日本のエクイティ不足の解消を

日本のエクイティ不足の解消を

産業革新機構
専務執行役員
田中 琢二 氏


聞き手 編集局長 島田一

――日本企業へのエクイティ供給機能の強化を唱えておられる…。

田中 産業革新機構は一つ一つの会社に投資をするという超ミクロの役割を担っているが、ミクロの奥を掘れば掘るほど、マクロ的な問題が浮かび上がってきていると感じている。日本は97~98年に金融機関が相次いで破たんした以降、様々な努力を経て現在のように金融システムの安定が築かれた。世界に冠たるデットの供給機能があることは素晴らしいことだが、一方、日本においてエクイティの絶対的な不足、あるいは、デットに比したエクイティの量が少なすぎることがいろいろな問題を生み出している。企業の最適な資本構成とは何かという問題を通じて、エクイティの供給機能をいかに拡大していくか、日本全体のリターンをどのように高めていくか、今後の成長戦略においてもっと意識されていいのではないか。

――エクイティ供給が少ないことが、いろいろな問題を生み出していると…。

田中 最初に分かりやすく例を挙げれば、ベンチャーキャピタルにお金が回っていないことで、次世代産業の育成が出来ないでいる。米国のベンチャー企業への出資額が年間2兆円レベルあるのに対して、日本は年間1000億円弱。それらの殆どはゲームやアプリといったIT関係が主体であり、次世代を切り拓くようなテクノロジーやサービスに対する投資は非常に少ない。これだけでは新たな産業の芽は十分育たない。また、次の問題は、多くの上場企業の株主上位5社の出資比率が5%に満たないなど、資本構成の民主化が大変進んだため、経営陣としては株主の主張を背景とするガバナンスの強化や迅速な意思決定がむしろ出来難くなっていることだ。無論、出資の割合が単純に大きければいいというものでもないが、最適な資本構成を背景に経営がスピーディに意思決定出来るということも事実だ。この点、米国で会社に対する出資を背景にした経営権の把握が重要だということをより重視していると感じる一例として、米DELLがガバナンスの強化と意思決定を早めるために非上場化すると発表したことが挙げられる。しかし、日本は上場こそが最終目標という風潮がまだまだ強い。

――資本構成を通じて、ガバナンスの強化と意思決定のスピード化を進めていく必要があると…。

田中 さらにエクイティの不足に伴う問題点を挙げると、日本の多くの企業は銀行からの借り入れによる資金調達を極めて重視しており、銀行借入が中心になると企業収益の目標目線がどうしても低くなる傾向があることだ。超低金利化の日本では、銀行には2~3%程度の金利を返せば文句を言われない。一方でエクイティによる調達コストは一般的にデットより高いが、そのハードルを達成するためにアップサイドの収益をどれだけ取れるかというインセンティブが働きやすい。企業全体の収益目線を高めるためにも事業計画に基づいたエクイティの供給が重要だ。そして、そのためには企業に対して大きな資本を投入出来る供給者がいることが不可欠だ。

――一方で、銀行側からは貸出先がないという声も聞かれるが…。

田中 今はキャッシュリッチな会社が多く、資金を借り入れる必要性がないという声もあるが、企業経営にはエクイティ性のある資金によって将来の利益を取り込むという発想がなくてはならない。そして、本当にグローバルに戦うためには多額の設備投資資金が不可欠であり、デットで資金調達するにはデット・エクイティ比率が上限にあるため借り入れができないという企業が少なからず在ることも事実だ。この点、資金ニーズは強いがデット・エクイティ比率が金融機関にとって上限に張り付いているような企業に対してエクイティを供給して財務基盤が強化されれば、貸出も増えていくだろう。実際に我々が手掛けた案件でも、成長資金をしっかりとエクイティで投与したことで銀行の貸出余地が大きくなった例はある。また、そうすることで金融政策の有効性も高まるのではないか。

――現在の金融緩和の下で、きちんとエクイティに供給するプロバイダーがいれば、銀行は貸出幅を拡大することが出来て、マネーも回転してくるということか…。

田中 エクイティは経常収支にも関連してくる。言うまでも無く、経常収支の黒字はグローバル経済における日本の宝だが、今は経常収支を構成する一つの大きな要素である貿易収支が赤字傾向にあるため、もうひとつの大きな要素である所得収支の黒字幅の維持・拡大をしっかり確保する必要が出てきている。そこで、これまで所得収支の黒字の多くを占めていた海外からの利子収入に加えて、海外からの配当収入を増やすことで経常収支の安定化を図ることが重要になっている。配当収入を得るということは、取りも直さず、海外の企業を買収するということだ。企業の内部留保があるからとか、円高だからという理由だけでなく、マクロ的な視点で、所得収支の黒字を厚くして経常収支の黒字を継続していくために海外の企業を買収するといった考えが、今の日本にとって重要だ。もちろん、貿易で経常収支を増やしていくという姿を変える必要はないが、高齢化社会を迎え、労働力が低下していく中で、一定程度は海外経済に貢献しながら所得を還流させ、資本のストックで食べていくことも考えていかなくてはならない。このように、日本に表面化している色々な問題の共通の背景には、エクイティ不足という原因がある。私は、エクイティを充実させることで、資金が回りリターンが向上していくという良い流れを作り出していきたい。

――エクイティを増やす良いアイデアは…。

田中 リーマンショック以降、欧米では投資銀行の役割が変化し、プライベートエクイティ・ファンド(PE)は業務を多様化して、エクイティ並びにデットの供給機能として存在感をより高めてきている。あるいは、グローバルにはソブリンウェルスファンドの存在も際立っている。米国のPE上位社や、現在の政府系ファンドで最も規模の大きいアラブ諸国、ノルウェー、シンガポール、中国等の資金規模はトータルで数百兆円。そういう中で、世界有数の経済大国である日本のエクイティプロバイダーは、いくつかのPEやVC、商社や近時の官民ファンド等の資金枠すべてを合計しても10兆円程度で、その規模は海外に比べてあまりにも小さい。それでは日本でエクイティを増やすためにはどうしたらいいか。まずは資金を確保することでエクイティのプレイヤーが活躍できる素地を作ることが必要だ。そして、そのために年金資金の運用を多様化してオルタナティブ投資としてエクイティ投資に一定量を振り向けていくことが、東京キャピタルマーケット全体のリターンを高め、やる気を起こすきっかけになるのではないかと考えている。日本の年金の運用先の70%は国債に回っており、株式投資は10%程度だ。現在、年金積立金管理運用独立行政法人でも年金の資産運用の多様化についての議論が進められており、すでに中間報告時点でオルタナティブ投資も扱うという案が示されていると聞く。私はこれを非常に良い流れだと感じている。

――お金をいくら用意したところで、企業が必要としなければどうしようもないが…。

田中 我々がこの4年をかけて各企業に接しながら実感するのは、M&Aや資本構成に対する関心が高まってきたことだ。機会があれば是非相談したいし、誰かがその背中を押してくれることも期待している。ただ、誰に相談すればいいか、誰が背中を押してくれるのか、そこには一定の信頼のきずながあるのか、そういったことを重視されている。企業にとって大変重要な決断にあたって誰と組むか、パートナーシップが非常に大きな問題ということだろう。そういう意味でも、年金資金が託すファンド等は民間企業のM&Aの背中を押す信頼のきずなを結べる存在になり得る。一方で年金基金にとっても、年金は自分たちが託したお金によって生み出した経済の成長の果実を、高齢者が受け取るものだと考えれば、成長資金を供与する主体であることを意識してくれるだろう。そういう発想があれば、年金も安全資産だけの運用にはならず、東京キャピタルマーケットのパイの拡大とともに資産の増加が実現するはずだ。(了)