NSC、外交・防衛戦略の司令塔に

NSC、外交・防衛戦略の司令塔に

国家安全保障局長
谷内 正太郎 氏


聞き手 編集局長 島田一

――日本版NSC(国家安全保障会議)が創設された。その背景は…。

谷内 国家安全保障会議はもともと米国にあるのだが、日本にも外交と防衛の司令塔を作るべきだという発想から日本版NSC構想の検討が始まった。外交と防衛はバラバラであってはいけないという考えの下、政府全体としてこの二つを一緒に考えて、総理、副総理、官房長官、外務大臣、防衛大臣の5閣僚の協議で色々な判断を下す。その下には60人程度の国家安全保障局という事務局があり、5人の協議体を支えるというシステムだ。事務局では、長期的な外交防衛戦略に関する政策提言の選択肢を示すなどの作業を行い、危機管理にも関る。例えば、先日アルジェリアで日本企業の従業員が襲われる事件があったが、そういった時の政府の初動対応はNSCで扱われることになろう。

――むしろ、今までそのような会議がなかったことが不思議だ。これまでは外務省と防衛省が連携せずに外交戦略や防衛戦略を立てていたということか…

谷内 今までは、何かあればそれぞれの省庁が急遽官邸に集まり対策を考えるというやり方で、外務省と防衛省で協議をすることがあっても、権限争いなどもあって、お互いに大事なところは見せないような弊害も無いとは言えなかった。もちろん、関係者はそれなりに一生懸命やってはいたが、もう少し仕事を系統立ててきちんと対応した方が良いのではないかということで日本版NSCが創設されたという訳だ。参考にしたのは主に米国のNSCだが、英国にも3年前に同じようなシステムがつくられ、他の国でもすでに導入されているところもある。実は日本でもNSCの導入議論はかなり昔からされており、第一次安倍政権時代には国会に法案を提出するまで至っていた。その時は安倍首相の健康問題などもあり実現には至らなかったが、そういう経緯もあって、今回の創設にあたっては、その頃よりもさらにしっかりとしたものにしようという想いが詰まっている。

――60人程度の事務局では少し規模が小さいような気もするが…。

谷内 新しい組織を作る時にいきなり大人数を投入するのは難しい。最初は60人程度で、その後少しずつ増やしていけばよいのではないか。仕事の内容にもよると思うが、米国のNSCでは約170人の政策スタッフと、その他のスタッフ60人程度の合計約230名が働いていると承知している。英国はもっと幅広い仕事内容になるが、人数的には米国に近い。日本では、これまでの省庁間の垣根をなくして政治主導でやっていくことが最初の目標だ。例えば隣国中国によるかなり一方的な海洋進出行動に対して、日本がどのような外交防衛をしていくか、そういった外交・防衛戦略を考えるためにNSCがある。その他にも、陸・海・空・宇宙・サイバー空間というあらゆるところで日本国民の生命と財産の脅威になりうるものが存在し、そういったものにシームレスに対応していくには、外交も防衛もすべてを含めて総合的な視野で考える国家システムが欠かせない。高度成長期にあった日本とは違って、財政も巨額の赤字になっている今、NSCのミッションは目的と手段を十分に検討した上で戦略的に物事を考えていくことだ。

――中国や韓国など隣国との外交についてはどのようにお考えか…。

谷内 一般的には、国家経済が拡大し、国民の生活水準が上がってくれば、心理的な余裕などから他国に対しても寛容になってくるものだが、今の中国や韓国は過去の思いを再燃させ、日本が未来志向で歩むような提案をしても、例えば韓国からは「歴史を直視すべきだ」という答えが返ってくるような状況だ。しかし、徴用工問題などは1965年の日韓請求権協定で決着がついており、そういったすでに法的に解決しているものに対しても繰り返し賠償を求められているというのが実情だ。日本は両国との関係改善を考えてこれまでに数々の償いをしてきたが、それ対してもその都度ゴールポストを動かされている。日本が従来のような妥協を続けていけば、その要求はさらに膨らんでいくだろう。相手の要求に終わりはないため、もはや外交上の懸案問題に妥協を重ねるだけではいけないという段階に来ている。

――日本がこれ以上は譲れないというところの線を、きちんと引くべきだと…。

谷内 日本は今まで相手に配慮しすぎてきた面があったが、日本国としては言うべきことをきちんと言う必要がある。日本国としての品性を持って的確に相手の心に日本の意思を届けるためにも、我々はもっと相手国のことを勉強する必要があり、それも広い意味ではNSCの仕事といえるだろう。対中国にしても対韓国にしても、本来ならば両国間で大いに議論を重ねることが重要なのだが、そのような関係すら築けていない現状にあっては、いわゆるオピニオンリーダーが知恵を出し合い、戦略的忍耐心をもって対処していくしかない。「両国間の子々孫々に亘る平和で友好的な関係」という長期的目標の実現のために、今は感情的になって反発したり、必要以上に敵視するようなことはすべきではないだろう。世界に対するアピールの仕方としては、中国や韓国が国の広報活動に巨額の予算を使っている一方で、日本では仕分けなどで予算をどんどん削られている。これは時代に逆行した行為であり、日本も、もっとソフトパワーの部分に資金を投入していく必要があると思っている。

――これまで一年間の安倍政権の外交を振り返って…。

谷内 安倍首相はこれまでに25カ国を訪問し、130人以上の世界のリーダーと首脳会談をしてきた。これだけアクティブに外交を進めた首相は歴代でもあまりいない。安倍外交を一言で表せば「地球儀を俯瞰する外交」だ。日米同盟を機軸として、グローバルプレイヤーである日本という立場で多角的・戦略的に外交を進めている。特に、海洋国家である日本が海のルールを大切にする国との連携、普遍的に通用する価値観を大切にする国との連携、そして、経済成長に役立つ国との連携強化に力を注ぎ、資源獲得や市場を開拓することで民間企業の世界展開を支援している。ただ、残念ながら隣国である中国と韓国との首脳会談は実現していない。安倍首相は無条件で両手を広げて対話を呼びかけているのだが、例えば中国では尖閣の領土問題が存在することを日本が認めることを条件にしていたり、或いは韓国では慰安婦問題について日本政府が謝罪することを前提にしていたり、会談するための条件が目の前に置かれているのが現状だ。それでは日本としてもなかなか前に進めない。

――これからの安倍外交の行方は…。

谷内 グローバルな視野を持った外交という今までの路線を維持しながら、中国と韓国の関係改善については常に対話の窓を開け、安易な妥協はせず、戦略的な忍耐心を持って両国に対応していくということになろう。シームレスな抑止力を効果的に発揮するためには海上保安庁や海上自衛隊の強化が重要であり、引き続き日米同盟の深化も肝要だ。さらに、フィリピンやオーストラリア、インド、NATO諸国といった海洋国家同士の連携を深めていくことも大切になってくる。そのためにも、日本経済は強くあらねばならない。だからこそ安倍首相はアベノミクスと称して日本経済の強化に力を注いでいる訳だ。(了)
※12/11取材当時は早稲田大学 日米研究機構 日米研究所教授