慰安婦問題の背景に『反日日本人』

慰安婦問題の背景に『反日日本人』

東京基督教大学
教授
西岡 力 氏


聞き手 編集局長 島田一

――従軍慰安婦問題の背景には「反日日本人」の存在がある…。

西岡 慰安婦問題というと、どうしても「韓国との問題」と考えがちだが、そもそもの発端は「反日日本人」であることを理解する必要がある。中でも最も重要なのは、済州島で200人もの現地女性を強制連行し、更に強姦したと「自白」した吉田清治氏だ。今年になってようやく朝日新聞が誤報と認めた従軍慰安婦に関する報道は彼の証言に基づくものだが、時系列をみると、最初の報道が1982年だったのに対し、日韓間で慰安婦が外交問題になったのは1992年となっている。つまり紛れもなく日本人が慰安婦問題の発端となっているわけだ。なお、彼自身については詳しいことは分からないが、彼が1947年(昭和22年)に、下関市議会議員選挙に日本共産党から立候補して落選したことは明らかになっている。

――他の「反日日本人」は…。

西岡 同様に重要なのは、元朝日新聞記者の植村隆氏で、彼は1991年月8月11日に「女子挺身隊の名で戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた『朝鮮人従軍慰安婦』のうち、一人がソウル市内に生存していることがわかった」と報道した。吉田清治氏が、朝鮮人女子挺身隊200名を連行せよとの軍の命令を受けて済州島で奴隷狩りのような慰安婦強制連行を行った、と証言したのに対し、実際にその被害者が出たということで、当時大きく注目された。また、朝日は91年12月の慰安婦団体の訪日も大きく取り上げ、電話番号まで書いてその活動を応援した。しかし、調べてみると、実は慰安婦の女性は韓国紙の取材などで「貧困のために40円で母親にキーセン(遊女)として売られた」と答えていたことが分かった。朝日新聞はそのことを報道しなかったどころか、女性自身が言っていない筈の「女子挺身隊の名で連行された」という文章を付け加えたことになる。仮に女子挺身隊として連行されたことが事実ならば、挺身隊が国家総動員法の下の国民勤労報国協力令などに基づいて召集された以上、徴兵や徴用と同じく国家権力による連行となり、正式に日本国に公的な責任が生じる。しかし本来女子挺身隊は軍需工場などでの労働のために召集されたものであり、慰安婦とは全く関係がなく、女子挺身隊という名目で慰安婦が集められることはありえない。また、植村氏の場合、実は日本政府を相手に裁判を起こした「太平洋戦争犠牲者遺族会」会長の娘と結婚しているという事実がある。つまり一連の裁判において植村氏自身が広い意味で利害当事者だったわけだ。その彼が結果的に遺族会側に有利になるような誤報をした責任は重い。それでも朝日新聞が吉田証言を撤回した一方で、植村氏の記事を撤回しないのは、同氏が紛れもなく同紙の記者であり、より責任が重大だからだろう。

――慰安婦招集に政府が関与した証拠はなかった…。

西岡 その通りだ。朝日新聞は1992年1月に「慰安所に日本軍が関与した資料が見つかった」などとして、「軍慰安所従業婦等募集に関する件」という日本軍の文書の存在を報道したが、これは簡単にいえば、日本の内地で軍の名前を騙る人さらいがいるから取り締まれ、といった内容であり、女子挺身隊を日本軍が連行したという証拠とは逆の内容だった。しかし、朝日新聞はこのことをトップ記事でとりあげ、更に女子挺身隊として戦場に連行された女性が20万人にも及び、その多くが朝鮮人だと解説した。現在ではこの20万人が一人歩きして各地に広がっており、例えばアメリカに建てられている従軍慰安婦の碑文には20万人もの朝鮮人女性が強制的に慰安婦にされたと記されている。これだけを見れば韓国を批判したくなるかもしれないが、最初にそれを言い始めたのは日本人であることを十分に意識する必要がある。

――朝日新聞は日本嫌いで平気で捏造する…。

西岡 実際、私が知る限り、日本以外の国で自国批判をここまで行う新聞は存在しない。私は1982年から84年にかけて専門調査員としてソウルの日本大使館に勤務していたが、ちょうどその時に吉田氏が韓国テレビの特別番組に出演し、謝罪しているのを見たことがある。韓国人にその感想を尋ねたところ、韓国のためにはありがたいが、彼は日本に帰国して大丈夫なのか心配された。国際的にも自国の悪口を言い続けるのは異常なわけだ。また、朝日新聞と並んで、吉田氏を世に出した張本人として高木健一氏が挙げられる。高木氏は元々戦後保証を専門に取り扱ってきた弁護士で、例えばサハリンに残留した韓国人について、日本が強制連行した以上、日本は謝罪と賠償をするべきだと主張した。彼の戦略は裁判で勝てなくとも世論に訴え、主張を人権問題に持ち込むことで、実際日本政府はサハリンの韓国人のために飛行機を飛ばし、韓国にマンションを建てた。彼は慰安婦でも同じことを狙ったが、そもそも1965年の日韓基本条約で、韓国側のあらゆる請求権は明確に消滅している。その際日本が提供した金額は無償3億ドル、有償2億ドルだったが、これは当時の日本の外貨準備額が18億ドルだったことを考えれば、いかに巨額だったかが分かる。韓国側が1976年に発表した「請求権白書」を見ても、1966年から1975年にかけての同国の経済成長に対する日本からの資金の寄与率はおよそ20%とされており、韓国の貧困削減に大いに役立ったと評価できる。ただ、同じような規模の支援を受けた国々の中で、韓国だけが顕著な成長を実現できたのは、韓国側が計画的に、長期的な視野に立って資金を使った結果だ。私欲ではなく国家の未来を考えた大統領がいたために実現できたのであり、それを韓国は誇るべきであり、日本も成長に寄与できたと前向きに捉えるべきだ。しかし、本来それで終わるべき話を、朝日新聞や高木氏は執拗に蒸し返している。

――韓国の反日の背景には北朝鮮の影がある…。

西岡 現在韓国は左派勢力が勢いを伸ばしているが、その背景には北朝鮮のプロパガンダがあるとみられる。ソ連が崩壊し、共産主義の有効性がないという結論がみられたにも関わらず、韓国の左派運動が依然活発なのは、彼らの思想的背景が共産主義ではなく、民族主義にあることが大きい。彼らは韓国よりも北朝鮮が民族に貢献していると主張し、「韓国版自虐史観」とでも呼ぶべきものを作り上げている。例えば韓国の初代大統領である李承晩を、彼らは「一発の銃弾も撃っていないロビイスト」と扱き下ろす一方で、金日成を日本軍と戦った英雄と称える。他にも、李承晩が親日派の処分を十分にしなかったどころか、日本の教育を受けた「親日派」を政府で起用した一方で、北朝鮮は親日派の財産を全て没収したことを強調し、北朝鮮こそが真の民族主義の体現者であると主張している。特に朴槿恵大統領の父親である朴正煕などは、「第二次世界大戦が長引けば、独立運動を弾圧し、金日成と戦っていたかもしれない親日の親玉」と、痛烈に批判している。ただ、一つ気になっているのは、彼らが韓国を責めるために持ち出した韓国軍によるベトナムでの虐殺という事例を、日本の一部も韓国批判の材料としていることだ。ベトナムで韓国軍が民間人を殺害したのは事実だろうが、それはベトナム側がゲリラ活動を行ったからであり、丁度中国で国民党軍が便衣兵(軍服を着用せず、民間人を装った兵士)を用いたために、民間人の犠牲者が拡大したのと似ている。南京はよくてベトナムは駄目、というのは整合性がとれないだろう。

――韓国の左派は何が目的なのか…。

西岡 一言でいえば、北朝鮮に有利な環境を作ることだ。韓国の正統性を貶めることは勿論、韓国と米国、韓国と日本の距離を広げることが彼らの目的であり、そのために反米、反日的活動を活発に行っている。その影響を最も受けたのは全斗煥政権下の反政府学生運動に参加した世代だったが、彼らはいまや各界の各層に広がり、マスコミ関係者や教師、学者となって、「反韓」思想を次の世代に広げている。子供達は歴史的な経緯を知らないため、そうした活動に触れれば信じてしまい、「反韓」思想が伝染している。朴槿恵大統領もそれに押されているが、本来ははっきりと朴正煕ほどの英雄はいないと主張するべきだ。歴史を見てみれば、彼ほど韓国経済に貢献し、絶対的貧困撲滅を実現した政治家はいない。確かに日本陸軍の士官学校で教育は受けているが、その技術を韓国のために使った愛国者だと堂々と誇るべきだろう。

――日本はどうしたらいいか…。

西岡 まず、「日韓関係は最悪だ」と言ってはいけない。冷静に振り返ると、現在の両国関係は最悪などではない。何故ならば、日本と韓国はともに米国の同盟国であり、安全保障政策上の矛盾がないどころか、むしろ共通した利益すらもっているからだ。現在竹島は韓国が不法占拠しているが、だからといって竹島にレーダー基地が建設され、日本の安全を脅かすような事態にはなっていない。北方領土を占領しているロシアとはそこが違う。本当に両国関係が最悪となるのは、韓国が米国との同盟を打ち切った時だろう。経済関係でみても、日本の対韓国の貿易収支は長らく黒字だ。一時サムスンの台頭などで日本企業が脅かされるとの警戒感を持つ向きもあったが、両国の取引をよくみると、実は韓国は部品や素材を輸入し、それを加工して販売する形式をとっている。つまりサムスンのスマートフォンが売れれば売れるほど日本の部品・素材も売れるわけであり、これはウィンウィンの関係だ。観光も相互に伸びており、文化面でも互いに交流が進んでいる。韓国側が求めている歴史認識の一致は受け入れられないが、両国の問題はそれと、領土問題のみだ。しかし、互いに「両国関係が最悪だ」と言っていると、険悪感が目立つようになり、本当に両国関係が最悪になりかねない。それを避け、むしろウィンウィンの関係であることを意識することが必要だ。

――韓国と和解するための処方箋は…。

西岡 第一に、両国が安全保障上の利益を共有していることを双方がより理解することだ。集団的自衛権に関する憲法解釈変更に韓国の一部は憂慮を示しているが、本来米国の同盟国である韓国にとっても利益であり、反対するのは、自分の首を絞めるようなものだ。日本側としても、「釜山に赤旗をたてない」という戦後の対朝鮮半島政策の正しさを再確認する必要がある。想像してみてほしいが、もし韓国が北朝鮮に併合されるようなことがあれば、対馬はたちまち最前線となり、竹島にも敵意をもったレーダー基地が建設されていただろう。現在のような平和を享受できているのは、韓国が緩衝地帯として機能していたおかげだ。歴史を振り返ってみても、朝鮮半島が反日勢力の手におちないで、友好的か最低限、中立的であるのは、一貫して日本の安全保障にとって死活問題だった。遡れば白村江の戦いで日本・百済連合軍が敗れたために、日本は関東の農民をはるばる九州に防人として送り出さなければならないほどに追い詰められた。元寇来襲も、朝鮮半島を敵対勢力が支配したからこそ発生したわけだ。近代史を見ても、日清日露戦争は、言ってしまえば敵対勢力から朝鮮半島を守るためだけに、なけなしの国力を費やして実施した。マッカーサー将軍も朝鮮戦争を戦った後、日本の防衛上朝鮮半島が不可欠であり、そのために満州が必要だったことを認めたほどだ。

――最後にひとこと…。

西岡 現在、韓国の半分は左翼思想に染まったといっていい。2012年の選挙でも、左派の文在寅氏の得票率は48%と、朴槿恵氏とほぼ互角であり、次回選挙では左派が勝利してもおかしくはない。そうなれば、最悪米韓同盟解消もありえるかもしれない。左派を操る北朝鮮の後ろには中国がいることを踏まえれば、今は民族性の議論や歴史認識の対立をいつまでも行っている場合ではない。民族性の議論は比較文化学者に任せ、言論人は両国関係の発展を模索するべきだろう。