広く社会に貢献する業界に

広く社会に貢献する業界に

日本公認会計士協会
会長
森 公高 氏


聞き手 編集局長 島田一

――会長に就任して2カ月経つが、実感は…。

 まずは約3万3千人の会員・準会員に、本部の考えを理解してもらうため、14の地域会に対して働きかけをしていきたい。対処すべき課題はいくつかある。公認会計士試験に合格しても就職ができないという、いわゆる未就職者問題は収束に向かっているが、公認会計士試験の受験者数が減っており、今後は受験者数を増やすことが課題となる。未就職者問題に加え、昨今の上場会社の会計不正問題により、監査事務所に対するネガティブな印象をもたれてしまい、公認会計士になることに魅力を感じなくなってしまったのではないかと思う。公認会計士が社会のさまざまな分野で貢献することで、やりがいのある仕事であることを訴え、受験者数を回復させていきたい。

――公認会計士は、資本主義経済にとって必要な割には日本では注目されていない…。

 公認会計士の社会的な認知は広がりつつあるが、まだ十分ではない。公認会計士は、経済の根幹である資本市場の信頼性を確保するという重要な社会的使命を担っているということを社会に理解してもらいたい。この4月より不正リスク対応基準が適用となっているが、これはわれわれに対する社会からの要請と受け止めている。公認会計士が不正リスクに対して正面から向き合っているということを社会にアピールしていきたい。

――不正リスク対応基準のポイントは…。

 金融庁が不正リスク対応基準を策定したことを受け、協会では6月に関連する監査基準委員会報告書等を改正した。これらは2014年3月末の事業年度から適用される。また、金融庁の企業会計審議会監査部会で基準を設定する際に、監査の品質を維持・確保するためには、十分な監査時間を確保する必要があることが議論された。監査時間の確保についても基準の適用とともに、より広く理解されていくことを期待している。このほかには、公認会計士が財務報告の信頼性を見ていく際に、監査現場で職業的懐疑心を発揮することが強調された。財務諸表監査は、依頼人の財務諸表の適正性を証明するという意味で依頼人のためとも言えるが、本来、資本市場の利害関係者のためにも行われるものである。この点は他の専門的職業と比べても特異な業務と言える。財務諸表監査は、資本市場の信頼性という公益に資する業務であり、これを担う公認会計士は、独立性の保持や職業的懐疑心の発揮が求められることになる。

――監査報酬の決め方についての意見は…。

 協会では、会計監査人の報酬は監査役等など、監視機能を担う機関が決定すべきだという主張をこれからも行っていく。今の会社法では、会計監査人の選任とその報酬は、監査役等の監視機関ではなく、執行機関が決定するものとされている。つまり、監査人は会社の経営者が選び、その経営者が報酬を支払うというインセンティブのねじれが問題となっている。今回の法制審議会の見直し要綱では、選任権の問題しか解消されておらず、報酬決定権についてはこれまで通りとなった。

また、監査の品質を維持することも協会の役目である。監査の品質と監査時間には相関関係があり、会員からは、必要な監査時間を確保したいという声も多い。監査法人も民間企業として経営努力を行い、業務プロセスを改善し、監査の効率化をかなり進めてきている。監査時間の不足から十分な監査が出来ていないということはこれまでもないと思うが、不正リスク対応基準が策定され、一層の品質の確保を求められることから、資本市場の信頼性を確保するためにも、納得できる監査時間を確保できるよう協会としてバックアップしていく。

――国や自治体など会計士を活用する機関をさらに広げるべきだ…。

 投資信託などのファンド監査も含め、より多くの機関などで積極的に公認会計士が活用されていくことが時代の流れではないかと思う。会計士は、会計と監査の専門家として、適正な会計の仕組みを担保していくことが本来の機能であり、組織が行ったことを保証するという観点で公認会計士を有効に活用して欲しい。公会計の分野でも、積極的に貢献したいと思っており、国や地方自治体の会計制度を改善させることは国民全体の利益になる。また、年金資産の消失事案については、金商法の改正等が行われたことにより、AIJ投資顧問の問題が起きた時期よりは状況が改善されているが、年金基金そのものはまだ監査を義務付けられていない。年金資産は国民の大切な資産であり、年金資産の運用を委託する側からすれば、年金基金は監査を受けるべきとの意見も十分説得力を持つ。これについても協会で推進していきたい。

――検査当局との連携は…。

 金商法の規定において、財務書類の適正性の確保に影響を及ぼすおそれがある事実を発見したときには、公認会計士は会社に通知をして適切な措置をとるよう求め、それでも会社が適切な措置をとらず、財務書類の適正性の確保に影響を及ぼすおそれがある場合は、公認会計士は当局に通知を行う制度があるが、実際の件数は少ないと聞いている。公認会計士側から改善を求め、それでも改善がなされなければ、監査役等に情報提供等を行うが、実際には、監査役等に対応を求める前に解決される場合が多い。当局への通知が少ないから問題だということではない。

――金融庁はIFRS(国際会計基準)への当面の対応も公表したが…。

 2011年当時の大臣発言に続き、今回、金融庁の企業会計審議会から公表された「当面の方針」において「IFRSの強制適用の是非等は、まだその判断をすべき状況ではない」と明記されたことで、強制適用の是非判断は一旦白紙となった。今後、早い段階で強制適用の是非やタイムスケジュールの議論が進められ、IFRSの適用が前向きにされることを期待している。

将来的にはすべての上場企業がIFRSを適用することが望ましいが、現状においては、IFRSの任意適用企業を増加させる取り組みを行うことが現実的である。2011年当時は、IFRSは日本の実情に合わないという意見が根強く、導入準備をしている企業でもIFRSに対する理解があまり進んでいない企業もあったようだが、この2年間で企業の理解は相当進んでいると思う。IFRSの導入に関する方向性は早期に示されなければならない。企業も監査人も教育のための準備期間が必要であることは理解している。

IFRSの任意適用企業を増加させる取り組みのなかでは、いわゆる日本版IFRSの策定が国際的評価を踏まえながらASBJで検討することも予定されているが、IFRSの任意適用の要件の緩和に注目している。現状では、IFRSを適用している企業は約20社だが、適用の要件が緩和された場合、有報提出会社のうち4,000社程度がIFRSの任意適用が可能となる。適用企業はかなり増えるだろうと予想している。また、適用要件の緩和により、IPO企業もIFRSの任意適用が可能となるので、将来海外進出を考えている企業は、日本基準の過程を踏まずに、最初からIFRSを適用することが可能となるため、さらにIFRSの適用を検討する企業が増加することが見込まれる。

わが国の経済を再生し、資本市場の魅力を拡大し、海外投資家からの投資を一層呼び込むためには、IFRSの適用は必須であると考えている。

――このほか、税会計と企業会計を統一すべきとの意見もあるが…。

 税については政策的な問題が大きく、海外でも財務報告と税務は分けて考えている。例えば米国のように、税法上、会計よりも早く減価償却ができる制度を導入して設備更新を政策的に進めているケースもある。それぞれの目的が異なる以上、統一すべきものではない。

――最後に、会長として進めていくこと、目指す方向性は…。

 就任と同時期に、公認会計士業界の全体的なイメージを表すタグラインを「Engage in the Public Interest 社会に貢献する公認会計士」と改めた。会計は社会のインフラであり、公認会計士は国家資格が与えられている。公認会計士は、社会及び経済の発展を支えていく存在であり、「公益」に寄与する存在であるという理解であり、公認会計士は、常に社会的な利益を意識しながら活動していくという意味を直接的に表した。以前のタグラインは、「Justice for Fairness 公正を求める心」であり、フェアな判断を常に求められる公認会計士自身にとっては良く理解できる言葉であったが、今回は外部から見てもよりわかりやすいものとした。これまでは大企業の会計監査を主体に業務支援を行ってきたが、社会が成熟すると、企業以外にも様々なコミュニティが出来、会計情報を作成し、監査を受けたいというニーズも大きくなる。NPOなども含めた公的分野・非営利分野の会計制度の導入の支援や、公認会計士で一般企業に就職している、いわゆる「組織内会計士」に対しての支援など、協会が行う支援のすそ野を広げる方針である。また、会計と税務は表裏一体であることから、税務の分野でも支援を行いたい。社会に広く貢献するという点では、協会の組織基盤が十分であるかも検討する必要があると思っている。