日本の景気は再び拡張期入り

日本の景気は再び拡張期入り

三井住友アセットマネジメント
理事 チーフエコノミスト
宅森 昭吉 氏


聞き手 編集局長 島田一

――黒田日銀総裁の追加緩和をどう見るか…。

宅森 有体に言って驚きだったが、それだけデフレ脱却に対する黒田総裁の決意が固いということではないだろうか。10月分のCPI上昇率は、消費増税の影響を除いた部分が1%を割り込んでしまう可能性が高く、これまで黒田総裁は1%台前半で推移する見通しとしてきただけに、先んじて大胆な決定をしたのではないか。また、日銀が算出している国際商品指数の10月分の前年比が19%減となり、WTIも1バレル70ドル台となっているように、足元では原油をはじめとした商品価格の下落が著しい。今回の追加緩和によって急速な円安が進んでいるが、ちょうど商品価格の下落と円安が相殺しあう形になり、日本経済への悪影響は限定的になるはずだ。加えていうと、今回の追加緩和はちょうど米国がテーパリングを完了したタイミングとも重なる。このことでアメリカに代わるマネーの供給源を投資家らに意識させ、世界中に安心感を与えたのではないか。

――今年7~9月期の成長率はどう見るか…。

宅森 前期比年率2.4%増程度と予想している。悪くないと言えば悪くはないが、個人消費の戻りが思ったよりも弱いのは気になるところだ。一つには、これは8月の天候が悪かったことが原因と考えられる。「何かしらの異常気象は毎年起きており、それを材料と考えるのはおかしい」との声もあるが、気象庁によれば8月の近畿地方および四国地方の降水量は統計開始以来最大で、これは立派な悪材料だ。大規模な土砂災害が発生した広島を含む中国地方の降水量も過去3位の規模で、これらの地域では自殺者も増えている。また、統計の問題も、成長率の押し下げに寄与していると考えられる。7月分の家計調査をみると、ボーナスの前年比は2.9%減と名目値でもマイナスになっているが、毎月勤労統計では一貫してボーナスの前年比は名目値でプラスとなっており、統計間で整合性がとれていない。恐らく、これは家計調査が対象としている勤労者に高齢者の非フルタイム層が比較的多く含まれていることなどが原因だろう。日銀の金融政策決定会合の議事録をみても、複数の委員が家計調査に下方バイアスがある可能性を指摘しており、軟調な成長率はこうしたバイアスにも原因があると考えている。

――今後の景気をどうみているのか…。

宅森 もともと4月の消費税引き上げに伴う景気の落ち込みは想定されていたが、自動車など耐久消費財の一部で予想以上に落ち込みが長引き、さらに2月の大雪と8月の豪雨という観測史上稀にみる異常気象が生じてしまった。このため下り坂期間が6ヵ月を上回る可能性が大きくなり、「1月が山、8月が谷」とみられるミニ景気後退が意識されるようになった。しかし既に回復基調に戻っていると想定している。足元ではまだ弱い数値もあるが、回復を示す統計も多いことも確かだ。

9月分景気動向指数では、先行CI・一致CIとも2カ月ぶりの上昇になった。前回8月分で「下方への局面変化」に下方修正された基調判断は、今回9月分では据え置きだった。景気の基調判断が「局面変化」から景気拡張局面を示す「改善」に戻るには、前月差上昇で、かつ原則として3カ月以上連続して3カ月後方移動平均が上昇すれば良い。過去の数字が不変であることを前提とすると、次回10月分一致CIの前月差が+0.3になると3カ月後方移動平均の前月差が+0.03の上昇になる。その後、11月分の一致CI前月差が+0.1でも上昇になるなら、この場合が最も早く3カ月以上連続して3カ月後方移動平均が上昇となる。早ければ1月9日発表の11月分(速報)で景気の基調判断が「改善」に戻る。また、最近の株価の上昇は、先行きの明るさを反映しているとも考えられる。株価は景気の先行指数であるだけに、もし問題があるならば、追加緩和後にここまで連騰することはありえないはずだ。

――実質賃金は減少が続いている…。

宅森 確かにそうだが、毎月勤労統計を見ると所定内給与は連続して前年比プラスとなっており、物価の後を追って賃金が上昇に転じている傾向が確認されている。実質賃金については消費増税によってマイナスとなっているが、来年4月から半年間は増税の影響がなくなるため、プラスに転じてくるだろう。雇用環境も底堅さを示しており、例えば失業率と連関性が高い年間自殺者数は今年3年連続で3万人を割るのはほぼ確実であろうし、東京23区のホームレス数も、ピークだった1999年8月の5798人から、今年8月時点で914人にまで減少している。こうした限界的な雇用関連データは着実に改善している。賃金は景気の遅行指標とされるだけに、なかなか伸びにくいのは確かだが、雇用環境が堅調であることを踏まえれば、着実に上昇してくるだろう。勿論最終的に企業次第だが、雇用や賃金を増やさないのであれば、省力化という意味で設備投資を行わざるをえないだろうし、それはそれで日本経済を刺激するはずだ。

――消費税の再引上げはどうみるか…。

宅森 予定通り行われると思うし、実施するべきだと考えている。基調的にはアベノミクスの三本の矢は現在機能しており、その恩恵があるうちに実施しないと、今後高齢化が急速に進展する環境下、ますます実施が難しくなるだろう。消費増税を行ったにも関わらず、景気への悪影響が現状程度で済んでいるのは金融緩和などの成果と評価できる。また、現状は民間が更新分などで設備投資を行うとみられるタイミングであり、比較的増税の悪影響も緩和できる局面だ。もし日本が高度成長期のように、放っておいても税収が拡大していく見込みがあるならば増税など必要がないが、現状の社会保障を維持するというのであれば、早いうちに増税した方が良いと考える。金融緩和が終われば国債金利が上昇し、利払い費が増加することなどを踏まえれば尚更だ。ただ、消費増税の時期については、出来れば今年の10月と、2年後の10月に行うべきだったと考えている。その理由は4月実施に比べ、年度の成長率への影響が少なくて済んだためだ。

――今後の日本の経済成長率をどうみるか…。

宅森 今年度は前年比0.3%増と予想しているが、これは強気な予想であり、0.2%増、あるいは0.1%増との意見も多い。今年度についてはとにかく、第1四半期のGDP成長率が前期比年率7.1%減と消費増税の影響であまりにも不調だった。統計上、年度の成長率にとって、第1四半期分の影響力は第4四半期分の4倍大きいことが、低成長に影響している。もし、これが10月実施ということであれば、年度の成長率への影響はこれほど大きくなかっただろう。ただ、14年度の成長率が将来逆転する可能性も決してなくはない。例えば、第一四半期のGDP成長率は前期比年率7.1%減に下方修正となったが、これは設備投資の落ち込みに依るところが大きいと見られている。そこで設備投資を詳しく見てみると、非常に慎重に断層補正などで計算された法人企業統計の数値が足を引っ張っていることが分かる。将来、違った推計方法で算出すれば大きく数値が変わる可能性もある。実際、これまでの実績をみても、12年度の設備投資のように最初はマイナスの伸びだったものが、推計方法の見直しによってプラスになった事例は少なくない。このため、菅官房長官が来年10月の消費増税の判断にあたっては、同時発表の13年度のGDPの数字が大きく変わる可能性がある、7~9月期GDPの2次速報をみた上で判断する考えを示したのは頷ける。来年度のGDP成長率については1.4%増とみているが、今後については、第3の矢・成長戦略の規制緩和策などで安倍政権が実行力を示せるかがポイントとなるだろう。