強い米国を背景に円急落の可能性

強い米国を背景に円急落の可能性

セブン銀行
代表取締役会長
安斎 隆 氏


聞き手 編集局長 島田一

――グローバリゼーションと技術革新が急速に進んでいる…。

安斎 シルクロードの時代から、よその世界のものを欲しがるというのは人間の本能だ。そして今はインターネットの情報化によって、真実を隠すことも、民意を掌握することも難しい時代に入ってきた。企業、従業員、さらには学校さえも世界で競争し、大学に関しては、イエール大学やハーバード大学といった最高級の講義がインターネットで受けられ、資格まで取れる時代だ。こういったグローバル化と技術革新は誰にも止められない。そんな中で金融の世界においては、米国の金融政策に全世界が右往左往している。実際に、米国経済が世界に先駆けて回復していることで、アベノミクスも助けられている。円安に動きがちなのも、米国経済が良くなっているからであり、また、イランがあれだけ米国に擦り寄ってきているのも、米ドルでの最終決済が行われなければ生きていくのが大変だからだ。

――米国の力は、なお偉大だと…。

安斎 今はドイツやフランスでも英語が飛び交い、中国でも漢字がなくなりそうな勢いで皆が英語を勉強しているほど英語圏は広がってきている。さらに、TPPなどに見られるように、米国は世界のインフラを整えることで、すべてのやり方を米国流に統一している。そのやり方に批判はあるかもしれないが、米国には到底敵わないというのが現実だ。「強いアメリカ」は、「ますます強いアメリカ」になっている。弱みは、米連邦政府の借金がすでに法定上限である約16兆7000億ドルに達し、かつ、日本とは異なり、対外的に世界最大の債務超過国となっているということだが、それでも米国を侮ってはいけない。中国が米国債を1.2兆ドル強保有し、米国を揺さぶっているという見方もあるが、本質的に、中国と米国はお互いを大国として敬意を払っており、絶対に戦争することなどない。そういう中で、日本が「中国包囲網」といった政策を打ち立てるなどおかしな話だ。グローバリゼーションの中で自国に都合のよい国だけを取り込むような方法は、自国の発展の限界を宣言しているようなものだ。

――グローバル化の中で、日本はどう生きていくべきなのか…。

安斎 今の安倍政権には、高齢者への社会・医療保障だけでなく、将来を担う子どもの教育など国づくりの基本をしっかりと作っていってほしい。また、第3の矢が足りない。円安政策は海外からの観光者にとってはプラスだが、日本で働きたい人にとっては為替で給料が安くなるためマイナスになることから、外国企業を日本に誘致し、日本に雇用を生む環境を作っていくような政策も必要だ。そして、そのためにはもっと規制を緩和しなくてはならない。さらに、国債発行を減らすためには、何が国にとって大事なのかをきちんと把握した上で税の工面を考えることも大切だ。そうしなければ、結局、集めた税金が無駄なところに使われてしまう。そうしたことをすることによって国民の将来不安をなくせば、高齢者のお金も、ただただ貯金して、そのあげくオレオレ詐欺にだまされるというようなことなく、きちんとした経済が成長するところへ流れていく。

――米FOMCの量的緩和縮小の見送りに世界の金融市場は動揺したが、今後の米国の金融政策による日本経済への影響は…。

安斎 米国の金融政策の変更によって円安が急速に進む可能性もある。そうなると、資源を海外に頼る日本では、貿易赤字の更なる拡大により国際収支も赤字となるだろう。物価も上昇し、今度はそれを抑えるための国内政策が必要になってくる。そして、なにより重要なことは長期金利の上昇であり、それをどのようにリスクヘッジしていくかということだ。だからこそ、黒田日銀総裁は政府に対して消費税増税を促す姿勢を強めて、彼自身の恐さを表現したのだと思う。世界の叡知が集まる自由の国アメリカには、WASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)にはじまり、アイルランド人、黒人、アジア系等々とにかく「自分たちで国を作り、自分たちで国を発展させていく」という意識が日本とは比べ物にならないほど高い。中国という大国と喧嘩をしないのも、彼らの本能だ。そういったことを踏まえたうえで、我々日本人も外交していかなくてはならない。狭い日本の中のことばかり考えていては、日本は本当に変わらない。

――まずは、日本国内のお金の流れを変える必要がある…。

安斎 復興予算で財政支出を膨張させれば景気が良くなったと感じるのは当たり前のことだ。しかし、今は新たな資金需要がない中で経済を保とうとするため、国債発行と財政支出に頼らざるを得ず、本来の「信用供与として融資をすることで企業が動き、経済が活性化する」という流れを作ることが出来ないでいる。さらに現在のアベノミクスのインフレ政策では、日銀が国債の7割を購入しているが、その結果、市中に流れ出る大量の資金の運用先を海外に投資するか、国内で自ら融資先を考えるかといった選択も大きな問題だ。いかにして新しい資金需要を掘り起こすか、それはクロダノミクスの新しい試みであり、現在のような為替の急激な変化の中で、実際に金融機関は四苦八苦している。地方に行けば行くほどそれは大変だ。再び海外のヘッジファンドなどに騙されて、変な運用をしてしまうというようなことを起こす危険性も、ないとは言えない。

――BIS規制がこれだけ厳しいと、なかなかリスクもとれず、お金が行き場を失っている…。

安斎 バブル崩壊後に自らリスクを取りにいくような人間は、もう銀行にはいなくなってしまった。あれから23年、現在は課長、部長クラスになっているだろう人達に前向きなことをしたという経験がないのは恐ろしいことだ。新しい産業や経済活動が生まれないまま、その間、どんどんクロダノミクスは進んでいくと、猛烈に円安が進み、国債が発行できなくなるという危険性も大いにありうる。円安が進んで海外に出て行った企業が日本に戻ってくるのであれば良いが、そうかんたんには戻ってこない。そこで、企業を国内に戻すために法人税を安くすべきという声もあるが、私は世界の法人税引き下げ競争はそろそろ止めるべきだと思う。成熟国には社会保障や年金が存在し、そこで法人税が入ってこないことには国が破産してしまう。確かに法人税や労働コストの低いところでは企業は儲かる。儲かると配当が増え、役員収入も増える。しかし、日本に残っている従業員はその高収益には貢献していないということで収入は上がらず、国内は全く潤わない。結局、お金をもっている人のところにだけさらにお金が行く仕組みになっており、そうなると、米国と同様に中間所得層が薄くなり、経済の活力が失われ、最後は所得税や消費税という形で個人から税金を取るしかなくなるからだ。とはいえ、日本の場合は先ず、税が複雑すぎてわかりにくく不透明なことで、納税意欲を削いでいるといった問題もある。このため、何々控除などの税の優遇制度を大幅に整理して、極力シンプルにする必要があるだろう。(了)