消費税増税より歳入庁の創設を

消費税増税より歳入庁の創設を

元財務省
嘉悦大学教授
高橋 洋一 氏


聞き手 編集局長 島田一

――現在のアベノミクスの効果について…。

高橋 金融政策、財政政策、成長政策の3つの政策の中で、金融政策の効果が本格的に現れてくるのは2年程先、財政政策は1年以内だ。つまり、今年4月に始めた金融政策の効果は現時点でまだ4分の1程度しか現れていない。そのレベルで言えば道は外れていないと思う。また、財政政策については今年1月に10兆円の補正予算を組み、4月からはその効果も出ていたが、今回の予算は5兆円と、1月より5兆円のマイナスになるため、消費税増税もあり、来年度の成長率は下がるだろう。これについてはかなり懸念している。そして、3つめの成長戦略だが、これはまだ殆ど出来ていない状態で、今度の法案を見てもあまり効果は期待出来そうもないものばかりだ。さらに法案が成立しても、実施までには大体2年程度かかり、その効果が見られるのはさらにその3年後からだ。

――成長戦略の効果が目に見えてくるのは、成長の矢を放ってから5年後だと…。

高橋 しかも、仮に50本の成長の矢を放ったとして、効果を表すのはそのうちの1~2本程度だ。当たりにくく、かつ、即効性も無い。このようなリスクのある成長戦略の矢について、ビジネスの経験もない財務省の役人に相談したところでわかるはずがない。役人は自分でリスクを負って矢を放つようなことはしない。もちろん当たった経験も無いから、「当たらない」というだけだ。しかし、数を放てば矢は必ず当たる。そして、一本でも当たった矢を東京オリンピックまで繋げていけば、7年間程度の景気拡大はそれほど難しいことではない。ただ、来年の消費税増税で景気が落ちる可能性もあり、そこで失墜してしまうと、もうその先はない。

――日本には600兆円の政府資産があるということだが…。

高橋 私の著書「日本は世界1位の政府資産大国(講談社+α新書)」にも詳しく書いたが、バランスシートで日本国政府を見ると、確かに負債は1000兆円あるが、資産も650兆円程ある。これほど大きな資産を持っている国は他に無い。資産の多くは金融資産であり、特殊法人に対する貸付金、出資金、有価証券だ。日本には大きな借金があって財政が大変なのであれば、普通の場合は売られるはずだろう。特殊法人への貸出は不良債権になっていると思う人もいるが、実は役人の天下り先である特殊法人にはたくさんの補助金がつけられているため、不良債権にはなっていない。それなのに役人は、1000兆円の負債を税金で返して、650兆円の資産は自分たちの天下り先として取っておこうとしている。とんでもない話だ。財政再建が大変なのであれば、とにかくその650兆円の資産をできるだけ売ることだ。そして、特殊法人への出資金を売るということは、民営化するということだ。

――消費税増税の必要性については…。

高橋 つまり、巷で言われているほど日本の財政は悪くないということだ。日本の資産と負債の差は350兆円の差でGDPと同程度、米国と似たようなものだ。ここで日本と米国の財政再建方法を比べると、米国では、先ず経済成長することを考える。経済成長すれば税収も上がり、債務は無くなるという理論だ。そして、経済成長が上手く行かなかった場合にコスト削減を行い、最後に増税を考える。一方で日本の財務省はそういった経済の常識が理解出来ないため、すぐに増税と言う。そして増税を宣言すると各省庁から予算要求が山のようにきて、予算上の歳出は膨らんでいくことになる。その点、小泉総理大臣時代は「増税しない」と宣言していたため、歳出要求がこなかった。一方で為替を安くするなどの金融政策を行って景気を良くしたため、結果として増収となって、財政再建ができた訳だ。

――増税すれば財政が再建されるというのは間違っていると…。

高橋 リーマンショックや3.11の後、日本の財政は100兆円近くにまで膨らみ、その後も縮小していない。その理由は増税を宣言したからだ。各省庁が予算要求する際に「増税するならお金はあるだろう」という意識が働けば、予算が減ることはない。これは当たり前のことで、本当に馬鹿げたやり方だ。これに対して、小泉元総理時代にプライマリーバランスが28兆円の赤字から2兆円の赤字まで、26兆円、つまり消費税8%分も改善した時は、トップの小泉元総理が「増税をしない」と宣言し、当時経済財政担当大臣だった竹中氏が予算のシーリングを決めた。さらに私が日銀などに働きかけて量的緩和など金融政策を行い、それによって法人税収が大幅に上がった。時々、本当に歳出が大変な時もあったが、そんな時にこそ埋蔵金の出番だ。そうして結果的に上手く財政再建が出来た。しかし、この一連のやり方は財務省が出したアイデアではないため、彼らは気に食わず、この方法を無視している状態だ。

――財務省は、埋蔵金はないと言っていたが…。

高橋 あれは嘘であることが、その後、次々と明らかになった。私は2001~2005年までの5年間で40兆円の埋蔵金を捻出した。今年1月に出された10兆円の景気対策予算も、その内の8兆円は埋蔵金だ。民主党に「埋蔵金はない」と言わせておきながら、自民党は早速埋蔵金を使っている。もちろん、埋蔵金があるから増税の必要が無いというほどのものではないが、あと15兆円程度はあり、多少苦しくなってきた時に一時金として使えるのは事実だ。問題がある時にお金がないからといって対策費を渋るのではなく、あるものをすべて使って対策した方がはるかに良い。そして、増税して景気対策するよりも、埋蔵金を使って景気対策したほうが、国民に迷惑をかけることもない。

――米国などでは景気対策として減税したりするが、日本で法人税を下げるような案は…。

高橋 法人税減税を国際競争力という観点で語る人は多いが、それはあまり正しくない。フリードマンの二重課税の理論でも述べられているが、個人所得税をきちんと徴収していれば、法人税は本来必要のないものだ。これは極めて真っ当な理論なのだが、日本では個人の税金における補足率が高くないため、仕方なく法人税を取っている。少なくとも他の国と同程度の補足をして、法人税を下げるべきだろう。さらに歳入庁や個人番号があれば、法人税だけでなく相続税も必要なくなる。

――マイナンバー制度は導入されたが…。

高橋 マイナンバー制度だけでは十分とはいえない。悪質な会社が社員の年金を横領していたという事件はよく聞く話だが、それは当時の社会保険庁が源泉徴収をきちんとチェックしていないからだ。実際に「消えた年金」の5000万人分の7~8割は厚生年金で、結局その責任は誰にも問われず、個人の年金が減額されることになる。社会保険庁がきちんと会社を訪問してチェックしていれば、こういった事件は未然に防げたはずだ。もし会社訪問が難しくても、法人税調査と源泉徴収の給料天引きを照らし合わせれば、不正をしているかどうかは簡単にわかる。実際に税務署は法人税や所得税の調査の時に企業が年金を払っているかどうかは大体わかっているのだが、所管外のため何も言わないでいる。そのような状況を打破するためにも、国税庁と現日本年金機構を合併して歳入庁を設立し、マイナンバー制度を作れば、約10兆円の社会保険料の徴収漏れが入ってくることも可能だろう。政府は社会保険料が足りないから消費税を増税すると言っているが、10兆円が入ってくれば、今回の消費税増税の必要はない筈だ。こういったことを、先ずやるべきだと思う。

――日本には歳入庁がなく、マイナンバー制度が徹底していないため、どんぶり勘定になっていると…。

高橋 どんぶりなら入るだけまだマシだ。今の状態はザルで、取りこぼしてしまっている。社会保険料の法的な位置づけは税金と同じで、支払わなければ、正確に言えば脱税になる訳だ。さらに、そもそも一度税金として吸い上げた保険料を、個人に代わって国が運用するということもおかしな話だ。例えば、厚生労働省が現在の年金運用先として選んでいる信託銀行のリストの中から、国民個人が自分の年金を預ける信託銀行、保険会社、投資顧問を選ぶという仕組みがあっても良いと思う。受け取りの段階では厚生労働省によるきちんとした管理が必要だが、配分については必ずしも厚生労働省が行う必要はない。国民が保険料を納入する際に運用する金融機関に番号をつけて、国民がそれを選べば、それは十分可能であり、かつ、合理的だ。

――日本年金機構をなくして借金をすべて返済し、ゼロから始めた方が良いのではないか…。

高橋 そういう案もあるが、ただ、高齢化の時に多少積立金があったほうがよいという議論もある。そう考えると、今の制度を維持したまま、日本年金機構の代わりに国民が信託銀行、保険会社、投資顧問を選べるようにした方が簡単だと思う。私は、増税を未来永劫しない方がいいと言っている訳ではない。ただ、現在のロジックのように消費税を上げるのが社会保障のためだというのであれば、歳入庁をつくってきちんと徴収した方が良い。徴収漏れをそのままにしていれば、「消えた年金」のような問題が再び起きる可能性もあるだろう。(了)