日本食品も中国食品と大差なし

日本食品も中国食品と大差なし

国際中国学研究センター
所長
高橋 五郎 氏


聞き手 編集局長 島田一

――御著書「日中食品汚染」(文芸春秋発行)を読むと、恐くて何も食べられなくなる…。

高橋 日本人の中には「中国食品は危ないが日本食品は安全だ」という方が沢山いらっしゃるが、実は日本食品も中国食品と大差ない。私の研究テーマは「日中食品経済の一体化」だが、自然の流れとして食品汚染問題にも関心がある。例えば、中国食材を使って日本で加工されたものや、或いは日本の中にも気づかないところで汚染されている食材もある。また、米国のある加工食品が、実はメキシコから輸入されたもので、それを中国でさらに加工して日本に輸出されるといったケースもある。グローバリゼーションという流れの中で、食品のモジュール化はもはやこれ以上細分化できないほどになっており、それをお互いに輸入・輸出しあって食材を作り上げている。特に今の日本ではスーパーなどでも「中国産」と表記された食材にはあまり手を出されないため、中国産の農産物などの原材料のほとんどは食品加工メーカーや外食産業に渡り、ある食品会社のトマトケチャップには中国を含む複数の国のトマトが使用されていたり、インスタントカップラーメンに添付されている液体スープには、各国で特許を取っているエキスが複数ブレンドされていたりする。市販のコンソメ粉末の原料となる肉エキス・魚介エキス・野菜エキスも、どこで作られたものなのか、本当に安全なものなのか、調べる事は難しい。

――日本の食品表示法にも問題がある…。

高橋 日本の食品表示制度は非常にわかりづらく、重量で上位3品目までは表示しなくてはならないが4品目以下は表示義務が無い。さらに全体の重量の5%未満のものの表示義務も無い。例えば、1000粒の大豆の中に遺伝子組換大豆が49粒入っていても「遺伝子組み換え大豆不使用」と表示出来る。こういったことを一般消費者はほとんど知らない。これは厚生労働省の食品安全行政の問題だ。食品添加物については、ある期間使用して厚生労働省によって害が無いと認められた指定添加物438種を含めて日本には約800種の食品添加物があるのだが、米国は約3000種、中国は1800種と各国で指定添加物の内容は違い統一化されていない。問題は、外国の添加物に関しては日本の指定から外れた添加物であれば表記されないということだ。これは農薬も同じだ。現在、日本の農薬は約600種、中国には700種。世界中には国際食品規格の策定などを行うコーデックス委員会でも把握しきれないほど沢山の農薬がある。どんなに危険なものが使われていても検査は不可能で、厚生労働省が指定したもの以外の食品添加物や農薬情報が外国から入ってきても検査ができないためわからない。特に液体などに混ぜてしまえば、そこに何が入っているかはまったくわからなくなるため、例えば日本の食卓に欠かせない醤油などでも、重量の5%以内で安い原材料を混ぜて作って嵩を増やすようなことがあるかもしれない。また、海外に製造工場をもつ食品メーカーが、日本で添加物と指定されていないものを使用して、その商品を日本に逆輸入しても、添加物が入っていることはわからない。農林水産省や厚生労働省は日本の食品安全検査制度は完璧だといっているが、実は穴だらけで、海外からたくさんの食品汚染源が日本国内に流れてきている。

――そういった状況に対して、我々はどうすればよいのか…。

高橋 一番安全なのは、ネギや豚肉など原型のままの食材を購入して自分で調理することだ。現代人が便利さを求めるのに応じて、今、スーパーには加工食品が溢れているが、食品に対する安易な考えは改めて、出来るだけ加工されていない、手作りのものを食べることを心がけて欲しい。それは、いわゆる「おふくろの味」だ。母親の愛が詰まった家庭料理を食べていれば子どもにもそれがちゃんと伝わる。そして、正しい食事によって健康な身体が育っていく。忙しくて毎食手作りは難しいというのであれば、せめて食品の加工度を下げることに気を使うべきだろう。一方で、厚生労働省や農林水産省は、きちんと情報開示をするように業者を指導すべきだ。食品メーカーが原材料すべてを商品に載せるのが難しいというのであれば、ホームページに開示するなり、或いは、5%未満の情報は開示されないことを商品に明記するよう指導するなど、色々と方法はあるはずだ。何より、消費者に美味しくて栄養のあるものを提供するために存在する食品会社が、仮に健康に不安を与えるかもしれない情報があったとして、その不安を除去するような対策を行わないことはおかしい。それを知った上で買うか買わないかは消費者の自由であり、まずは事実を知らせることが重要だ。

――消費者庁がもっとしっかり指導すべきだ…。

高橋 確かに、食品安全問題はもともと消費者庁の統括だ。しかし、あらゆる法律や通達はすべて食品安全委員会を通すことになっていて、しかも、この委員会の事務局がすべて農林水産省の天下りで、委員よりも事務局が強大な力を持っているため、消費者の声がなかなか届かない。消費者の意見を入れると政策の大義が変わると思っているのだろう。しかし、国民の健康を守るのは国の仕事だ。きちんとした政策体系によって国がもっと安定し、医療費も節約できるかもしれない。この辺りは欧州に学ぶべきだろう。欧州はすべて予防原則で、危ないと思えばすぐに策を打つ。食品添加物についてもEUでは厳しく規制しており、野ざらしなのは日本と中国と米国くらいだ。特に日本人はすべてにおいて、何かが起きてからどうするかを考えるといった状態で、「危ない」と思いながらも放置している。この差は大きい。

――TPP交渉では、日本政府が例外を求めている農産物重要5項目から構成される加工食品が586品目もあるということだが、これらについて…。

高橋 例えば、コメを原料としたせんべいや、乳製品を原料としたヨーグルトやチーズ、また牛肉を原料としたハムやベーコンといった586の食品モジュール化した加工食品について政府は詳細を明らかにしていない。私はその理由を、食品モジュール化が国際的に進み、「その他」あるいは「その他のその他」などと表記する以外ない名のつかない食材があまりにも多数含まれており明らかにしようにもできないこと、つまり食品モジュール化の進展に世界が追い付いていないこと、また農民の反対は説得できても、これらを製造している国内食品メーカーから反対されればTPP交渉が成立しなくなると政府が考えているからだと思っている。例えば関税が下がることで海外から安いハムやチーズ、或いは氷砂糖やせんべい、エキスなどが輸入され、日本製品に取って代わるようなことになれば国内食品加工会社は猛反発するだろう。もちろんそういった製品の中には安全性が疑わしいものも含まれているだろう。日本の食品安全行政は水際で防ぐ事など出来ない。TPP交渉が成立してしまえば色々なものが入ってくる。その時、自分の身は自分で守るしかない。自分で調理をして加工度を下げていくことが重要ということだ。とはいえ、おなかが空けば何でもいいから食べてしまうのが人間だ。そこに選択肢はない。言い換えれば、豊かな生活になって、初めて、安全な食べ物を食べるという意識が出てくる。だからこそ、「衣食足りて礼節を知る」というように、精神も経済も、国の生活レベル全体を上げていくことが今でも重要なことだ。(了)