長期投資を日本社会に定着

長期投資を日本社会に定着

コモンズ投信
取締役会長
渋澤 健 氏


聞き手 編集局長 島田一

――日本の地域金融機関の役割について…。

渋澤 私は一般個人向けの投信会社を運営しているため、よく全国各地に足を運ぶが、日本は基本的に豊かだ。食べ物も美味しく、生活も安心安全だ。そして家計は870兆円超という現金資産がある。しかし、そこでつくづく感じるのは、その資源が眠ったまま使われていないのは大変にもったいないということだ。このため、私が考える日本の新成長戦略は、日本の現金をいかに利用するかであり、地方に住んでいる人も投資を通じて日本全国或いは世界の成長を地域に取り込むというマインドになってほしいと思っている。しかし実際には、投資をしている人の中にも、投資をすることで世界の成長を自分の懐へ取り込むチケットを手に入れているという感覚を持つ人はほとんどいない。そこで地域金融機関にそういう立場になってもらいたいと期待している。地域金融機関の今のモデルは、お金を集めて、融資を通じ、地域の成長に貢献するというものだが、実際のところは集められたお金の3~4割程度は国債を買っているところもある。銀行規制上ではそれが合理的なのかもしれないが、それではゆうちょ銀行と同じで、国の借金のための仲介業務をやっているにすぎない。

――今は、地域金融機関が国債を買うための金融機関になっている…。

渋澤 1873年に私の祖先である渋澤栄一が銀行を作った時は、「銀行」という名称もない時代のベンチャービジネスで、渋澤は当時、銀行を「大河のようなものだ」と例えてその存在感を示した。銀行に集まってこないお金は水溜りや滴と変わらず、国民と国を富ます潜在能力があってもそれが活かされなければ大河にはならない。水を集めて流して初めて大河になる。ここで銀行が流すべきものが何かと言えば、成長資金だ。成長資金を世の中に循環させることがもともとの銀行設立の理念のはずなのに、今は3~4割が国の借金のために流れている。それも国の成長のためではなく、国が現状を維持するための資金だ。

――今、日本の銀行の有価証券投資が国債を主に買っている理由は、金融危機があったことで当局の管理が厳しくなりリスクをとれない体質になっているからだ。まずはそこを直す必要がある…。

渋澤 銀行が一番気にしているのは顧客の利便性ではなく、金融庁が敷いたルールに触れないことだと思うときが多い。金融庁が思っている以上のことを自分たちで課して自縄自縛になり、結果的に不便になった状況を預金者や取引先の顧客に押付けているのではないか。しかし、金融機関はその社会的使命をもう一度思い出し、世の中に成長資金を流していかなければならない。そのためにも、投資家が安心して長期投資できる場所を提供していく必要がある。特に地域金融機関は銀行の社会的使命である「地域に成長資金を循環させる」という意識と同時に地域外からの成長を取り込むことも必要だという認識をもっていただきたい。それは自己勘定の投資でもよいし、あるいは顧客に対して預金だけではなく、「成長」に投資する真っ当な投資信託など提供をしていくといったことだ。もちろん、内容が複雑すぎる毎月分配型の商品などでは、買う側が何を買っているのか理解しないまま、あるいは売っている側も何を売っているのかわからずに、損をした時にきちんとした説明が出来ずに大変なことになるというケースもあるため、普通のきちんとした、わかりやすい投資信託を取り込む必要もある。

――自民党はスーパーリージョナルバンク(広域地域金融機関)を設立する案も出しているが、地域金融機関の大再編については…。

渋澤 私が地域金融機関の大編成の動きの兆しを感じたのは、地銀の中でも上位の静岡銀行がマネックスグループの筆頭株主になった時だ。それは、静岡銀行が県内だけでなく全国からの成長を取り込むという意思表示だと思った。他の地銀も、ちょっと気になった動きではなかろうか。一方で、同じ地域内で合併してリージョナルバンクを作るといった構想だけに捕らわれなくても良いのではないか。同じ地域内では縄張りの奪い合いになることも考えられる。むしろ、北海道の銀行と沖縄の銀行のように、縄張りが全く違うところの経営統合の方がスムーズで、色々なところでコストダウンになるのではないか。今の時代、距離が遠いからといって連絡面で不自由する事はほぼない。インターネット会議も出来るし、特に日本の交通網は発達しているためどこにでもいける。そうした大きな統合を考えるべきだろう。

――御社の投信の状況は…。

渋澤 弊社では個人向け直販という形が重要だと思っている。顧客である投資家に直接我々が接点を持ち、どのような方々がどのような想いでお金を預けていらっしゃるのかをきちんと知ることが重要だと考えているからだ。顧客の年齢層で一番多いのは30~40歳代で半分以上を占め、16%が未成年だ。未成年の場合は親が親権者として子ども名義で口座を作り、教育資金など成長して必要になる未来志向のための資金となっている。金額としては大体子どもが毎月1万円弱で大人は2万円程度。最低でも毎月3千円から始められる。毎月の収入の中で1~2万円の余裕があれば、未来の生活のための年金以外のサプリメントという感覚で捉えてもらえればよいだろう。そうすることによって、良質な長期資金が日本の資本市場に循環していくことになる。会社を設立して5年。直販の顧客は毎月順調に増えているが、現在投信残高100億円のうち約半分が機関投資家だ。

――アベノミクスが追い風となっている…。

渋澤 例えばアベノミクスを期待して昨年12月に株を買った人は、この半年程度はあまり動かなかった。長期的に積み立てをする分には全く問題ないのだが、どちらかというと相場が盛り上がっている時は皆の欲望を刺激するため、スポット買いで高値掴みになる場合が多い。むしろ穏やかな状態の時に「とりあえず積み立てでも始めようか」という感じでスタートした方が、追い風が吹いた時にグッと投資元本が上昇する。そういう意味では昨年末に積立を始めた方は上がっているし、もちろん5年前に始めた人はすべて黒字化している。

――今後の目標は…。

渋澤 投信での目標は、我々のフラッグシップである「コモンズ30ファンド」を、新しい資金を受け入れなくてよいまでに成長させ、新規の投資家へクローズさせることだ。あとは既存の投資家の積立をお受けしたり、或いは子どもの資金だけを受け入れたり、そういう風になりたいと思っている。コモンズ30ファンドは10代、20代、30代と世代を超えた長い時間軸で事業環境を見た時の企業の「進化」に投資するもので、もうひとつ、昨年末に立ち上げたザ・2020ビジョンというファンドでは、2020年をきっかけに起こりうる企業の「変化」を捉えて投資する。ちなみに2020ビジョンというのはアメリカで「正常視力」という意味だ。立ち上げた時期は昨年末という高値圏の時期だったが、今は年初から6%プラスになっている。全体のマーケットがマイナス5~6%であることを考えると、ファンドマネジャーの糸島孝俊はかなり上手く運用していると言えよう。運用会社として、色々なファンドを設定していくことはこれからも続けていくが、フラッグシップであるファンドをクローズ出来ることが、まずひとつの夢だ。

――個人向け投信を扱う同業他社について…。

渋澤 セゾン投信の中野氏、レオス・キャピタル・ワークスの藤野氏と私で「草食投資隊」というコラボレーションを4年間続けている。それぞれは競合会社ではあるが、「肉食系」のように奪い合うのではなく、個人の長期投資のパイを大きくしたいという共通の目的の下に共著で出版したり、全国セミナーを一緒に回っている。そういった活動の中で、地方の銀行が「隊員」のファンドを取り扱ってくれるような動きも出てきている。画期的なことは、その導入がトップダウンで決められたのではなく、30代の現場の若手が「これからは毎月分配の投信ではなく、顧客のためになる毎月積み立て型の投信だ」ということで組織を説得してくれたということらしい。我々としても、どうすれば長期投資を日本社会に定着させることが出来るのかをテーマに、今後も現場ベースでの活動をしっかりと続けていきたい。(了)