北陸新幹線は100年に1度のチャンス

北陸新幹線は100年に1度のチャンス

富山県知事
石井 隆一 氏


聞き手 編集局長 島田一

――2015年春の北陸新幹線開業まで、いよいよあと1年足らずに迫った…。

石井 北陸新幹線は、当面、金沢が終着駅であるが、大半の乗客が富山県を素通りするのではないかと心配する声も一部にあるようだ。ただ、富山県には世界に誇れる立山黒部アルペンルート、世界遺産の五箇山合掌造り集落などの観光名所があることに加え、黒部宇奈月温泉駅、富山駅、新高岡駅と県内の東西3か所に新幹線駅が設置されるため、北陸新幹線の開業は、富山県にとって50年、100年に1度の大きなチャンスだと思う。雄大で美しい自然や、寒ブリ、シロエビ、ホタルイカなどの富山湾の魚をはじめ美味しい食べ物、多彩な歴史・文化、日本海側の県として実質トップのものづくりの伝統など、魅力ある資源をさらにアピールしていきたい。

――富山県の「ものづくり産業」の現状は…。

石井 「くすりの富山」として昔から知名度のある医薬品産業に加え、産業用ロボットや自動車用精密部品、ウォータージェットマシンのメーカ-など、様々な企業がそれぞれ高い技術力を発揮している。また、地元の伝統産業も最近健闘している。これらをサポートするため、全国や世界に胸を張れる品質の製品・産品を「富山県推奨とやまブランド」として、それに準じるものを「明日のとやまブランド」として、各々、有識者委員会の審査に基づいて県が認定し、その魅力のブラッシュアップや国内外への発信を支援している。江戸初期からの伝統工芸品である高岡銅器の生産額は平成に入ってから低下傾向をたどっていたが、ブランド認定の後押しもあって、国内をはじめ海外でも高い技術やデザイン力を評価される事業者が出てきている。最近、ニューヨークで開催したとやま伝統工芸PR展示会でも高岡銅器や越中瀬戸焼は期待以上に高い評価をいただいた。北陸新幹線の開業による地域間の連携、競争ということもあるが、富山県のものづくり産業を全国屈指に、できれば世界レベルへと成長させるための生産基盤・生活環境の整備の大きなステップとしたい。その一つとして、機械加工やメッキなど各分野で高度な技術を持つ企業を共同受注グループとして組織化し、より高い技術水準が求められる航空機の部品などを県内で共同受注し製造することなどを目指している。

――医薬品分野については…。

石井 医薬品分野でも、富山県内にはジェネリック医薬品の大手や、経皮剤、口腔内フィルム剤などを得意とする会社など、高い製剤技術を持つ様々な企業が存在する。富山県における2012年の医薬品生産額は6000億円を超えて全国3位となり、8位だった7年前と比較して2.3倍に成長した。これは、2005年の薬事法改正で医薬品製造の全面アウトソーシングが認められたため、優れた製剤技術を有する県内企業が製造工程の一定部分のみでなく製造すべてを任されるようになったことの影響も大きい。また、貼付剤などの分野で独自の高度技術を有する各企業の努力はもとよりであるが、例えば、富山県の薬事研究所に免疫の先端分野の研究で世界的に知られる東京大学名誉教授の高津聖志先生を所長として招くなど、産学官による研究開発拠点の機能強化に取り組んだことも良い結果につながった。2009年には、世界トップクラスの製薬企業が本社を置いているスイス・バーゼルの2州と医薬品分野の連携・交流協定等を締結した。このような連携を通じ、医薬品の共同研究や受託生産、研究者同士の交流などの成果が生まれてきている。

――北陸新幹線の開業により、企業立地面でも優位性が増す…。

石井 北陸新幹線は富山-東京間を2時間7分で結び、鉄道の輸送能力は現在の年間約600万人から約1900万人へと3倍強となることが見込まれる。また、富山-羽田便の飛行機は現在1日6便程度運航されているが、これに対して北陸新幹線は1時間に2本又は2本近く運行される見通しで、かつ、運賃の比較でも片道で1万円程度は安い。新幹線による利便性の向上や、元来、勤勉な県民性、地震など災害の少ない地域であること等が評価され、リーマンショックでペースダウンした県内への企業立地があらためて進みつつある。私も職員とともに、これまで東京や大阪、名古屋、京都、浜松など大都市地域で企業立地の説明会を行うとともに、県内企業の受注をより円滑化するため、発注側と受注側とのマッチングなど販路開拓の支援にも力を入れている。発注側の企業が多い東京都や神奈川県といった大都市圏では、積極的に商談会を開催している。特に神奈川県の黒岩知事とは連携を深めようと、一緒に商談会に出席しているが、受注側、発注側の双方ともメリットを享受できることから、毎回盛り上がりを見せている。

――日本全体では産業の空洞化が進んでいるが…。

石井 全体的な趨勢と同様に、富山県内の中小企業にも海外に進出する企業が増加しつつある。県としては、研究・開発拠点やマザー工場を県内に置き、雇用を維持・充実してくれることを前提に、海外進出のサポートを行っている。企業、特に中小企業が海外に進出する際の問題としては、言葉や税制、法律、商慣行の違いに加え、相手国政府や自治体との人的なコネクションがないことが大きい。そこで、私を団長などとするミッションを組んで、相手国政府や州などの首脳、実務責任者と面談し、進出する場合の条件についての情報収集や必要に応じ条件交渉も行っている。大臣や自治体の長、幹部と直接コンタクトを取り、人間関係も築いておけば、企業もそれ相応に一定の信頼度を持って進出できることになる。その一方で、進出の際にお手伝いをしサポートしているので、海外で稼いだ利益については富山県にも還元してもらい、当該企業、進出先の国・地域及び富山県が共存共栄でやっていこうとお願いをしている。

――北陸新幹線が開業すれば、富山を訪れる観光客の増加も見込まれる…。

石井 富山県ではこれまで、豊富で良質な水、廉価な電力、勤勉でねばり強い県民性等を活かしてものづくり産業の育成に力を尽してきた。観光振興にも努めてきたが、現時点では、富山県は観光の面ではまだ発展途上県であり、だからこそ伸び代が大きいと考えている。これを北陸新幹線の開業を契機として大いに変革し、新たな飛躍を目指したい。

富山県には立山黒部アルペンルート、黒部峡谷トロッコ電車、宇奈月温泉、世界遺産の五箇山合掌造り集落、国宝瑞龍寺など魅力ある観光地がたくさんあるにもかかわらず、控え目な県民性からか、あまりアピールをしてこなかった。北陸新幹線が開業すれば、東京から立山黒部アルペンルートへの観光の際に長野・大町ルートよりも、富山駅や黒部宇奈月温泉駅からの方が近くなる。また、東京から岐阜県の飛騨高山に行く場合でも、名古屋経由に比べ、富山経由では所要時間を30分も短縮できる。こうした環境の変化をとらえ、富山県が誇る自然、歴史・文化、食、温泉などの魅力を組み合わせて、観光誘客をさらに積極的に行っていきたい。海外からの観光客は着実に増加しており、一昨年春の富山-台北便の就航とその後の増便の影響などもあるが、平成25年に立山黒部アルペンルートを訪れた海外客は約14万5000人と、前年比で63%増、10年前に比べ6倍強に増加した。さらなる大幅な伸びも十分可能で、引き続き努力したい。

――石井知事が思い描く、富山県の未来像とは…。

石井 私は9年半ほど前に、ふるさと富山県を何とかもっと元気にしたいとの思いで、知事に就任させていただいた。人間が生き生きと働き暮らしていくためには、経済の活性化はもとより、心の元気、精神の元気が重要だ。地域の振興は、そこで働き暮す人間の振興でもあると思う。その意味で、経済産業の振興のためにも芸術文化・スポーツの振興や人づくり、教育に力を入れている。

最近、グローバル人材の養成の必要性が指摘されているが、本県では、今年から小学校の英語教育について県単独で実験的な取組みをスタートさせた。他方で、グローバル化が進む時代だからこそ、子どもたちが生まれ育ったふるさとに誇りと愛着を持ち、そこに心の根っこを置きながら健やかにたくましく育ち、県内はもとより全国や世界で大いに活躍してほしいと考え、ふるさと教育の振興にも取り組んでいる。そのため、まず、ふるさと文学の振興と魅力あるふるさとづくりに資するため、一昨年、旧知事公館を廃止し、必要な増改築を行って「高志の国文学館」を開設した。また、県教育委員会に要請し、小中学生向けに、幾多の困難を乗り越え、輝かしい実績をあげた「ふるさととやまの人物ものがたり」の作成・配付を行うとともに、高校生向けに、郷土史・日本史の学習補助教材「ふるさと富山」の作成を行い、数年間試行して、昨年度から日本史を選択しない生徒も全員が郷土史・日本史を学ぶようにしている。また、子どもの理科離れなどを防ぐため、小学校への理科等の専科教員の配置の効果が大きいとの現場の声を受けて、3年前に国の補助制度が廃止された際に、逆に県単独で専科教員の配置校を30校から2倍強の66校とするといった措置も講じてきた。

産業活動の面では、全国的な傾向と同様、富山県でも廃業数が起業数を大幅に上回っていたため、県内の優れた創業者・経営者の方を塾長とする「とやま起業未来塾」を9年前に開設し、若者、熟年、女性の起業や新分野進出等を積極的に支援してきた。最初は苦戦気味であったが、塾長、塾頭をはじめ多くの志のある経営者や講師の皆さんが塾生たちを温かく、時に厳しく指導し、サポートして下さったことで、卒塾者の創業率は7割に達し、中には中小企業庁長官賞を受賞するような若者も出てきた。規模の大小は別にして、夢、情熱、志を持った起業家が地方から育ってくれることは、必ず日本全体のためにもなる。10年先、20年先の日本、富山県の将来や課題を展望しながら、本県が取り組むべき各般の施策を、今後ともスピード感を持ってしっかりと進めてまいりたい。