70歳代まで働き財政再建

70歳代まで働き財政再建

NTTデータ経営研究所
取締役会長
山本 謙三 氏


聞き手 編集局長 島田一

――70歳代まで働くことを提唱している…。

山本 70歳代まで働くことが、今後のわが国の経済成長や財政再建には不可避となると考えている。日本の現役世代人口の減少スピードは非常に速く、経済へのマイナスインパクトも大きい。人口減少社会では、実質GDPそのものよりも、「国民1人当たり実質GDP成長率」の向上を目標とするのが適当だが、その実現も簡単ではない。なぜなら、総人口に占める生産年齢人口の割合が低下し、これまで生産年齢層1人の稼ぎを高齢者・子供を加えた1.5人で分け合うバランスだったものが、2060年には2人で分け合うバランスとなるからだ。15~64歳の生産年齢人口だけを就労層と仮定し、今後50年を試算すると、生産年齢人口割合の低下は「国民1人当たり実質GDP成長率」を年率0.4%強押し下げる要因となる。われわれがより豊かな生活を手に入れようとするならば、このマイナス要因を相殺するよう、就労人口を増やし、総人口に対する就労比率を高めることが肝要となる。ちなみに、生産年齢人口の定義を現行の15~64歳から、2060年時点で15~74歳まで引き上げてやれば、現在の生産年齢人口比率63.8%を50年後もほぼ維持できる計算となる。できる限り早く、70歳代まで働くことを普通のこととして受け止められる社会にする必要がある。

――現役世代の減少が急速に進む…。

山本 国立社会保障・人口問題研究所のデータをみると、2060年の時点で最も人口の多い年齢層は80代後半の女性となる。次に多い順に、80代前半、70代後半、70代前半のいずれも女性となる。2010年から2060年にかけ、総人口は3分の2まで減少し、その後人口ピラミッドはいわば縮小再生産の過程に入る。このようになる理由は二つ考えられる。一つは、長寿化の勢いがかなりのスピードで進んできたことだ。平均寿命の年次推移を海外と比較すると、日本は圧倒的に寿命の延びが速かった。日常生活に制限がない期間を指す健康寿命も延びてきた。背景には、国民皆保険の制度や医療の充実が挙げられる。これは大変喜ばしいことだが、当然これに伴う生活費や医療費増加の負担がどこかにかかることを考えていかなければならない。もう一つは、少子化が挙げられる。人口ピラミッドをみると、団塊世代、団塊ジュニア世代には人口のコブがあるが、団塊ジュニア世代のさらにジュニアとなる世代には人口のコブがない。その背景には、団塊世代の時代から未婚率が上昇し、出生率が落ちたことがある。

――長寿になった分、働く高齢者というのは多くなっているのでは…。

山本 65歳以上の労働力人口比率は、寿命が長くなったにもかかわらず、むしろ低下しているのが実情だ。たしかに65~69 歳だけをとれば、労働力人口比率は近年上昇に転じている。しかし、70歳以上の高齢者の数が増えたこともあり、結果的に高齢者全体の労働力人口比率は下がっている。また、従来、農林水産業や自営業では「身体の動くかぎり働く」とする人が多かった。そうした産業や企業の割合が低下したことも、高齢層の労働力人口比率低下の要因になっている。

――確かに農業従事者の減少の影響は大きい…。

山本 日本で1人当たり老人医療費が少ないのは、農業の盛んな県が多い。高齢でも農業に従事し続けることが健康を保つ秘訣(ひけつ)であったのではないかと思う。そうであれば、みなが長く働くことは日本経済の成長に寄与するだけでなく、医療費の抑制にも貢献する。ただし、企業に高齢者雇用をこれ以上義務付けることには慎重でなければならない。定年制は本来ない方が理屈にかなうし、一定の年齢になったら別の仕事に移るなど、労働市場の流動性を高めることが重要だ。通常の仕事だけでなく、孫を育てて親の就業を助けるというのも、社会への貢献度は高い。

――高齢化が財政に及ぼす影響は…。

山本 年金、医療、介護など、現在の財政赤字の問題はほとんど高齢化に起因しているといってもよい。一般歳出に占める社会保障関係費の割合は急速に高まっており、5割を超えている。一般政府債務残高の対GDP比率は2015年には230%に達する見通しであり(OECD)、他国と比べても圧倒的に高い。社会保障給付の約4割は公費によって賄われている。財政問題への対策が急務となっていることは間違いない。将来を展望すると、社会保障関係費の中でウェイトの高い年金はいつまでも支出が急増を続けるわけではない。全国の高齢者数は2020年代に入ると伸びが鈍化してくる。半数以上の県では、5~10年先にはむしろ高齢者数が減少に転じる。しかし、社会保障関係費のもうひとつの大きな要素である医療費は、薬の進歩ともに薬代が増え続けており、将来的にも増加が続く見込みにある。決して楽観視はできない。70歳代まで元気に働くことは、そうした観点からも有効な対策となる。

――70歳代まで働ける労働市場にするには…。

山本 高齢者の就業先がどこにあるかという問題は難しいが、今でも人手不足の分野は少なくない。例えば介護の分野が挙げられる。たしかに、介護を高齢者が行うのは身体的に難しい面もある。とはいえ、生産性がより高いはずの現役世代に介護のすべての仕事を頼るのでは、日本経済の成長力が落ちる。介護支援のための機械化を急ぎ、高齢者も働くことのできる介護としていく必要がある。なお、今の日本の労働市場ではとりわけ若い世代に負担がかかっている。正規労働と非正規労働の格差があるもとで、非正規労働者となりやすい若い世代の負担は大きい。例えば、女性の労働力人口比率は若い世代も上昇を続けているが、若い世代の男性は労働力人口比率が低下し、その後の回復テンポは鈍い。若者世代に厳しい労働環境が、就業に対するあきらめを生み、求職活動の再開を躊躇させているのではないかと懸念している。正規と非正規の格差を縮め、労働市場の流動性を促す仕組みを作ることが重要になる。この点、70歳代まで働けるような労働市場が望ましいといっても、先ほど述べたように、安易に企業に高齢者雇用の義務付けを行うとこれもまた若い世代への負担につながるおそれがあり、注意が必要だ。

――高齢者の就業のあり方を工夫する必要がある…。

山本 例えば、人手不足の分野としては保育の世界が挙げられる。高齢者が保育分野に就業するという発想はなかなか持たれないが、もともと大家族の時代には、祖父母が孫の面倒を見て、父母が農業などの仕事に携わるという形が一般的だったはずだ。そうしたことを考えると、保育の分野で高齢者が働くことは本来不自然ではない。人口が安定的に再生産されるための出生率は2.07といわれているが、今の日本はこれには程遠い。その一因として子育てがしにくい環境が挙げられているが、これは、大学進学や就職を機に都市部に移り住んだ世代が、そこで結婚し子育てしていることも影響している。つまり、働きにでたくても、近くに子供の面倒をみてくれる親がいない、また保育施設も十分ではないといったことだ。一方で、地方に残った老親の介護の面倒を見る人も少ない。これを踏まえると、人口問題の一つの解決策は、以前のように3世代が近隣に住み、孫の面倒から介護の面倒まで一つのサイクルとしてとらえる社会システムづくりが重要になるのではないか。最近は、地元に戻らず都市部に定住した団塊世代が、子供、孫の家の近くに居住する例が増えており、これが人口問題にとってプラスに寄与する可能性がある。