大学改革を進め女性の活躍を推進

大学改革を進め女性の活躍を推進

津田塾大学
理事長
島田 精一 氏


聞き手 編集局長 島田一

――津田塾大学の理事長になられた…。

島田 津田塾大学は津田梅子さんが1900年に設立した学校だ。梅子さんは6歳の時に北海道開拓使の米国派遣留学生(女子5人)の1人として岩倉使節団とともに米国に派遣され、そのまま11年間留学して17歳で帰国した。当時の日本の女性の地位はまだ大変低く、彼女は自立した女性を育てることで日本の発展に寄与しようと考えた。そこで、米国で知り合った資産家達に学校設立のための寄付を頼み、日本の篤志家の寄付もあわせて、現津田塾大学の母体である「女子英学塾」を開校した。英学科から発展して今では英文学科、国際関係学科、数学科、情報科学科の4つの科がある。数学科や情報科学科がある女子大は珍しい。

――現在は少子化で大学の経営は難しいと聞くが…。

島田 色々な産業がグローバル化している中で、大学はまだそれに対応できていない。それは津田塾大学に限ったことでなく、世界大学ランキングでも日本はようやく東大が23位に入っただけで、取り敢えずその東大が秋入学導入の前に四学期制を取り入れ始めたという程度だ。また、今は男女共学のほうが人気があるという傾向もあり、女子大には特徴のある、さらに魅力的な大学へ変革していくことが求められている。津田塾大学については、大学の都心回帰現象を踏まえて、千駄ケ谷の駅前にある敷地を利用し、情報技術の知識と国際感覚を備え英語に強い、言ってみれば「21世紀の津田梅子」を育てるような魅力ある新たな学科を作るという計画を進めている。

――現安倍政権も、女性の活躍推進に力を入れている…。

島田 今、日本の女性の就業率は約50%で海外平均の70~80%に比べてかなり低い。しかし、少子高齢化で労働人口が減っていく中、女性が働かないことには10年後、20年後の日本社会は成り立たない。結婚後も出産後も女性が働き続けられるような社会にするか、或いは移民を受け入れるか、二者択一だが、大抵の日本人は移民の受け入れに消極的だ。そこでアベノミクスでは女性の活躍推進とグローバル人材の育成に力を入れている訳だ。これは、まさに1900年に津田梅子さんがやろうとしていた事と同じだ。

――グローバルな人材を育成していくために必要なことは…。

島田 一番必要なのは、なるべく頭脳の柔軟な若い時期に海外に行って異文化を肌で体験し、現地で話されている語学を現地の人との会話から習得することだ。異なる考えを持つ人たちと対等にディベートするには自分の考えをしっかり持たなければならない。基本的に、単一民族に近い日本人は自分の意見と異なる意見を持つ人とディベートすることは苦手だが、それでは海外では通用しない。エネルギー資源がない日本では、東日本大震災後の原発問題でここ3年貿易赤字状態が続いているが、それでも経常収支が黒字を保っているのは所得収支が大幅な黒字だからだ。日本の海外純資産の残高は約300兆円で圧倒的に世界一。つまり、日本は物を輸出して稼いでいた時代から、海外に投資したものの金利や配当、ロイヤリティで所得収支を得て成り立つ産業投資立国に変わっている。それとともに、大学ではそういった大きな環境変化の中でグローバルに活躍できる人材を育てていくことが求められている。

――過去には住宅金融公庫の総裁として4000億円の赤字を2000億円の黒字に転換させた経験をお持ちだが、大学の問題点を改革していくにあたっては…。

島田 変革していく中で一番大変なのは、そこにいる人達(教職員、学生)の意識改革をすることだ。特に大学の場合、これまでは何もしなくても学生が集まり、受験してくれて、学校側は合格者を選んで入学させていればよかった。そこに危機感や競争意識はない。しかし、今は少子化が進み、更に学生が好きな大学を選んで受験する時代だ。大学側の努力や工夫がなければその大学の学生のレベルは下がっていく。一方で、どの大学にも共通した悩みとしてあるのは、重要事項を審議するために置かれている「教授会」が概して保守的であり、ガバナンス上の位置づけが明確でないこともあって、なかなか意見がまとまらないということだ。例えば理事長がオーナーのような場合は教授会にまで口を出せるが、ほとんどの学長には重要事項の正式な決定権がなく、人事にも口を出せない状態だ。日本の大学が世界に遅れをとってしまったのは、この辺りのシステムにも理由があると思う。

――日本の大学は、学生のためというより、教授のためにあるように感じる…。

島田 確かに、教授の中には自分の専門を深めるための研究に一生懸命で、生徒達に自分の知識を伝授して教育するという意識が二の次というような人物を時々見かけるのも事実だ。海外の大学教授は3~5年で実績を残すことが出来なければ辞めさせられるが、日本の場合は不祥事を起こさない限り辞めさせられることはなく、基本的には年功序列で給料が下がることもない。きちんとした評価が行われなければ大学の質が落ちてしまうのは当然のことといえよう。こういった問題を解決するには、やはりガバナンスをきちんとしていくことだ。企業のガバナンスの問題はこの20年、30年で沢山の議論がなされ、随分と発達したが、大学はまだまだ遅れている。それではいけない。

――今は日本の大学の危機だ…。

島田 少子高齢化、グローバル化の流れの中で日本が生き残っていくには、付加価値の高い仕事をして日本の生産性を上げる必要があり、そのためには教育を大事にしなくてはならない。日本は1868年の明治維新からわずか30年で近代化を達成し先進国の仲間入りをし、1945年の敗戦からわずか23年後の1968年にはドイツを抜いて世界第2位の経済大国にまでなった。それは日本が教育に力を入れてきたからこそ出来たことだ。もともと日本には寺子屋があり識字率が高かったことも背景にはある。労働人口が減る中で、いかに生産性の高い、高付加価値のものをグローバルに生み出せる人材を育てていくのかは、大学教育にかかっている。今の日本では予備校で良い先生に学び、暗記力があれば大学入試には勝つことができるが、社会に出て必要なのは発想力、説得力と実行力だ。その力を大学で身につけなければならないのだが、日本では入学してしまえば勉強しないという学生がたくさんいる。一方で、海外の学生は入学すれば皆、卒業するまで必死になって勉強する。そうしなければ卒業できない仕組みになっているからだ。この点は海外と日本で大きく違うところだ。

――資源のない日本が、いかに教育によって優秀な人材を育てていくか。それが今後の日本を左右していくことになる…。

島田 私が就職した1961年頃、日本で一番優秀な人材は財務省や大手銀行に就職していた。しかし、既得権で大蔵省に保護され、規制に守られていた銀行はグローバル化に遅れ、今では競争に晒されていた民間の企業の方が優秀な人材を輩出している。なんでもそうだが、あぐらをかくと進歩しないということだ。津田塾大学でも10年後、20年後の発展のためにそこに関る人達の意識改革を進めて、社会のニーズにあった秀でた女性を育てられるような大学を目指したいと考えている。(了)