一段緩和なくても緩やかに成長

一段緩和なくても緩やかに成長

三井住友アセットマネジメント
理事 チーフエコノミスト
宅森 昭吉 氏


聞き手 編集局長 島田一

一段緩和なくても緩やかに成長三井住友アセットマネジメント 理事 チーフエコノミスト 宅森 昭吉 氏 ――昨年末にうかがった今年の予想は景気好転ということで見事当たったが、新年は…。

宅森 一時、消費税増税の影響がありもたつくと思うが、景気後退に陥ることはなく持ち直していくという姿を予想している。具体的には、1~3月期に個人消費などの駆け込みでかなり高い成長率となり、その反動で4~6月期にマイナス4%強程度に落ち込むといった感じだ。その後の7~9月期はプラスの数字に戻ると見込んでいるが、それは急激な伸びではなく、年率2%弱程度の緩やかな成長になるとみている。今回、内閣府が発表した7~9月期のGDP成長率と主な項目の数字の中で私が注目したのは、24年度の確報値で設備投資が減少から増加に改定された一方で、公的固定資本形成が速報値の14.9%を大幅に下回り確定値が1.3%となっていたことだ。これは東北の復興活動計画がまだ固まっていなかった影響や人手不足の影響などで、実際には公共投資が出ていなかったことの反映だろう。ただ、今年度は期毎に見ると今年4~6月期と7~9月期は前期比6%台の数字が出ており、前年同期比ではプラス8.1%とプラス19.0%で、明らかに公共投資が伸びており、第2の矢がしっかり出ていることが確認できる。

――そうすると、10~12月期も良い数字になると…。

宅森 かなり良い数字になると思う。7~9月期の民間最終消費支出はプラス0.2%とわずかしか増加しておらず、そのため7~9月期全体の消費が弱かったという見方をする人もいるが、実際には5月の株価が急激に高騰して最高値をつけた反動で6月の株価が急激に下がり、そこで資産効果の剥落があったと思われる。それがマイナスのゲタとなり7~9月期に影響しただけだ。5月の数字は良すぎたと言える。GDPの実質個人消費と同じような動きをするといわれている消費総合指数を月次で見ても7月、8月、9月とすべて前月比プラスとなっており7~9月の各月の消費は悪くない。ただ、10月は台風が観測史上最多の6つ接近したことと、前半の天候が暑かったため秋物衣類が売れずに数字的には若干下げているが、水準は7~9月を上回る。11月に寒くなったので再び数字も上がってくるだろう。その後、消費税増税実施まで順調に伸びるとして、増税による落ち込みをどう乗り越えていくかがポイントだ。

――政府は消費税増税対策として、来春にもういちど経済対策をやるようだが…。

宅森 今回の5.5兆円の政府支出でそれなりに下支えできるのではないか。日銀は「増税に併せ再び金融緩和を行う」という見方も多いようだが、年間60兆から70兆円のペース以上にマネタリーベースを増加しなければならないほど悪くなるような環境ではない。むしろ、金融緩和の成果を民間が生かすことが大事だ。ポイントは、民間が設備投資をきちんとやるかどうかであり、これが成長戦略を生かすことになる。いくら規制緩和や設備投資減税などを計画しても、デフレ期には皆、借金を避けたがる経営姿勢を続けてきたものだが、現在は予想物価上昇率が上がってきていてデフレは脱却しようとしており、借金はしやすい環境だ。実質金利が下がっているので、お金を借りても有利になるということを各企業の経営者が認識出来るかどうかがポイントだろう。

――今、お金を借りないと損だというマインドを持つこと、そして、それをうまく生かしていくことが重要だと…。

宅森 もはや、設備投資のようにお金がかかることはやってはいけないとか、同じ設備投資でもプロセスイノベーションが大事であり、プロダクトイノベーションではないというような時代は終わったと言えよう。需給ギャップが改善しつつある中で、物価が上昇してきたという時代の変化を皆がきちんと認識し、再びプロダクトイノベーションが主流になってくれば、需要がついてくる。そのような流れでアベノミクスの効果を生かしていくことが重要だ。しかし、実は金融の量的・質的緩和など、金融界では常識となっている日銀の金融政策は、世の中的にはあまり知られていない。そのため、ほぼゼロ金利で長らく張り付いている現在の状態でお金を借りる必要性を感じないという人は多い。世論調査でも、ほぼ7割の人達が金融緩和という言葉について「見聞きしたことはあるが、よく知らない」或いは「見聞きしたことがない」と答えており、そのような人達は、今がお金を借りるチャンスだということを理解していないと思う。予想物価上昇率が上がると実質金利は下がるという発想は経済を知っている人でなければ理解できないのかもしれないが、今はまさにそのような政策が行われている。

――金融に関る業界以外の企業や市民レベルでは、まだまだそのような発想に至っていないと…。

宅森 そのような認識をもう少し持ってもらうために、私は「今年を表す漢字」が「倍」になればよいと願っていた。安倍ノミクスの「倍」、倍返しの「倍」、そしてマネタリーベース倍増の「倍」だ。「倍」という字が選ばれれば、「実は金融政策も、倍なんです」というように、テレビなどで日銀が通貨供給を増やしていることが詳しく解説される展開になっただろう。そうなれば、予想物価上昇率が上がっている今、お金を借りることは有利なのだということが中小企業の経営者などに伝わり、老朽化している設備を新しくしようという気にもなっただろう。さらに、2020年のオリンピックまでの間に民間でも出来ることがたくさんある。例えば64年の東京オリンピック開催が決まった59年に始まったプロレスのワールドリーグ戦は、力道山がオリンピックをヒントに考え出した下火になったプロレスブームを再び上向かせた、プロレス興業における世界初の試みだった。このように、オリンピックをきっかけに色々な広がりが生まれてくることが期待される。

――東京オリンピックの開催までに、世界中の人達に日本の観光地をアピールするという方法もある…。

宅森 先日は和食がユネスコの無形文化遺産に指定されたが、その他にも、日本の食べ物を題材にしたアニメの影響で、カレーやラーメンなどにも海外から注目が集まっている。日本が誇れるものはその他にもたくさんあり、例えばトイレのウォシュレットは日本独特のものであり、観光客として日本を訪れた外国人は大体それに感動するという。秋葉原などで購入して帰る人もいるそうだ。そういったものが日本の輸出拡大につながれば日本経済にも良い結果をもたらすだろう。

――2年間で2%の物価上昇率は達成できると見ているか…。

森 私は2年間で2%の物価上昇率の達成は少々難しいと思っている。日銀の展望レポートにもあるように、需給ギャップと物価上昇率の関係を示すフィリップス曲線の、96年以降から最近までの期間の関係式では物価上昇率=0.27×需給ギャップ+0.3、そして、バブル期を含む83年から95年までの関係式では物価上昇率=0.28×需給ギャップ+1.1となっている。需給ギャップは現在マイナス1.6%だが、日銀の強気見通しが2年間実現すれば約2.5%になる。その2.5%を最近の需給ギャップに当てはめると成長率は1%。それに黒田日銀総裁の大胆な金融緩和の影響による予想物価上昇率の高まりを0.5%程度とみて加味すると1.5%になる。また、バブル期の関係式に当てはめれば1.8%。すべてを考慮して、2%には届かなくとも1.5%は十分ありうるというのが私の考えだ。ESPフォーキャストの調査でも15年度の2%を予想しているのはひとりだけだが、1%台というひとは結構いる。私は1.5%でもよいと思う。2%でなくてはいけない理由があるとすれば、海外の先進国の成長目標がほとんど2%であるため、日本だけが1%といえば円高になってしまうからだ。そこでは対外向けに世界標準と合わせるようなことが重要だろう。

――もう一段の金融緩和がなくとも、このままで1.5%の上昇率は可能だと…。

宅森 可能だと思う。マーケットでは一段の金融緩和がささやかれているかもしれないが、エコノミストの間で再び金融緩和が行われるというようなコンセンサスはない。現在の金融政策では毎年60~70兆円程度のマネタリーベースの増加を目標としているが、ESPフォーキャストの調査では14年末のマネタリーベース残高270兆円に対して、15年の年末マネタリーベース残高予測の平均値は325.7兆円だった。中には270兆円という言う人もいれば300兆円と答える人もいて、ほとんどの人が一段の金融緩和をしない、あるいは金融引き締めを意味する数字を答えているということだ。ただ、日銀がお金を供給しても当座預金が積み上がっているだけでは意味がない。今、これだけチャンスが広がっていることをきちんと認識して民間が借入れをするようになることが重要だ。それが出来て初めてマネーストックが増加する本当の金融緩和になる。

――経常収支の赤字転換が気になるところだが…。

宅森 あまり騒がれていないが、実は9月、10月の季節調整値で初めて連続赤字となっている。原発のこともあって、輸入が多くなっているということだろう。さらに1月は例年原数値で貿易赤字になりやすく、今後、また経常収支赤字が話題になってくるのではないか。円安も過度になれば経済に悪影響を及す。さらに消費税の負担増で皆が物を買わなくなり、スタグフレーションになっても困る。現在の円安状況下でも輸出が期待されていたほどは出ていないことは認識しておくべきだろう。為替については15年の3月末までは1ドル100円~110円の間でゆるやかに推移するのが理想なのではないか。変動相場制になって以来、午年は過去すべて円高で、辰巳天井のあとの午年は株価も下がる年が多い。これを来年は逆のパターンにして、初の円安・株高の年にしたいところだ。そのためにも、民間が政府の対応を受けてきちんと前向きな行動をすることが重要だ。

――その他、経済データを見て気になることは…。

宅森 EPSフォーキャスト調査・12月調査で所定内給与の平均予測を見ると、14年度の予想平均は前年度比プラス0.3%となっており、前の11月に調査した予測値よりも0.1上がっていた。これが実現して賃金が上がってくることを期待したい。また、来年の大河ドラマは「軍師官兵衛」だが、大河ドラマで天下が平定される以前の戦国武将を取り上げた年は視聴率が高く景気も良いというデータがある。例えば、1987年の「独眼竜政宗」や88年の「武田信玄」の時はバブルで、視聴率も40%近くあった。バブル崩壊後で高視聴率だったのは96年に竹中直人が主役を務めた「秀吉」だが、何と今年の「軍師官兵衛」でも黒田官兵衛が仕えた秀吉役を竹中直人が演じる。こういったキャスティングは初めての試みということだ。今の時代には視聴率が20%台を超えれば注目される。そうなると、また日本に元気が出てくるのではないか。(了)