尖閣の問題は外務省が原因

尖閣の問題は外務省が原因

横浜市立大学
名誉教授
矢吹 晋 氏


聞き手 編集局長 島田一

――尖閣諸島における田中・周恩来会談について、外務省が当時の記録を改ざんしていると指摘しているが…。

矢吹 1972年の第三回首脳会談での田中角栄と周恩来の会話について、日本の外務省が公表した会談記録には、「(田中)尖閣諸島についてどう思うか?私のところに、いろいろ言ってくる人がいる。」「(周)尖閣諸島問題については、今、これを話すのはよくない。石油がでるから、これが問題になった。石油が出なければ、台湾も米国も問題にしない。」という一問一答の簡単なものしか残っていないが、対して中国側が作成・公表した資料は三問三答プラス一のさらに詳しい記述で、恐らくこちらが真実だと思われる。当時、会談を記録した外務省の橋本恕中国課長(当時)も、後に二人の会談に中国側の資料と同じような発言があったことを認めている。

――橋本中国課長が記録として残したものと、当時話されていた事実内容は違うと…。

矢吹 当時の会談では、尖閣諸島のことが一応話題には上ったものの、「それはこれから議論しよう」ということに留まり、結論は出なかったということだ。これについて外務省は、田中・周間で尖閣諸島の問題が議論されなかったのは事実だとしても、それを「棚上げ」ではないという見解を示しているが、それは小役人の弁解としか思えない。読売新聞は79年に「尖閣問題を紛争のタネにするな」という社説で「結局棚上げだ」とする論を出した。何故、外務省はその時に「棚上げではない」と言わなかったのか。結局、白黒つけていないのであれば、この問題についての結論は出ていないということで、それは「棚上げ」に他ならない。

――その後の園田・鄧小平会談については…。

矢吹 園田・鄧小平会談は、基本的には田中角栄と周恩来間で行った日中共同声明の確認だ。しかし、鄧小平はその時、尖閣諸島問題についての話し合いをすることが難しそうだと感じたのだろう、「次ぎの世代で」という言葉を残した。そして、領土のことは脇に置いて資源をシェアするための共同開発はどうかという案を出してきた。田中・周会談の外務省記録はきちんとしたものは残っていないが、鄧小平が東京で行った記者会見の記録はきちんと残っており、それを読むと、鄧小平の尖閣問題棚上げ論についての認識や、資源の共同開発案についての考えが理解できる。

――日中がお互いに納得できるような良い解決法はないのか…。

矢吹 お互いに領有権を主張しているのであれば、いつまでたっても決着はつかない。日本では1895年1月に尖閣を日本領土として宣言したと主張しているが、これは単に日本国内で閣議決定しただけであり、国際的に認められた訳ではない。実効支配していることが強みだと言っても、国際法判例においては、しばらくの間、実効的支配が途絶えていただけに、それが必ずしも有利な条件と認められる訳ではない。また、大きな問題は、第二次世界大戦において日本は敗戦国で、中国は戦勝国ということだ。国連における立場は日本よりも中国のほうが強い。日本が05年に常任理事国に入れなかったのも敗戦国だからだ。そんな中で常任理事国に入りたければ、あらかじめ中国や韓国が反対しないように根回しをしておくべきだったのに、当時の小泉政権は靖国問題などで中国と喧嘩してしまった。そういった認識を持って国連を根回ししていこうという人間が日本の外務省にいないということで、これも外務省の失態だ。

――沖縄返還に際しても、蒋介石が米国に対して「尖閣諸島に関しては施政権のみ」とするように働きかけたということだが…。

矢吹 1943年のカイロ宣言からポツダム宣言までの蒋介石と米国のやり取りを調べると、蒋介石は米国に対して、沖縄の米国統治に尖閣諸島を含めるようにお願いしている。そして72年の沖縄返還の時、米国は「沖縄は返還するが尖閣諸島は別だ」とし、尖閣諸島については台湾にも返還請求権があると記者会見で明言した。そして米ロジャース国務長官は愛知外務大臣に直接「尖閣領土問題について早く台湾と話し合うように」と告げている。愛知外務大臣はそれを受けて何度か台湾側と交渉を試みたようだが、建設的な話し合いにはならなかったようだ。しかも、日本と台湾でそのような話し合いがあったことすら、外務省は否定している。

――米国は台湾に配慮し、尖閣諸島問題については中立の立場をとっている…。

矢吹 1971年10月20日、沖縄返還を批准する際の米上院議会の公聴会で、ロジャース国務長官は当時の米法律家の最高峰ロバート・スター法律顧問代理から「尖閣諸島の施政権は日本に返還するが、主権の争いに関しては関係当事者が解決すべき事柄であり、米国はいかなる権利も主張しない。」と記された書簡を手に、「尖閣については日本の残存主権から除く」と述べ、米国が中立の立場を貫くことを示した。つまり米国は、台湾も尖閣諸島における領有権を主張する立場にあるということを認めているという訳だ。

――米国は尖閣諸島を日本の領土だとは認めていないと。一方で「尖閣諸島で何かがあれば日米安保条約で日本を支援する」と言っている…。

矢吹 沖縄返還に際して、米国はもともと日本が持っていた主権に何かを加えたり、取り除いたりすることはしないと言いながらも、台湾が尖閣領有権を主張することを認めている。これは本当におかしなことだが、結局、蒋介石が米国に対してこのような発言をするようにお願いし、米国がそれに答えたということだ。久場島と大正島を米軍の射爆訓練場とし、事実上、米軍が管理することにしたのも台湾への約束の証だ。ちなみに久場島と大正島は米国の訓練場としながら一度も使われていない。沖縄返還条約におけるこの事実は、米国の情報公開によって初めて分かったことだが、日本国会で外務省がそれを否定している。また、日本国民は台湾と米国の間でそういった取引があったということも知らず、尖閣が戻ってきたと思い込んでいる。決定的な問題は、こういったことに対して外務省がこれまで一切抗議などをせず曖昧にしてきたことだ。

――日米安保のガイドラインでは「島嶼の防衛は自衛隊の任務である」とされ、尖閣諸島問題で中国と日本の間でトラブルになっても米国は何もしてくれないというのは本当か…。

矢吹 安保交渉の範囲内というのは一般論であり、米国は無人島のために今や強大な軍事力をもつ中国と争うつもりなど全くない。また、現在の米国債保有国世界一の中国が、仮に米国債を売るという行動にでも出れば、基軸通貨国としての米国はなくなり、第二次世界大戦後持ち続けてきた世界の憲兵としての米国はその力を失ってしまうだろう。北朝鮮の核問題にしてもその他の問題にしても、米国は、中国を味方にしないまでも中立にしておくことでその立場を保っているということだ。日本としても、米国との良好な関係を続けていきたいのであれば、中国と大きな喧嘩を起こしてはいけない。さらに、日中間で仮に何かがあった場合、米国が守ってくれるなどという甘い考えは、早く捨てるべきだ。

――日米安保条約は、もはや見直すしかない…。

矢吹 日米安保条約は、日本を縛るためだけのいわゆる「瓶の蓋」だ。実際にニクソン大統領が中国を訪問した時には第七艦隊による台湾海峡のパトロールを止めて、米国が中国に対して敵意がないことを示した。周恩来が久場島と大正島が米国訓練場となっていても何も文句を言わないのも、それによって米国が日本を管理しているという意識があるからだ。それにもかかわらず、今、日米安保の拡大や再強化を唱えている安倍政権は、その40年の歴史を何も勉強していない。また、日本のマスコミは、これだけ日本が都合よく米国にあしらわれていることが明らかになっても、真実を何も書こうとしない。結局、外務省からネタをもらって書いているだけのマスコミは、外務省に不都合なことは書けないということだ。なにより、間違いばかり起こして、さらにどこまでも無責任な外務省は、日本を不幸にするばかりだ。そのような外務省は、もはや、いらないと考えている。(了)