相対評価で日本買い

相対評価で日本買い

DIAMアセットマネジメント
代表取締役社長
中島 敬雄 氏


聞き手 編集局長 島田一

――米FOMCは量的緩和の縮小見送りを発表した。この動きをどうみるか…。

中島 従来の失業率の改善だけをみる政策から、経済全般に目を配るという方針への切り替えと見ている。しかし、それ以上に大事なのは米国を取り巻く大きな図柄の変化であろう。シリア問題における外交判断で国際社会に対する信認を落とす結果となり、そのダメージはかなり大きい。ロシアの仲介が無ければ、上げたこぶしを振り下ろすことも出来なかった。私は、そこに日本の潜在的な外交チャンスがあると思っている。というのも、今、世界の首脳の中でロシアのプーチン首相と親密なのは日本の安倍首相とも言え、今後の国際政治力学において日ロの組み合わせは、色々なところで新たなカードになっていく可能性があるからだ。アベノミクスに加えて、安倍首相の政治力、外交力は、今後日本全体のプレゼンスを押し上げていくだろう。

――いよいよ消費増税も決まり、次はTPPに注目が集まるが…。

中島 日本には特有の被害者意識があり、TPP交渉でも「外圧に負けてしまうのではないか」と考える人は多い。しかし、実際のTPP交渉は米国1カ国対11カ国で、米国も今回の交渉には難儀しているようだ。TPPの基本合意は今年12月までに行われるが、一番厳しい立場に立たされているのはむしろオバマ大統領ともいえよう。一方、中国、韓国の参加は時間的に間に合わず、こうしたパシフィックオーシャン12カ国によるマーケットの創造は、今後長期にわたって大変重要な意味を持とう。

――TPPが日本のプレゼンスを上げるために役立っていると…。

中島 その通りだ。日本は政治・経済・外交とよい循環に入ってきたのではないか。為替のレベルを例にしても、必ずしも経常収支の大きさや金利差だけで決まる訳でもなく、色々な形の力学で決まっていく。また、マーケットは絶対評価ではなく相対評価が大事であることからも、相対的に見て、経済だけでなく日本の国力そのものが上がってきていることを素直にポジティブに捉えるべきだろう。実際にここ最近、日本株に興味をもつ外国人が大幅に増えてきており、外国人を集めた日本株セミナーも頻繁に行われている。しかも、そこには閣僚級が参加するなど、やや弱いとされてきた発信力も相当向上している。参加した外国人の反応も非常に良く、日本の価値を再認識しているようだ。来年以降は証券税制が現状の10%から20%に戻ることで、年内に利益を出し、来年新たに買い直すというテクニカルな動きもあろうが、大局的には非常にポジティブな流れになっている。

――世界は新たなステージへと向かいつつある…。

中島 資本主義の大きな流れを見ると、ナポレオン戦争が終わった1815年頃から1929年の世界大恐慌までの古典的資本主義が「キャピタリズム1.0」、1929年から1979年にボルカーが新金融調整方式を導入して金融引き締め政策を断行し、10%以上のインフレを止めるまでの50年間がケインズ政策全盛の「キャピタリズム2.0」。インフレが収まり金利が低く抑えられていた、先のリーマンショックまでの30年間が、新自由主義・マネタリズム中心の「キャピタリズム3.0」の時代だった。そして、我々はすでに「キャピタリズム4.0」へ突入している。そういった時代の変わり目を、我々がいかに敏感に察知して、どう立ち向かうかが重要だと考えている。

――今は各国が市場の失敗を国債の大量発行で補っている。その結果、国債残高は膨大になり、先行きは国債が売られ、長期金利が上昇することになる。そうであれば、お金は株や不動産に流れていかざるを得ない…。

中島 マーケットの原理は相対的にどう動くかであり、お金は少しでも「安心でパフォーマンスの高い」場所に流れるだけだ。100%良い国など常にどこにも有り得ず、その国の状況が変わればまた別の国へ流れていく。日本に対する悲観論を並べる人も多いが、世界全体が良くて日本だけが財政収支に苦しんで取り残されるというような極端なシナリオは、私は有り得ないと思う。国全体のバランスシートでこれだけの純資産がある国など日本以外に無い。それを背景に世界に存在感を示すことが出来れば、心配することなど無いと思う。また、日本企業のバランスシートもレバレッジがほとんど効いていない。この30年の金融中心の資本主義の最後で起きたリーマンショックの原因は、なんといってもレバレッジだ。お金が無限に使えるという幻想に人間の欲が絡み、このような結果となった。これについては厳しすぎるくらいの規制を敷かなければ人間は再び失敗するということを、日本企業はきちんと学んでいる。ただ、気になるのは、日本には依然として「ものづくり大国」へのこだわりが強いことだ。日本で第二次産業の製造業に従事している人口が24%以下となり、第一次産業の農業が4%、残りの72%はすでにノンマニュファクチュアリングに従事しているが、「日本はものづくりに支えられている」 という風潮が未だに多い。しかし、非製造業分野でも日本は世界から高く評価されており、サービス、鉄道・運輸などのロジスティクス、通信といった業界におけるイノベーションや生産性向上、設備投資の余地はまだまだ大きい。時代が着実にそういった方向に動いていることを考えても、日本は世界の中でユニークなチャンスのある国と言えよう。

――日本企業はキャッシュばかり溜め込み、リスクを取りたがらないという声もあるが…。

中島 一昨年の東日本大震災やタイの大洪水により、サプライチェーンが寸断される中で、企業が最終的に頼ったものはキャッシュだった。企業経営者は一方で、カンバン方式、リーン方式を徹底して在庫投資を減らしているが、その分、万一の事態に備えキャッシュを増やしている。世界の在庫投資の減少額と手元資金の増加額がほぼ同額になっているといった興味深い海外の報道もある。経営者は決して将来投資に弱気になっている訳ではなく、企業を取り巻くリスクをできるだけ抑えるという、極めて合理的な判断のもとキャッシュを増やしているのだと私は思う。

――ところで今後の金融規制をどう考えるか…。

中島 金融機関の破たん処理ツールとして、世界中でこれ以上国民の血税にツケを回さないように、従来の「ベイルアウト」方式にかわって「ベイルイン」が注目され始めている。エクイティは無論だが、デットについても税金を使った救済はもはや出来にくくなり、デット保有者も自己責任の下であらかじめ相応のリスクを覚悟した投資を余儀なくされよう。しかし、あまり極端に規制が進むとマーケットメーカーがいなくなり、従来のように潤沢な流動性をマーケットに提供することが難しくなってくるだろう。頭の痛い問題だ。

――来年からNISA(少額投資非課税制度)も始まる。新しい取り組みなどは…。

中島 NISAの開始に備えて、当社では「クルーズコントロール」と「投資のソムリエ」という新型バランス型ファンドを設定した。我々のビジネスで一番大事なものは長期投資と分散投資だが、資産の中身だけを分散しても、リーマンショックの時はすべてが落ち込んでしまった。商品の中でマーケットの局面に応じ、ダウンサイドのリスクを自らコントロールすることが重要になる。この2つの商品は、統計的なモデルに基づき、商品の中でダウンサイドリスクをマネジメントするものだ。「長期投資、分散投資、かつ、リスクマネジメント附」のこれら商品を、30歳から40歳代の資産形成層の方々に是非提供したいと考えている。(了)