上場し業務の自由化を目指す

上場し業務の自由化を目指す

日本郵政
取締役兼代表執行役社長
西室 泰三 氏


聞き手 編集局長 島田一

――御社が置かれている現状を見ると、頑張れば民業圧迫と言われるし、利益を上げなければ上場は出来ない。その舵取りは大変難しい…。

西室 そもそも2005年の郵政民営化の議論の時は、「郵政が政府機関の一部であるのはおかしい」というだけで突き進み、その理念や民営化後の具体的なロードマップは無いまま郵政民営化法が国会を通過してしまった。そして民営化後、5つに分割されたそれぞれの会社にはきちんとした指針もなく、郵政が小さくなることが良いと言わんばかりの風潮の中で、貯金や保険は減少し、郵便事業も宿命的に縮小するなど主要事業すべてがやせ細っていった。当時の竹中郵政民営化担当大臣は色々なアイデアを出されていたが、現実にそれらを実施するには様々な障害があった。そういった中で何が本当にグループの将来のためになるのか不安に思う社員も出てきたが、それも当然だと思う。その後、改正郵政民営化法で「郵便・貯金・保険のユニバーサルサービスをきちんと行うこと」と、「郵便局ネットワークをしっかり活かすこと」という方針が出され、そこではっきりと郵便局の使命が変わった。そして今は、法改正前の遠心力が求心力に変わり、国のため、社会のために役立つ郵便・物流サービスと金融サービスをしっかりと行っていこうと頑張っている。その求心力をもっと強めていきたい。

――グループ中期経営計画について…。

西室 今回の中期経営計画は、現存の規制をそのままに我々が努力して描ける3年後の姿だ。総額1兆3,000億円の投資を「ものすごく大きな数字だ」とおっしゃる方もいらっしゃるが、その数字にはきちんとした裏づけがある。この7年間、我々は設備投資も先送りして大変な合理化を行い、明らかに無駄の部分は小さくなった。しかし、これ以上はもう組織の体力が持たない。郵便局が地域コミュニティの重要な部分を担っているという基本を考えても、例えば壁が剥げ落ちていたり、屋根から雨漏りがしたり、いまだに旧式のトイレのままというような部分は徹底的に改善しなくてはならないと考えている。当グループはお客様にサービスを提供していく会社だから、まずはお客様のために、そして、社員の士気をあげるためにも施設の修繕は重要だ。また、民営化後5社に分割された会社は将来各々で独立するという方針だったため各社毎にシステムを管理していたが、改正郵政民営化法では4社体制に再編成され今後もグループとして存在し続けることとなったため、全体としての統合的なシステムが必要不可欠になった。24,000もの郵便局を持つ膨大なネットワークを迅速かつ正確にデータ処理し、セキュリティ面でも安心出来るようなシステムをしっかりと作り上げなければならない。そのための設備投資は当然必要だ。もうひとつ、貯金残高を6兆円増やすという目標に対して「民業圧迫だ」という声もあったが、当グループはピーク時(1999年度末)には260兆円を超えていた貯金残高を、177兆円まで減らしてひたすら体力を失ってきた。ここをボトムに、これから6兆円増やしてしっかりとしたサービスを提供していけるグループになっていきたいと考えている。そういった考えの下に今回のグループ中期経営計画を作った。

――郵政株の上場については…。

西室 国有財産の処分については、基本的に財務省の財政制度等審議会の中にある国有財産分科会で検討され、その審議が通らないことには来年度の予算に計上されないため、郵政株の売却についても現在審議が行われているところだ。我々は今、それを静かに見守っている。郵政株を上場することについて現実味が出てくるのはその審議を通ってからであり、何が起こるかわからない今の段階での発言は控えたいが、その後のアクションについての準備と覚悟はしている。例えば中期経営計画の初年度の今年は各社で上場のために必要な準備をしていくということを再確認しており、15年度以降はいつでも上場出来るように、財務諸表の四半期毎の公開や経営の透明性確保についての対応など、上場するにふさわしい社内的な体制はすでに相当程度完備している。

――上場するとなれば投資家からは将来ビジョンのようなものが求められると思うが、国の規制がかけられたままでは夢の描き方も難しいのではないか…。

西室 確かに、他の銀行や保険会社と同様の業務がすべて行えるように、現在当グループにかけられている規制を外してもらえれば将来の夢を描くことも容易になるだろう。しかし、今はそれをはっきり描けないまま上場を求められているという状態だ。国会議員の方々の中には「このような規制があるのはおかしい」とか、「貯金の預入限度額は外すべきだ」などと声を上げてくださる方々もいらっしゃるが、これまで実際の政治プロセスにはそういったことは反映されていない。そうであれば、我々としては政治に期待した計画ではなく、今ある規制の中でも出来ることを考えて夢を描くしかない。例えば、商品ラインナップの充実などは今後我々が力を入れていく部分だと考えており、すでにコンビニと併設しているような郵便局もあるように、何かあったらいつでも郵便局を頼っていただけるように、お客様にとって価値のある商品を揃えていこうと地域毎に色々なアイデアを出している。社員約40万人という巨大グループがしっかりと力を発揮できるような形を作っていきたい。

――夢があればあるほど上場企業のPERは上がる。そしてその倍率が高ければ高いほど郵政株を売却した時に国に入ってくる資金は多くなる。そうであれば政府は規制など外してしまった方が良いと思うが…。

西室 その考えには我々としても共感する部分はあるが、そのようなことになればすぐに民業圧迫という声が出てくるだろう。例えばアフラック(アメリカンファミリー生命保険会社)と提携した時も色々言われたが、これも純粋に郵便局のネットワークを活用するという考えの中で決定したものであり、かんぽ以外の保険を郵便局が取り扱うことが出来れば可能性はもっと広がり、夢も大きく描けるようになると考えている。先ずはトライアルであるアフラックのがん保険を将来的に2万局まで広げていくことを目標に、その後、徐々に他の保険会社の商品の代理業にも取り組んでいくつもりだ。

――資産の運用方法についての考えは…。

西室 我々が保有する国債の総額はゆうちょとかんぽを合わせて約200兆円で日本最大だ。これに対して国債の比率が高すぎるといった声や、我々が国債を放出し始めたら日本国の危機だというような声を聞くが、日銀や政府から国債の保有について何か言われたことはない。我々としては現状の国債の保有を意識的に大幅に減らすようなことは考えていないが、上場するとなれば当然運用効率が問われてくるため、規制がなくなればもっと多様化していかなくてはならないと考えている。政府が上場を急ぐ理由は東日本大震災の復興財源のためだと思うが、我々が上場を急ぐインセンティブとなるのは、政府の持ち株比率を50%未満にまで減らして規制を緩和することだ。この方向性については既にJP労組も含めて皆さん前向きに賛成してくださっており、上場後には全社員一丸となって新しい郵政グループを展開していきたいと思っている。(了)