自由で効率的な市場経済を

自由で効率的な市場経済を

駐日ウクライナ特命全権大使
イーホル・ハルチェンコ 氏


聞き手 編集局長 島田一

――日本に対するメッセージは…。
ハルチェンコ まずは、「ありがとう日本」と伝えたい。日本からの支援は非常に重要で、今も我々は日本政府と様々な協力を行っている。ただ、政府だけでなく、民間団体も様々な支援を提供してくれており、感謝に堪えない。我々と日本は共にあることを実感している。我々はいずれ現在の困難を乗り越えるが、乗り越えたあとも、日本やその他の友好国の支援を決して忘れない。そして、将来的には日本の関係をより生産的で、強いものにしていきたい。遠く離れた日本が手厚い支援や同情を向けてくれていることは実に驚くべきことだ。まさに文明国の価値や規範が国境を越えることの証明であり、ともに価値を守り、悪を打ち倒していきたい。

――ウクライナ東部の状況については…。

ハルチェンコ 事態は非常に複雑だ。ただ、分離主義者たちがロシアの監督を受けているのは確かだ。また、ロシア側がウクライナとの国境付近に配備した兵力を撤退させないことも状況を難しくしている。我が国の外務大臣はロシア側に再三即時撤退を求めているが、現在までロシア側は筋の通った回答は得られていない。このことが我々を支援する国際社会に更なる対ロシア制裁を考えさせるようになっている。なお、隠すまでもなく、我々の市民や軍隊は戦う準備はできている。

――ロシアが提案する連邦制については…。

ハルチェンコ ロシアには全く関係のないことだ。その一言に尽きる。例えば、我々が日本に体制変更を求めたら日本はどう思うだろうか?ただただ馬鹿げており、傲慢としかいいようがない。いっそ、ロシア側が憲法を廃止して、全体君主国に体制変更をすればいいのではないか。彼らが現在行っていることは法を無視しており、君主国になる方が現状にふさわしいだろう。

――国際社会はウクライナに何をすべきか…。

ハルチェンコ 既に彼らは十分に支援してくれており、心から感謝している。ロシアが部分的にせよ状況を沈静化させる態度を示していなければ、前回のG7首脳会合で更なる制裁が考えられていただろう。また、我々は危機管理に加え、金融問題についてもIMFやEUと昼夜を問わずに作業している。将来的にEUに加盟するための準備も進展しており、数カ月以内には包括的貿易協定を締結する予定だ。問題となっているのはロシアだけであり、彼らはウクライナのサクセスストーリーが他の旧ソ連諸国にも広がり、ロシアのネオスターリン主義の障害となることを恐れているため、我々を妨害しようとしている。だが、はっきり言って彼らの行動は自己破壊的であり、国際社会の中での孤立を深めている。もちろん、北朝鮮といった国々はロシアの友人であり続けるだろうが、それは何の意味も持たない。

――より強い制裁をG7に求めるのか…。

ハルチェンコ 制裁の内容はG7が決めることだ。ただ、最近聞いたところによれば、EUや米国はもしロシアが考えを改めず、状況が安定化しなければ、新たなアプローチを検討しているという。新たなアプローチではセクター別のロシア経済への制裁を含む可能性もあるとのことだ。例えばより幅広い個人制裁もありえるだろう。また、ウクライナの一部でより強い制裁を求める声があるのは確かで、その声に対して国内で強い支持があるのも事実だ。

――5月の大統領選挙でEUへの加盟方針は変更しうるか…。

ハルチェンコ ここ数年間、我々はEU加盟を切望してきた。全ての政治的勢力がそれを求めており、他にオプションはない。従って、大統領選挙がどのような結果になろうと、我々が経済やその他の基準をEU加盟にふさわしいレベルまで改革していく方針に変わりはないだろう。もちろん、過去に加盟に逆行しようとした大統領もいたが、彼はもういない。我々の加盟への決意は固い。

――問題の解決には何が必要か…。

ハルチェンコ ロシアの体制の変化が不可欠だ。現在のロシアはいわば「帝国主義病」の状態であり、それが根本的に改革されなければならない。そのことをロシアに教育する必要があるが、残念なことに我々には十分な体力がないため、国際的支援を必要としている。現在のロシア政権は過去の悪いロシアの子孫であり、領土拡大を心から切望している。はっきりいえば、他国の領土を侵略することは彼らのDNAに刻まれているといってもいいだろう。そのため彼らは新たな帝国を作ろうとしているが、その企ては必ず失敗する。

――ウクライナ経済の現状は…。

ハルチェンコ いまは健全から甚だ遠い状態だ。IMFや世銀に加え、日本など、様々な二国間支援も必要としている。暫定政権も改革に向けて努力はしているが、毎日のようにロシアの脅威が強まっていることがその努力を妨げている。いまだ事実上の戦争状態が3月から続いており、大軍が国境に留まっている状況で、市民らの間でも不安が強い。経済は私の専門ではないが、一人のウクライナ市民としては、経済の再活性化法制度の改革が必要だと思っている。それも包括的に、あらゆる経済に関する法律改革が求められる。それさえ実施されれば、ウクライナ経済は必ず回復していくだろう。我々には肥沃な土地があり、優秀な市民がいるからだ。むろん、悪い隣人がいるという問題はあるが、先行きについては楽観している。何故ならば現在のウクライナでは政治的自由が認められており、ロシアと違って、政府に対して市民が自由に批判を行うことができるからだ。このことはウクライナ政府の効率性を大いに高めるだろう。またもう一点重要なのは、EUとの繋がりを強め、自由で効率的な市場経済を発展させることだ。

――自国民によって政治的自由が脅かされているという懸念もあるが…。

ハルチェンコ ウクライナのNHKに相当する国営放送CEOが、国会議員を含むナショナリストらに襲撃された不幸な出来事があったのは確かだ。彼らが行った、CEOの胸倉を掴んで辞表提出を強要した行為は個人的に受け入れることはできない。しかし、彼らの動機は理解できる。何故ならば、国営放送はロシアのプロパガンダを放映し、多数の命が奪われた現在の事態を招いた原因の一つになったからだ。そのためCEOは襲撃前の時点で更迭されていた。いずれにせよ、事件はとるに足らない小さな事件に過ぎず、もっと注目すべき重要な問題があるはずだ。我々は人権のために戦っているのであり、今後も人権を擁護する強い決意がある。

――ガスプロムのガス料金引上げの影響は…。

ハルチェンコ 引き上げは深刻な問題だが、過去の経験からウクライナはこうした状況に対する準備をしてきた。また、幸いなことに季節が春ということもあり、ガス消費量は減少する見込みだ。近隣国の支援もあるし、ヨーロッパから逆輸入することも可能だ。ただ、笑ってしまうのは、現状ではガスを算出しないヨーロッパからガスを輸入する方が、ロシアから直接輸入するよりも割安なことだ。いかに現状が異常かを象徴している。とはいえ、これまでロシアは明かにガスプロムを武器として利用してきたが、その影響は今後弱くなっていくだろう。ヨーロッパはロシアへのエネルギー依存を再考しはじめているし、それにガスは永遠に算出されるものではないからだ。実際、ウクライナは60年代後半まで有力なソ連へのガス供給元だった。ロシアもいずれ同じ経験をするだろう。

――最後にもう一度日本に対するメッセージを…。

ハルチェンコ 心から日本の繁栄を祈っている。将来的には、もっと友人を増やせれば幸いだ。我々は地理的には離れているが、様々なものを共有しているし、一カ国を挟んだ「隣の隣」でもある。確かに「隣」は巨大かもしれないが、彼らの政治的な影響力の小さくなっているのは間違いない。安定が取り戻された暁には、日本企業進出なども協議していきたい。(了)