸して都心部に路面電車のサークルをつくりだしたことで、中心市街地に買い物に来る人は飛躍的に増えた。平成18年度まで減少傾向が続いていた市内電車の利用者数も増加に転じ、特に高齢者の女性を中心に環状線が日常の移動手段となってきている。目的はほとんどが買い物であるため平成22年度に比べて環状線利用者の消費金額は2割近く伸びた。また、車ではないため滞在時間も伸び、さらに飲食店でのアルコール販売額も伸びている。高齢者の財布が緩むということは、今の日本経済にはとても重要だ。

――市民の反応は…。

 もちろん、さまざまな反対意見はある。だからこそ、最初にその妥当性について熱心に説明会を行い、しっかりとした議論を行った。その結果、「しかたない」という消極的支持も含めて、今では8割くらいが賛成してくれている。将来増税されるより良いという御理解なのだろう。実際に、もともとはJRが保有していた線路をブラッシュアップして敷設したLRT(次世代型路面電車システム)は、エリア周辺に住む人達の生活を格段に便利なものにした。65歳以上は100円という安価で乗車できるため、老人の昼間の外出が増え消費にもつながった。なにより、家に閉じこもりがちな老人に外出機会を作ったことは、将来の医療費にも影響してくると思う。中心市街地の真ん中にはガラスの天蓋で覆われた広場を作って魅力的な都市景観を演出し、その中にオープンカフェや子どもたちが自由に絵を描ける場所や音楽を奏でる場所などを作り、毎週様々なイベントを催している。

――パリのヴェリブのような自転車貸出しや、花束を買って電車に乗ると無料になるようなお洒落なシステムもある…。

 富山には製造業や薬業を中心にしっかりとした産業基盤がある。その企業や工場、研究所などに勤める会社員の奥様方にも喜んで住んでもらえるような、お洒落な街にしたいという考えがベースにある。また、その他にも高齢者の運転事故防止のために65歳以上の高齢者で運転免許書証を返納した人には2万円の公共交通の利用券を発行するなど、様々な取り組みを行い、車依存の生活から歩いて暮らせる街への変革を進めた結果、中心部と公共交通の沿線に高齢者が集まってくる現象が出てきた。中心市街地の歩行者数は劇的に増え、民間企業が投資した中心部のマンションは完成前に全て完売状態となり、その結果、中心部の地価が上昇してきた。これは非常に重要なことだ。金沢と福井の北陸3県で比較しても、昨年の地価調査で上昇ポイントが4ポイントもあったのは富山市だけで、他県は1ポイントもない。リーマンショック以降、市民税収入が減少傾向にある中で、反射的に固定資産税と都市計画税は増えており、しかもその22.3%は面積比0.4%の中心市街地が負担している。つまり、固定資産税を増やすためにも中心市街地への投資が効果的だったということだ。

――最初から、地価が上昇することを見込んでいたのか…。

 中心部ばかりに集中投資することへの批判はあるが、中山間地域の林道を市街地並みに舗装したところで一円も生み出さない。林業は産業として必要な範囲での投資を行えば良く、集中投資は地価の一番高いところにすべきというのが私の考えだ。実際に、投資した中心部にはマンションが続々と出来て、長らく転出超過だった住民数が転入超過になった。富山市全体の小学生数が減少していても中心地域の2校に限っては増加している。そこで昨年から、市の負担でこの2校にだけネイティブ・スピーカーの英語教師を加配することにした。そうすると、親はますますその学校に子どもを通わせたいと思うようになるだろう。私たちが行っていることは、見方によればかなり不公平なことだが、それくらい思い切ったことをやって中心部が活性化され、経済が動き、税収がそこから反射してくれば、その税収で中山間地域の特別な補助事業も出来る。公平感だけにとらわれて平準平均的に予算を使っても、砂漠に水を撒くようなものだ。

――昨年6月、富山市はOECD本部によるコンパクトシティ戦略の世界5都市のうちの1都市に選ばれた。どういったことが評価されたのか…。

 富山市は今後の東アジアが直面する人口減少・高齢化という街のモデルになり得るという評価をいただいた。人口減少が止められないのであれば、少しでもその速度を遅くしたり、税収を減少させないような工夫が必要だ。私は、しっかりとした産業基盤がある中で、きちんとした志を持って生活している人達が集まる街を作っていくことが、人口減少時代の地方都市の目指す方向だと思っている。富山は26年度末に北陸新幹線が開通し、その数年後に北陸本線等が高架化される。我々はその時に合わせて新幹線と南北のLRTを駅内で接続させ、すべて地上の交通網で富山市内隅々まで移動出来る都市にしたいと考えている。利益重視の民間交通機関は利用者の少ない場所に駅は作らない。そうすると最後には路線が廃止され、高齢者にとって住みにくい環境になる。だから思い切って公費を投入する。そして、固定資産税も減価償却も金利負担もない市保有の設備を民間が借りて運行し、利益の出た範囲で市に賃料を払い、その賃料で市が修繕などを行う。こういったスキームを実施するための公費投入は生活者のために妥当なことなのだという議論をこれからもしっかりと行い、住民の皆様にご理解をいただきながら、富山コンパクトシティ戦略をさらに進めていきたいと考えている。(了)