オリンピックで後世に残る遺産を

オリンピックで後世に残る遺産を

東京五輪大会組織委 事務総長
大和総研 理事長
武藤 敏郎 氏


聞き手 編集局長 島田一

――東京オリンピック組織委員会の事務総長となられた…。

武藤 この東京五輪大会組織委(東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会)ではIOCと連携してオリンピック大会の運営に関係するすべてのことを行っていく。開閉会式、競技のスケジュール、海外メディアのための各種手配やセキュリティに関する問題など、やる事は盛りだくさんだ。組織委員会自体は最終的に3000人程度になると思うが、その他、ボランティア人員として8~10万人が必要になると見込まれており、人材の確保と、そういった人達に世界レベルの対応をしてもらうための教育も組織委員会で行わなければならない。前回1964年の東京オリンピックではすべて税金で賄っていたが、今回の組織委員会には税金は使われず、スポンサー収入で運営することになっている。選手村など仮設施設も組織委員会で作ることになっており、それもすべてスポンサー費用などで賄われる。民間の機運をどうやって盛り上げるかが重要なポイントだ。オリンピックの価値が上がれば、宣伝効果が増してそれらのスポンサーの価値も上がる。そこで企業の利益が増えればスポンサーシップも上手く回っていくという流れだ。

――やはり、資金調達は一番の課題だと…。

武藤 近年のオリンピックは、スポンサーシップの発展とともに、オリンピックが民間経済にどのような影響を与えるかに関心が高まっている。例えば、ボランティア人員にきちんとした教育を行うためには専門家を招聘する必要があり、そういった部分で人材派遣会社の協力が欠かせない。また、セキュリティ面では警視庁の人員だけでは到底足りないため民間警備会社に大量の人員派遣を呼びかけなくてはならない。さらに、オリンピックを機に東京から地方まで観光される方のために、各国旅行者に対応した案内表示などでこの国全体をオリンピック仕様にしていくという作業もある。その他、開会式の演出を誰にするかといった部分で文化関係者のアイデアを借りたり、日本の伝統文化の専門的知識をお持ちの方々にお話を聞いたり、メディアのための場所の確保や、各メディアに周波数を割り当てるために電波管理に詳しい専門家が必要だったり、オリンピック開催地として、細々とした作業を行なっていくことになる。来年1月にはIOCに基本計画を提出しなくてはならないため、当面はそれに全力投球だ。基本計画を提出する頃、この組織委員会は一般財団法人から公益財団法人に変わり、人材ももっと増えているだろう。最終的にすべてのメンバーが揃うのはリオの大会が終わる2016年くらいになると考えている。

――東京オリンピックのコンセプトとは…。

武藤 招致段階のコンセプトは「Discover Tomorrow」だったが、これに、もう少し肉付けをしていく必要があると考えている。例えば、これまでオリンピックとパラリンピックの開催期間を別々にしていたものを一緒にして健常者と障害者の共同祭典にしていこうといった意見や、メダル獲得時の賞金の差をなくそうといった議論もある。また、招致段階から心配されていた大震災の影響をむしろ前面に出すことで、オリンピックを機に世界各国に防災思想の高まりを促すといったアイデアもある。海外から人が集まることで、日本のグローバル化はより一層進むだろう。オリンピック後の日本がどのような変化を実現していくかが非常に重要なポイントであり、我々は、より開かれた、文化性の高い、活力のある日本に発展させていくために、アスリートの大会としての中身を発展させること、そしてアスリートの大会を超えた文化的、社会経済的な影響をしっかり考えたコンセプトを作り上げていく。

――問題点があるとすれば、それはどういったことか…。

武藤 東京オリンピックの開催が決まってから、大企業の中にはオリンピック関連組織を作るなど、色々なところで2020年に向けた取り組みが行われている。しかし、開催地が東京で主催も東京都が担うため、地方各県が格差を感じて不満を持つことにもなりかねない。そこが問題点だ。そこで、全国が等しくメリットを受けて発展していくために、選手たちのためのキャンプ地を地方に設置したり、開催地の東京だけでなく地方の観光地にも足をのばしてもらえるようなツアーを組んだり、地方文化の象徴である夏祭りを楽しんでもらったりというアイデアもある。オリンピックのスケジュールは2020年7月24日から8月9日まで、パラリンピックは8月25日から9月6日までを予定しており、ちょうど地方各地の夏祭りの時期と重なっているため現実味はあると思う。

――オリンピックはもはや単なるスポーツの祭典ではない…。

武藤 新興国におけるオリンピックはインフラ整備や国威発揚という意味合いが多いのだが、2回目となる東京でのオリンピックでは、インフラや単なる国威発揚ではなく、もっと違うものを後世に残していかなくてはならない。その代表的なものの例としてサイバーセキュリティがある。オリンピックはテレビやラジオなどで世界中に発信されるイベントであるため、IT環境を十分に整備する必要があることは言うまでもないが、それにともなうサイバーセキュリティについても万全の体制が求められている。6年後にどのようなサイバーアタックが行われるかはまだ想像もつかないが、ハッカーの技術レベルが上がれば上がるだけ防御の技術も上げていかなければならない。そのレベルを完全に制御することができる体制が整っていると証明されれば日本はサイバーセキュリティの先進国として世界に認められる。それが今回のオリンピックで後世に残せる遺産になると思っている。

――2020年の東京オリンピックに向けた抱負を…。

武藤 オリンピック競技大会を成功させることを基本として、2020年の東京オリンピックが長い歴史の中で新しい価値を持ったオリンピックとなるようにしていきたい。近年のオリンピックで新しい価値を提供したと評価されるロンドンに続き、世界人類のオリンピックという遺産に対する日本の貢献として、これまで以上に新しいオリンピックで世界に対して新しい価値を発信すること。それが、心がけるべき最大の課題だ。具体的な策は、これから文化、メディア、環境、ITシステムといった専門家達の意見を集約しながら時間をかけて詰めていく。まずは協力してくれる専門家の人選がポイントとなろう。その専門家達から最大限の良いアイデアが生まれるような仕組みづくりをしっかりと作っていくことが我々の課題であり、多くの人達の英知と力を結集して世界に誇れる人類の祭典にしていきたいと考えている。(了)