電力ビッグバンは柔軟な対応も必要

電力ビッグバンは柔軟な対応も必要

民主党
参議院議員
大久保 勉 氏



聞き手 編集局長 島田一

――電力業界の抜本改革についての議論が進んでいる…。

大久保 経済産業省がまとめた「電気事業法の一部を改正する法律案」をもとに、今回の法律で電力システム改革の第1段階が実施されることになる。これは、今年4月に閣議決定された「電力システムに関する改革方針」に基づくプログラム立法で、第2段階、第3段階の改革案まで法律に盛り込まれているものだ。具体的には、第1段階で2015年を目処に広域系統運用機関(仮称)を設立し、第2段階で2016年までに電気小売業の参入を自由化する。そして第3段階で2018年から2020年を目処に既存の電力会社を発電会社、送配電会社、小売会社に3分割し、料金規制を撤廃する。最終的に2020年に電力市場を完全自由化し、電力会社は法的に分離されることになる。

――この法律が金融界へもたらす影響は…。

大久保 電力の自由化が金融市場に与える影響は大きい。例えば2020年までに電力会社を3分割する過程で、その電力債の信用力が、発電会社の発行か、配送電会社の発行か、あるいは小売会社の発行かによって違ってくる。これについて経済産業省は、2020年以前に発行された電力債に関しては、電力債を継承するのが仮に発電会社だったとしても、その債務は発送電会社と小売会社が連帯して3つの会社で保証すると決定した。その決定を受けて、市場では長期の電力債の発行が増えている。同時に、投資家のリスク認識も、これまで同様に電力債が安全な債券として見られるようになってきているようだ。

――7年後に電力会社を3分割した後、それぞれの会社の信用力はどうなっていくのか…。

大久保 新規参入にはソーラーパネルの会社や鉄鋼会社、化学会社など主に発電する会社が予想されるが、どの会社も社債を発行することが可能で、信用力についてはすべてイコールフィッティングだ。2020年以前に出された債券については連帯保証が付き、2020年以降に出される新規の社債については一般担保がなくなる可能性が高いが、一般担保がなくなるための条件は、既存の電力会社の資金繰りが安定しており、電力の安定供給が担保出来るということが前提となる。もちろん、自由競争になれば電力債も一般の会社と同じでデフォルトの可能性が出て来る。今回の改正は、現在の電力体制が出来てから60年ぶりの大改革となる、いわば電力ビッグバンだ。そして、ビッグバンによる自由化が消費者にとって良くない面もある。

――電力の自由化がもたらす良くない面とは…。

大久保 例えば市場が自由化されて、会社が利益追求を最重視し、設備投資を抑えて古い設備のままで少しでも利益を上げようと考えれば、供給能力が足りなくなり、広域で停電が発生するリスクが出て来る。また、最終的に会社が3分割されることで、原発を持っている電力会社が原発の再稼動を出来ずに廃炉にせざるを得なくなる場合は、その会社が廃炉にするための十分な引当金をもたなければ、債務超過となり、その会社は事実上破綻することもあり得る。そこで今回の審議では、廃炉になる可能性のある会社には十分な引当金を積ませておくこと、そして、その引当金は電気料金に加算すべきというような議論が進められている。廃炉すべき原発を持ちながら引当金がなく、債務超過のまま自由化に突入すれば、既存の原発を保有する電力会社はその競争において絶対的に不利になる。そして既存の電力会社が潰れてしまった時に、その原発を廃炉にもできなければ、そこには社会的コストが発生してくる。原発の廃炉の問題や、公正な競争については、十分な議論が必要だ。さらに、電力料金の自由化が進めば、離島や山間、僻地の電力料金が上がる可能性も否定できない。その地域間格差におけるコストを、利用者が負担するのか、税金を投入するのか、その辺りは日本郵政の民営化や金融ビッグバンでの議論を踏まえて進めていかなくてはならない。

――第1段階で設立を予定している「広域系統運用機関(仮称)」とは…。

大久保 金融界で言えば東証のようなイメージだ。既存の電力会社および新規参入の電力会社の全員が運用機関の会員となり、その会員が出資して作る機関で、ここが日本全体の電力需給をコントロールすることになる。例えば、現行制度で50ヘルツと60ヘルツに分断されている周波数を、変換装置を増強して周波数の違う電力会社間での融通を行ったり、地域間での系統線を強くして、九州、四国、中国などすべてを連結させるようなことを行う。自由化をしようと思っても既存の各電力会社が送電網の使用を許さず、新しく参入した電力会社の送電料金が高いままでは意味がない。そこで、配送電に関しては全国にたったひとつの公益的な企業を置き、ここが自由化の中心的な役割を担うということだ。民間でありながらも準国営の独占送電会社が、公のためにしっかりと電力の需要と供給を行う。あとは、発電会社はこの機関に供給し、小売業社は色々なところで販売するというシステムだ。現在のような地域独占・総括原価方式のままでは、電力料金は原価プラス利潤で決まるため、コストを下げようというインセンティブが働かない。電力会社が調達コストを下げることで利益が出るような制度にしなければ、電力料金はいつまで経っても高いままだ。

――電力を自由化するにあたって、金融界が考えなくてはならないことは…。

大久保 電力会社に対する金融界のエクスポージャーだ。電力債および電力会社への融資金額は約25兆円あるため、自由化によって電力会社の資金繰りがおかしくなれば、金融界に不良債権の山ができるし、電力会社の資金調達コストが高くなれば、電力料金も高くなるという悪循環に陥る。最終的に電力会社が破綻すれば大手金融機関も破綻するかもしれない。裏を返せば、今までのように電力債が安心であれば、電力料金も低く保たれるということだ。現状を無視した急激な改革は、消費者にとって高い電力料金になって返ってくる恐れがあることを認識しておかなければならない。

――東京電力の行方は…。

大久保 東京電力は国が1兆円を出資している準国営企業だ。自由化することで東京電力が破綻するようなことにでもなれば国民の資産がなくなる。そういう意味では、国民の立場と東京電力の立場をしっかりと維持する必要がある。東電の最大の課題は、福島原発をはじめ、原発の廃炉をどのように賄っていくのかということであり、そのためには安全な原発を速やかに再稼動して、色々なコストを下げていくしかない。もちろん、原発による安全の確保については、第3者機関が世界で最も厳しい安全基準で精査している。それで安全が確認されれば速やかに再稼動するということだが、今回の電力システム改革も、原発再稼動を前提にするのかしないかによって全く方向性が違ってくる。原発の再稼動は、金融機関が東電へ融資する際の必要最低限の条件であり、投資家である金融機関にとって最悪なのは、原発は一切再稼動しないまま法的分離を強行し、電力を自由化することだ。つまり、東電の将来を見る上で一番大きな問題は、原発を再稼動出来るかどうかということになる。再稼動により利益が上がってくれば、流動性も良くなり、かつ、現在の総括原価方式のもと、かかった費用に対しては規制部門の電力料金に上乗せすることも出来る。ただ、原発の廃炉コストを回収していないうちに自由化になれば、既存の電力会社はそれがハンディになる。このため、今回の電力システム改革については、廃炉コストの問題や停電の問題、そして電力料金の問題などを十分に検証しながら、自由化へのスピードを遅くするというような柔軟性も必要だと考えている。(了)