日ロ関係の改善が急務に

日ロ関係の改善が急務に

一水会
代表
木村 三浩 氏


聞き手 編集局長 島田一

――日本はウクライナ問題でロシアに制裁を下した…。

木村 一連のウクライナ問題を巡って、欧米に追従するだけの対露外交を行うことは日本の国益を損なう。G7の一員である日本が、「付き合い」で欧米諸国と歩調を合わせ、経済制裁を実施したことは仕方がない。クリミアやウクライナ東部の問題が日本に直接被害を及ぼさないとはいえ、世界秩序の維持への貢献やウクライナの立場を尊重することも必要だ。しかし、「制裁」には善悪の判断基準が含まれており、「制裁」された側の体面を傷つけることを忘れてはならない。これまで安倍政権はロシアとの関係構築に積極的で、度々首脳会談を行ってきた。今回の制裁実施で最大の効果を期待できたプーチン大統領訪日が延期になってしまったが、ロシアの立場が国際的に理解を得られていない今こそ、真剣に対話して理解できるものは首肯し、平和条約締結に向けた筋道をつける好機だ。これを活かすためには、まずは日本がロシアに対し体面を傷つけた分の埋め合わせをすることが必要だ。

――日本国内の報道はロシアが悪いといったものばかりだ…。

木村 そもそも、日本はウクライナ問題の本質への理解が不十分だ。これは西側のメディアで報道されていないためだが、対露関係を考える上では、より理解を深める必要がある。まず大事なのは、文化的にロシアと同質な東部のみならず、元々はウクライナ全てがロシアの一部であったことだ。西部はポーランドなどの影響で自己のアイデンティティを持っているが、歴史的にはウクライナ全体が長らくロシアに属してきた。それが俄かに反ロシア気風を高めている背景には西側諸国の介入があり、オレンジ革命も西側諸国が糸をひいてきたことが明らかになっている。最近でも、今年1月28日、米国務省のヴィクトリア・ヌーランド欧州及びユーラシア担当局長がフリー・ピアット駐ウクライナ米国大使に対し、失脚したヤヌコヴィッチ政権への反対デモの参加者がナチ的であるために除外するようにと指示していたことが分かっている。つまり、米国が反政府運動に関わっていたわけだ。また、現大統領であるポロシェンコ氏を始めとした財閥関係者にも西側の息がかかっていることも、ウクライナ情勢を理解する上では重要だ。

――クリミアがロシアに編入されるのはやむを得ないと欧州の指導者も理解しているとの見方もされている…。

木村 クリミアの事情についても日本は理解不足といわざるをえない。そもそもクリミアはソ連邦崩壊の際、自主独立を望んでいたが、結果的にウクライナの一部として残留することになった。しかし、独立の意思が明らかだったためにウクライナ中央政府から派遣される知事に支配され、ウクライナ語の使用や歴史教育などによる「ウクライナ化」政策を押し付けられるなど、23年間に渡って不遇されていた。私は先月中旬クリミア議会選挙の監視立会人として実際に同地を訪問したが、インフラは十分に整備されておらず、またリゾート地としての収入もウクライナに奪われていたという住民の声を聞いた。3月16日に行われたクリミア住民投票は、そうした23年間の不満の結果だと理解するべきだ。また、当時はヤヌコヴィッチ政権が倒れ、ウクライナに正統政権が存在しなかったことも独立投票実施の背景にある。秩序が失われた中、流血を回避するためのいわば緊急措置があの投票だった。また、私自身が立ち会った9月14日の議会選挙も極めて平和的に実施された。私が訪れたのはかつてのクリミア・ハン国の首都であったバクチサライ市で、同市にはタタール人系住民も多いが、ロシア住民ともども穏便に選挙に参加していた。西側が報じるような、暴力による支配などは存在していない。

――マレーシア機撃墜事件も続報がない…。

木村 欧米の報道はこのようなクリミア独立の歴史的背景に触れようとせずに、プーチン大統領を批判するばかりだ。7月17日のマレーシア機撃墜事件もまるで後続報道がないが、ロシアではウクライナの戦闘機2機がマレーシア機を危険地域に誘導したと報じられている。ボイスレコーダーも欧米側に引き渡されているにも関わらず、公表されていない。欧米の報道ばかりが真実でないことは、よくよく理解する必要があるだろう。

――日本人に対するロシア人の感情は…。

木村 日本人は北方領土問題やシベリア抑留、日ソ中立条約破棄などから、ロシアに悪いイメージを持ちがちだが、逆にロシアは日本を好意的に見ている。彼らは日本の技術や経済発展、精神性を評価しており、ある調査によれば国民の8割から9割が日本に好印象をもっていると回答している。実際モスクワでも日本食がブームで、1000軒以上の寿司店が営業している。プーチン大統領自身も柔道を嗜んでいるように日本に関心を持っており、また思いやりもある人物だ。例えば今年6月のノルマンディー上陸70周年の式典において、広島の原爆投下シーンが放映されたが、オバマ大統領やオランド大統領がそれを拍手しながら眺めていたのに対し、プーチン大統領は唯一人十字を切って哀悼を表してくれた。これに対し私が手紙を送ったところ、大統領から駐日ロシア大使を通じて、返礼を送って頂けた。また、プーチン大統領と秋田県の佐竹知事は2012年に秋田犬とシベリア猫をそれぞれ贈呈しあったが、秋田犬は「夢」、シベリア猫はロシア語で「平和」を意味するミールと名づけられた。これはプーチン大統領が日本との平和条約締結を願っていることを象徴している。このような親日的な人物が大統領であるうちに、日本の立場を話し、大統領が言及している「引き分け」という形で日本はロシアと平和条約を締結する必要がある。

――ロシアとの関係改善策は…。

木村 まず必要なのは、経済制裁によってロシアの体面を傷つけたことへの埋め合わせだ。具体的には、恒常的な停戦維持への協力や、クリミアでの領事館の設立、シベリアの共同開発、北方領土問題におかえるビザなし交流の拡大などがあるだろう。将来的には新幹線をシベリアで走らせることも、決して夢ではない。一番効果的なのはプーチン大統領の来日を実現することだが、「毎日新聞」がロシア国営新聞社と共催した日露経済フォーラムのような試みも重要だ。日本としては、何事も短期、中期、長期のプランで考えなければならない。例えば、現状ロシアへの経済制裁で漁夫の利をえているのは中国だ。これ以上封じ込めが進めば、ロシアは否応なく中国への依存を深めざるをえなくなる。そしてそうなれば、日本にとって中国の脅威は益々大きくなろう。このため、そうなる前に日露関係を改善させ、平和条約締結や、将来の北方領土返還に向けて行動しなければならない。