政府系金融機関の改革成功例に

政府系金融機関の改革成功例に

地方公共団体金融機構
理事長
渡邉 雄司 氏



聞き手 編集局長 島田一

   ――理事長になられて早や9年目。あっという間だ…。

渡邉 公営企業金融公庫時代から通算して、正確には8年8カ月。その間、国の機関だった公営企業金融公庫が地方共同法人になり、国の資金供給を補助するという役割から、地方の共同資金調達機関となった。ガバナンスや機構の性格そのものが変わっていく中で一番問題だったのは、それまで政府保証債で調達していた資金を、信用力を維持しながら自前で調達しなくてはならないことだった。設立当初はリーマンショック直後で若干の問題はあったものの、金利の低下と質への逃避が我々に幸いし、債券市場は基本的にフォローに作用してきた。「地方の、地方による、地方のための機関」として色々な事を行い、順調にここまできたのは、やや自画自賛かもしれないが、政府系金融機関の制度改革の成功例と言って良いと思う。

――設立当初はスプレッドも随分拡大していたようだが…。

渡邉 リーマンショック直後のスプレッドは30bp近くで地方債とは10bp程度の開きがあったが、それも間もなく縮小し、2年程前にはついに地方債と同等のスプレッドになった。ここ半年間は地方債がさらにタイト化したため0.5bpの差になっているが、実質的な信用力は全く同じだ。一方で、リスクウェイトに関しては地方債がゼロなのに対して我々は10%となっている。信用力や債券の償還能力に限定すれば、貸付先は全て地方公共団体であり、かつ、最終弁済については地方公共団体が責任を持つことになっているため、純粋にリスク面だけを考えれば実態的には地方債と変わりはなく、それは金融庁にも申し上げているのだが、課税権の有無や法的な位置づけなど、形式的な要件の違いが反映されているということのようだ。

――資金調達手段の多様化も進んでいる…。

渡邉 当機構の債券発行額は国内では国債に次ぐ規模であり、市場で認知いただいていることから、債券市場の環境が良好な時期は苦労なく調達できる。しかし私は金融業界での長い経験から、現在のように良い状況が永続的とは言えないことも知っている。だからこそ厳しい環境に備えて、環境が良い間に出来る限り発行形態を多様化させ調達ツールを増やし、投資家層を拡大して、どのような状況になろうともきちんと調達できる状態にしておきたいと考えている。まずは市場環境に関らず10年債と20年債を毎月コンスタントに発行し、さらに状況を見ながら5年債や15年債を、そして、未だ発行歴の無い30年債もある程度出していけたらと考えている。また、機構独自の仕組みであるFLIP(Flexible Issuance Program)にも取り組んでいる。これはある種テーラーメードのようなもので、非常に信用力が高く発行量が多い発行体でなければ出来ないのだが、3年程前から始めたこの商品は大ヒットとなっている。さらに2年前からはユーロMTNのプログラムを設定して私募債のような外債を発行した。昨年9月と今年2月にベンチマークサイズの非政府保証外債を、そして今年3月は1億豪ドルのユーロMTN個人向け豪ドル建て5年債を発行した。当機構はこれまで政府保証債をコンスタントに出していたこともあり、日本の公的機関としてはかなり認知度が高いほうだと思うが、PRも兼ねて、今後個人向けについて可能な限りコンスタントに発行していきたい。また、ベンチマークサイズの外貨建て公募債についても少なくとも年1回、可能であれば年2回のペースで定期的に発行して海外投資家の皆様にもきちんとアピールしていきたいと考えている。国内外、政府保証有り無し、ベンチマークサイズの公募債、私募債、FLIPと、これだけ多様なものを取り揃えてコンスタントに発行しているところは政府系機関に限らず民間でもあまり無いと思う。そういう意味で、ようやくストレートボンドの分野では最先端を走れるようになってきたと感じている。これらを引き続きコンスタントに発行すること、そして、ユーロMTNの米国市場での募集などが今後の課題となろう。

――CPについては?また、金利リスクへの対応は…。

渡邉 我々に必要な資金は基本的には長期資金であるため、今の状況であればCPなど短期債の必要は無いと考えている。ただ、シンジケートローンについては債券と同等条件で調達できるのであれば考えても良い。当機構の基本的モデルは10年調達で、最長30年の貸付であるため、現在のような超低金利時には10年後の借り換え時の金利がどうなるかが一番気になるところだ。もちろん、機構には公庫から引き継いだ十分な金利変動準備金が有り、金利変動リスクへの備えは万全と考えるが、それだけに頼るのではなく、金利リスクコントロールのためのALMが重要な課題と考えている。この点については、地方の機関になってすぐに金融工学のプロフェッショナルなどに協力を求めて10年調達・30年貸付という機構のモデルに合ったALMについて検討を重ねてきた。現在は長期債券市場も拡大し、FLIPでは期間のコントロールも可能なため、デュレーションギャップを上手くコントロールしてリスク管理を行うことが出来るようになり、それはかなり厳しい金利上昇のストレステストを行っても耐えうるものだ。もう一つ申し上げたいのは、当機構の経営の効率性だ。貸出残高22兆6000億円に対して、当機構の従業員はわずか90人。総資産経費率は1bpにも届かない。これは、民間銀行や他の政府系金融機関と比べても1ケタ以上違う驚異的な数字だ。

――今後の抱負は…。

渡邉 当機構は、「地方の、地方による、地方のための機関」として努力し、地方に多額の融資を行っているが、残念ながら我々の存在はあまり知られていない。各団体はもっと財政状況の健全化や効率化を真剣に考え、地方債についても実はそれが借金であり減らす方向に努めなければいけないという意識を高める必要があると思う。そういった部分で我々が出来ることは何かと考え、3年前から、ファイナンスに関する研修やアドバイス、情報提供などを行う地方支援業務を始めた。要請があれば地方に出向き、市町村の担当者を集めてファイナンスの初歩について講習をしたり、個別にアドバイスをしたりしている。この業務に対する地方のニーズは、年々高まっている。地方公共団体の財政健全化に対する意識が高まる中で、この数年、地方債市場に限らず色々なところで自由化が進んできた。そのため、資金調達だけでなく運用面でのリスク問題も含めて、こういった知識の必要性を皆さんが感じていらっしゃるのだと思う。今年度はこの地方支援業務を1つの「部」にしたところであり、活動をさらに活発化していく予定だ。今後の抱負としては、本当の意味で地方の役に立つということしかない。人の役に立ち、利用されて、それが評価される。これは官民問わず、組織の基本だと思う。(了)