国の財務書類を検証する時期に

国の財務書類を検証する時期に

公認会計士協会 副会長 梶川 融 氏
常務理事 井上 東 氏
自主規制・業務本部 主任研究員 関川 正 氏



聞き手 編集局長 島田一

――パブリックセクターの銀行とその他の独立行政法人は同じ公会計でも違うと聞いている。また、時価会計の現状は…。

梶川 多くの公的金融機関は独立行政法人ではなく、その会計処理はほぼ民間企業に近い形で行われている。一方、独立行政法人は、民間企業の会計に独立行政法人の特殊性を加味した「独立行政法人会計基準」を適用しており、少し違いがある。また、固定資産の時価会計はそもそも民間企業でも行われていない。ただ、利用価値がなくなってきたり、マーケットの値段が著しく落ちてきたりした場合に帳簿価額を下げて評価する「減損会計」はすべての独立行政法人で行っている。とはいえ、売却を前提として評価しているわけではないので、例えば、売却した場合には帳簿価格より低い値段でしか売却できない、もっと低いというようなことで話題にされることはあるかもしれない。

――100億円の資産価値しかないのに1000億円の価値を計上していることもある…。


 関川 そこまで極端なケースはほとんどないと思う。独立行政法人ができてからの10年間でそれほど時価の下落はなかったはずだし、また、減損会計による歯止めも効いている。


梶川 公認会計士の監査は規模によって義務付けられているため、小さな独立行政法人では監査を受けていないケースもあるが、だからといってふたを開けてみれば財産がまったくなかったというような独立行政法人はないと思う。

――大学の会計については…。

井上 全体的な会計の流れを説明すると、法人化以前は独立行政法人も国立大学法人も国の中にあり、一般会計および特別会計で整理されていた。それが中央省庁等改革基本法により、外に切り出されることになった。先ず平成13年に独立行政法人が切り出され、その後、平成16年に大学が切り出された。つまり、国の中にあって見えなかったものが外へ出てきて、独立行政法人、大学法人はそれぞれ個別に決算書を作るようになり、監査も導入されるようになった。いわゆる「見える化」が進んだということができる。その点では全体的に前進はしていると思う。それでもさらに利活用という点で進化していかなくてはならないというのが今の課題だ。

――国立大学の減損処理がいい加減だと言う人もいるが…。

梶川 独立行政法人も国立大学法人も減損の考え方が民間企業とは違う。民間企業は固定資産を使ってお金を儲けるために固定資産が存在し、儲ける力が弱くなると固定資産の価値を落していくことになるが、公的な資産は利益を生み出すために存在している訳ではなく、公的なサービスを提供するために存在するため、当初の目的どおりきちんと運営されていればその価値はきちんと残っているということになる。独立行政法人になったのは平成13年で、資産はその当時の時価で帳簿に計上された。その後、利用価値が極端に下がった場合などは、減損会計で帳簿価額が引き下げられている。100億円と計上されていたのが実は10億円だったとか、そのような事は現実にはない話だと思う。

――この10年ほど企業会計では多数の不祥事があって公認会計士の監査に対する目も厳しくなっていたと思うが、公会計でそういった問題はないのか…。

梶川 独立行政法人で財務諸表が歪んでいて数字が大きく異なっていたり、大きな粉飾があったという話は聞いたことがない。ただ、入札に絡む小さな不祥事などはあり、国民の大きな関心事でもあるため、そういった不正については我々も監査の中で留意している。少額の贈収賄や研究費の不正といった位置づけのものはあっても、決算書全体の数字が歪むような話はないと思う。

――独立行政法人の公会計の見直しについては…。

梶川 昨年末に国会を通過し、今後ガバナンスの強化などを含めて見直しを行う予定だ。大きな国民的関心のあるような見直しと言うより、技術的な部分での見直しになっていくと思う。独立行政法人の会計の一番の問題は、効率性がわかりづらいというところであり、決算書を見て、その法人がどれだけ頑張っているかをもっとわかりやすくしようという試みを始めているところだ。

――省庁の会計にも複式簿記が導入されておらず、監査もない…。

梶川 10年くらい前からストック情報を入れた国の財務書類が公表されているが、あまり関心を持たれていない。財務書類を読み込む力が必要なのだが、そのような教育が一般の国民の皆様に行われていないということが問題だ。国の予算に基づく財務の情報を一般の国民に分かりやすく見せるのは重要なことだとは思う。我々が会計の専門家として、国の今の財務状態はどのようなものなのかを国民の皆様へわかりやすく伝えるような活動を始めなくてはいけないと考えている。また、国には会計検査院等があり、その検査にあたって、我々としては部分的に専門的知見でお手伝いするということはあるかもしれない。ただ、国の財務諸表に会計士が監査の印を押すというのはあまり現実的な話ではない。

関川 日本の会計検査院はチェックするものの、国が作った財務書類に対し、公認会計士が民間企業に対して出しているような監査報告書を出しているわけではない。しかし、他の国では国の財務諸表をチェックし、監査報告を出して、さらにそれも含めて税金の無駄遣いを指摘したり、効率性を指摘するところが多い。日本の会計検査院も税金の無駄遣いや効率性の指摘をしているが、財務諸表が適正に作成されていますといったお墨付きを文章で与えているわけではない。

井上 国の省庁別会計について言えば、「国の財務書類」という言葉を聞いた時に、一般の国民は国と地方自治体の両方をイメージするケースが多いと思う。国民は税金を払う時にそれが国税なのか地方税なのかを明確に区別して考えることはあまりないからだ。しかし、「国の財務書類」(単体)に示されているのは国が保有する財産と費用と収支で一般会計と特別会計のみだ。連結してもようやく独立行政法人、国立大学法人などが加わるだけで、国から地方自治体に補助金として出ているお金で購入した財産等の情報は、国の財産ではないので含まれていない。そのあたりを今後連結するなどして、日本の政府全体としての財務諸表を作る必要があるのではないか。ただ、それができないのは、ほとんどの自治体がそのような計算書を作成するべく努力している過程であるということや、統一的な会計基準が現状では存在していないということ等が理由であると思われる。こうした基本的な枠組みができた後、次のステップとして「監査」という話が出てくる。その時に一番の後ろ盾となるのは、国民の決算書に対する要求だと考えている。会計士や政治家がどんなに一生懸命に国の決算書を作成し、「見える化」を進めようといったことを唱えても、国民がそこに無関心であればこういった問題は先に進まない。自分の税金がどのように使われているのかということに対して、もっと詳細でわかりやすい情報開示を要求していけば、こういった動きのスピードも速くなる。行政もそこが一番気にしているところだと思う。国の財務書類を公開して約10年たった今、果たしてそれが国民に読まれ、利活用されているのかということを検証していく時期に入っている。

――地方公共団体における公会計の検討については…。

関川 今の制度上の会計は、現金主義で予算を作り、それに合わせた決算を行うようなことになっているが、それに加えて、総務省からは企業会計と似たような発生主義の財務諸表をつくることを要請されている。ただ、その作成の仕方にも色々な方式があるということと、固定資産台帳を必ずしも整備しなくてもよかったということがこれまでの問題点だった。そこで、複式簿記で作成するということと、固定資産台帳を整備するということを強く推し進めている。過去、総務省の研究会が出した報告書では二つのモデルが並立的に提示されていたため、比較可能性がなく、分かりづらいし、自治体内部で類似の自治体と比較して上手く活用することができない事が多かったため、その部分をなるべく統一するように新しい基準を総務省の研究会で検討していた。その研究会報告書が4月30日に総務省から公表されたところだ。

――東京都も入れれば3方式だった会計基準を一本化すると…。

関川 過去からやってきた経緯もあるため、色々なやり方を認めている部分はあるが、土台はある程度一緒にしてある程度の差は認めつつ、比較出来るようにしようとしているのが今回の総務省の研究会での検討だ。例えばこれまでの「推算」していた固定資産が個々の資産台帳にひも付いてくるためその状況が明確になり、検証可能性も高くなる。また、事業別に資産がどのくらいあるというような細かい部分の分析も出来るようになる。

――減損については…。

関川 今回の総務省の議論では減損会計を入れない形になっている。ただ、減損会計の規定がないことが、全く評価減を行わないことを意味するわけではない。日本の民間企業の会計でも減損の規定が出てきたのは約10年前だが、それ以前でも価値が著しく下落すれば評価減しなくてはならないという規定は旧商法にあった。ある日突然減損が始まったわけではなく、その計算の仕方やどういう時に減損しなくてはいけないとかというルールが減損会計によって明確になっただけだ。多くの自治体の場合、もともと売るつもりで保有しているわけではない。このため、単に時価が下がったから評価を下げると言うことはないと思う。中には開発用の土地などは評価を下げるようなことも必要になってくるとは思うが。

――複式簿記と固定資産台帳の導入はいつごろか…。

関川 法令化はされず、地方公共団体に要請していく形になると思うが、来年1月頃に何らかの行政措置を行い、その後3年~5年をかけて徐々に移行を促していくという形になるだろう。

――将来的に監査を導入するようなことは…。

関川 公認会計士の監査を必要とするといったことは今のところ議論には上がっていない。今、多くの会計士が行っているのは財務書類の作成指導のようなことだ。多くの自治体の財務書類は、今は複式簿記による積み上げではなく、推算で行われているため、正直言えば今の財務書類を監査してくださいと言われても、企業と同じような監査はできない。作っている方が推計なので正しいかどうかわからないような数字を公認会計士が正しいと判断することは当然できない。

――自治体や省庁に複式簿記を使った公会計が本格導入されれば公認会計士の活躍の場が増えるだろう…。

関川 先ほど会計検査院の話でも、国の財務書類の監査をやることになれば、会計検査院の中に公認会計士の資格を持った人が必要になるかもしれないし、部分的な監査業務を入札して外部の監査法人に監査補助を任せることも考えられる。そういった意味では活躍の場は確かに増えるだろう。

梶川 今現在、過去の財産を数値化して整理する仕事もたくさんある。どのような金額をどうつけるかはこれから議論されていくのだと思う。そのあたりで我々が助言していく部分はあると思う。最初の基盤ができて、それを積み重ねていくということだ。その上で国民、住民の皆さんがどのようにその数字を読み込んでいくのかといったところで少しなりとも説明をして、信頼のできるようにアドバイスをおこなっていく。自治体全部1700団体くらいを改善していくとなれば、前段階整備にかなり時間がかかる。特に老朽化したインフラの管理などは大変だ。その全体像の把握は重要なテーマとなろう。そういうこととあわせて私どもなりのお手伝いをしていきたい。

――公認会計士協会の今後の課題は…。

梶川 自治体にも会計的知識のある人材を育成していくことは今後の日本にとって非常に重要なことだと思う。次には、そういう道具を使ったマネージメントが出来る人。時代につれて求められる財務諸表が新しく変わっていけば、それをきちんと扱える人が自治体の経営にも必要になってくるということだ。その最大の目的は住民から集めた税金をいかに有効に使って住民に還元していくということだ。そこにどのように貢献していくか。我々が自治体等に勤務するといったことも今後は必要になってくるのではないか。

井上 その点で、議員の方、特に、地方議員の方には是非、複式簿記を理解していただきたいと思っており、今、協会でも地方議員の皆様に地方会計のセミナーをおこなっている。23年度に開始して約2年で述べ600人近くの地方議員の方々に各自治体で作っている決算書をどのように読めばよいのか、その活用法の講座を公認会計士協会から講師を派遣して行なっている。それは引き続きやっていきたい。また、議員の皆さんに限らず、複式簿記がどういったものなのか、それを知っている人間が日本には少ないと思う。英語も大事だと思うが、それ以上に複式簿記の知識は有用であると考えている。複式簿記というのはいろいろな局面で役に立つものであり、一般企業に投資をする時も必要だし、自分で会社を経営する時も必要だし、家計を理解する際にも必要だ。このように、国民全員にとって必要な知識であるにもかかわらず、この部分の取り組みが弱いと思う。もっと国民の教育として複式簿記を取り入れて欲しいと思っている。決算書の作成者と会計士だけが一生懸命情報提供しても、それを使う側の読解力がないことにはどうしようもない。今、協会でも中高生に簿記の勉強を教える無料の会計講座(ハロー!会計)を行っているが、それをもっと拡大して国民皆様への会計教育を浸透させていければと思っている。(了)