銀行のコーポレートガバナンスを強化

銀行のコーポレートガバナンスを強化

衆議院議員
自民党
塩崎 恭久 氏


聞き手 編集局長 島田一

――自民党・日本経済再生本部が掲げた「日本再生ビジョン」について、金融界ではあまり期待出来ないという声が多いが…。

塩崎 先月発表した「日本再生ビジョン」は、昨年の「中間提言」を引き継いでいる部分も多いが、今年は自発的に英語に翻訳して広めてくれるような外国人もいる程、比較的評価されていると認識している。政府はこのビジョンから取捨選択して6月下旬に閣議決定する予定だ。取り入れられないものも若干あると思うが、ほとんど取り入れられると思う。目玉はコーポレートガバナンス強化、地域金融の機能強化、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の改革などだ。また、すでに大学のガバナンス改革のための学校教育法改正案など、衆議院本会議を通過しているものもある。これは教授会の在り方を戦後初めて変えることになる大変革命的なことで、教授会が勝手を出来なくなれば日本の高等教育の文化も変わっていくと思う。

――コーポレートガバナンス改革では、株式持ち合いの解消を進めていくということだが、株式が大量に売却されれば市場が混乱するという声もある…。

塩崎 ドイツでは株式譲渡益課税の廃止などの税制改革もあって、株式持ち合いを劇的に減らした。それで株価が下がったということは起きず、むしろ今のEUの状況にあってもドイツの景気は良い。改革の途中でメルケル首相に政権交代して株式譲渡益課税は復活することになったが、それでも株式の持ち合いは減少を続けている。やはりコーポレートガバナンスが効いていた方が良いということだろう。我々はそのドイツを参考に、昨年から株式持ち合い解消や銀行等の株式保有の禁止を含めた保有制限の強化を提言している。もちろん、そのために株式市場での売却が増加し、株価に影響を及ぼす可能性もあるため、しっかりとした受け皿の枠組み構築も考えている。さらに今回は、それぞれの一定以上の株式の政策保有に関して、開示のみならず、理由説明を求め、実効性を高める仕組みも整えている。

――受け皿の枠組み構築とは、具体的に…。

塩崎 ひとつは銀行等保有株式取得機構を活用して、機構に株式を買ってもらうことだ。機構は購入したらETFなどに組み入れて売ればよい。やり方はいくらでも考えられる。その他、売却株式の商品性向上の工夫など、詳細は「日本再生ビジョン」にしっかりと書いてあるのでお読みいただければと思う。また、例えばキャピタルゲイン課税をなくすといったような税制改革については年末でなければ決まらないため、ここでは触れていないが、時間をかけてゆっくりと売却していくのであれば、市場が混乱するといった懸念はあまり重要ではない。重要なのは、なぜドイツだけが元気なのかということだ。それはコーポレートガバナンス・コードを導入したり、譲渡益課税を廃止して株式持ち合いの解消を進めたり、労働市場改革を行う、等々広範な改革を包括的に一気に、トップダウンに断行したからだ。そうすると、企業は頑張らざるを得なくなり、銀行は銀行本来の仕事に戻る。株式を持ち合って銀行が企業に対して影響を行使するようなこともしない。それが重要だ。その他、「日本再生ビジョン」では独立社外取締役の導入促進も提言しているが、何人導入するかといったことも、それは単なる必要条件であり決して十分条件ではない。我々政治は、そういった必要条件を満たすための枠組みを整えることが仕事だと考えている。その後どうしていくかは各々の企業の経営次第だ。

――地域金融機関における「日本版スーパー・リージョナルバンク(仮称)」の創設について、無理矢理統合しても良い事はないという意見を多く聞く。優勝劣敗の制度を作って、潰れるべきものは潰すべきではないか…。

塩崎 無理矢理統合させるつもりは全くなく、どこにもそんな記述はない。ただ、日本の銀行は潰れない。それは県境でお互いに攻め入らないからだ。そういった金融機関が中途半端にやっていけてしまうことが問題なのであり、その漫然とした秩序を壊す必要がある場合があるという考えから「日本版スーパー・リージョナルバンク」構想を立ち上げた。日本の金融機関には、もっとアニマルスピリットをもった経営が必要だ。そこで銀行にもコーポレートガバナンスの強化の一環として複数の独立社外取締役の導入を提案し、根本から変えていこうとしている。実は金融庁はこの導入に対して慎重なのだが、既に監督指針では「少なくとも1人の独立取締役を入れる」との指導をしている。私はこれをやや中途半端で、銀行にはもっと模範演技を見せて頂きたいと感じている。韓国の金融機関さえ4分の1、中国でも3分の1の独立社外取締役の導入が定められている中で、現状の日本の金融機関には少なくとも1人という規定では物足りなくないか。そのような文化の銀行では、本格的に育てる金融が出来にくいとの懸念がある。

――地域金融機関の企業文化を変えて、県境を取り払うということか…。

塩崎 コーポレートガバナンスでベストプラクティスを求めていくこと自体が、企業文化に変わって頂きたいということだ。金融機関は普通の企業と違って税金で守られている。とはいえ資本主義である以上、国が手を出すわけにはいかない。株主がしっかりと意見を出して、あくまでも経営判断でやってもらうしかない。だからこそスチュワードシップ・コードやGPIF改革が必要ということだ。

――GPIFは現在75人で120~130兆円の資金を運用している。果たして、本当にこの体制を抜本的に変えることが出来るのか…。

塩崎 「出来るのか?」などと言っていては駄目だろう。我々が影響を及ぼすことが出来るのは、組織に関する法律、スチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス、会社法、銀行法くらいだが、結局、自分でやる気が無ければやらないし、それを嫌だと思えばやらなくてもいい。ただその結果、経済が駄目なままでいるというだけの話だ。昨年から金融庁の監督指針は経営戦略中心の監督に主体を置くという方向に変わってきている。その理由は、我々自民党の「中間提言」で「金融機関は易きに流れることなく、企業再生に一段と力点を移すことが肝要である」という一文を入れたこともその一因だと私達は思っている。そういった背景もあって、監督行政によって無理矢理に銀行を動かすような事はしたくない。我々は産業再生に資する金融機関の機能、体制、経営体力の強化のために出来る限りのサポートを行うが、その後は各々の地方金融機関が独自の判断で行うことだ。

――日本経済の問題点について…。

塩崎 日本は生産性が低すぎる。特に卸売・小売は米国の生産性の約43%とかなり低い。この生産性レベルの企業に全体の4分の1の人達が就業し、そこで給料をもらっている。つまりここで働いている人達の給料は低く、生活水準も低いということだ。これを変えるためには、金融機関が融資を鞭に生産性を上げる努力をしてもらうほかない。そのためにも自行のコーポレートガバナンスを普通の企業よりも厳しくしなくてはならない。海外の投資家はこういったことをよく理解しているが、例えば海外に比べて圧倒的に低い日本のROEをもっと上げることも重要だと思う。規制改革やコーポレートガバナンス改革で、企業が持っている力を最大限に発揮できるようにしていくことが我々の役目だと考えている。(了)