経常黒字縮小は日本経済に好影響

経常黒字縮小は日本経済に好影響

三國事務所
代表取締役
三國 陽夫 氏


聞き手 編集局長 島田一

――今後の日本経済をどのように見ているか…。

三國 私は日本経済の先行きに対しては、5年ほど前から強気に転じている。景気循環的な回復ではなく、構造的に回復していくと見ている。「失われた20年」を見ると、日本は経常収支の黒字、言い換えれば資本輸出をずっと続けていた。経常黒字になるということは、海外に対して回収されていない売掛金を作るに等しく、このことが日本経済にとっては大きな負担になっていた。つまり、輸出で海外に作った売掛金を回収するために、外為市場でドルを売って円を買おうとすると、円が切り上がって輸出が出来なくなってしまう。このため、売掛金を回収せず、そのままドルで抱えることになる。売掛金を回収できない企業は資金が回らなくなるが、日本はそれと似たような状況だった。日銀による資金供給は多少の延命策になるにせよ、経常収支の黒字は資本を輸出することにより「流動性の罠」にはまり、国内でお金が回らない状態になってしまう。ただ、リーマン・ショックを契機に経常収支の黒字幅は縮小し、均衡に近い水準になってきた。20年以上にわたってお金を詰まらせていた原因が氷解して、お金が回るようになる。これが一番重要なポイントだ。

――経常収支の赤字は日本経済にプラスに働くと…。

三國 資本輸出とは購買力とコール資金を海外に持っていくことと同じだ。金融引き締めと同様の効果になる。経常収支の黒字が縮小し、赤字に向かうことは資本輸出の負の効果を解消する。日本の経済は動くようになり、購買力も増えるだろう。お金が国内に戻って回るようになれば株式市場も上昇し、資産価格も上がる。しかし、為替を円安に誘導して輸出を増やそうとするアベノミクスは、私の考えと全く逆方向だ。円安が経済成長に結びつかないことは、白川前日銀総裁の退任間際の講演録でも説明されている。

――安倍首相は円安による輸出の増加を目指しているが…。

三國 経済政策には大きく2通りの考えがある。一つは安倍首相が目指している輸出を振興する外需主導型、もう一つは住宅投資を軸にした内需主導型だ。新興国の産業化や工業化にとっては輸出が牽引する経済が効果を発揮し、かつては日本もそのような政策を取っていた。日本は外需によって成長を遂げたが、今や世界最大の対外純債権国、債権大国となった。このため、内需主導の経済に切り替える必要があるが、アベノミクスで物価が上がったことにより、国内の購買力も減少している。国内の消費が生産よりも小さい日本のような債権大国の経済にとっては、国内需要を何より大事にしないといけない。

――8%への消費増税をどのように評価するか…。

三國 14年4月に消費税率を上げてしまったことは、債権大国としては失敗といわざるをえない。債権大国の経済政策ではいくつかポイントがあるが、その筆頭は購買力を奪う消費税を使わないことだ。債権大国では一円でも多い消費が求められる。英国、米国が債権大国であった時代には消費税をほとんど使っていなかった。日本は300兆円を超える対外純資産を溜め込んだ。債権大国になった時点で、経済の動きがどう違うのかを検討しなければいけなかったが、債務国の時代と同様の経済政策を通してきた。これがそもそも最大の失敗だ。

――消費増税が国内の購買力に大きな打撃を与えてしまった…。

三國 加えて、為替が円安方向に振れると、海外から買う物の値段が高くなる。この2年の間で、ドル・円相場は80円弱から120円程度まで、約3割強円安となった。そこに3%の消費増税を行ったことで、ダブルで購買力を奪ってしまった。この影響は日本経済が相当に強い状況だったとしても、なかなかカバーできない。消費税を上げてしまったことは元に戻せないとしても、安倍首相が10%への再増税を先送りにしたことは大正解だ。為替水準も円高の方向に戻っていくことになろう。

――債権大国の経済で他に重要なポイントは…。

三國 債権大国の経済にとって2つめに重要なのは、小選挙区制だ。国の政策を思い切って変える必要があるときに、小選挙区制であれば、政権交代によって物事の方針を大きく変えられる。3つめは、住宅を核として日本経済を自ら牽引することが重要だ、日本は今まで、アメリカの経済成長に牽引してもらっていた。日本は住宅投資と住宅ローンをエンジンとして、必要な時に自分達でアクセルを踏める「自走式経済」へと変える必要がある。

――住宅を核にどのように日本経済を成長させていけばよいか…。

三國 日本はこれまで、戸数を増やすことを住宅政策の目的としていたが、現在では家が余ってしまった。これからは戸数ではなく、住まいとしての質を追求することになる。米国における1戸あたりの住宅投資額を見ると、過去20年間、名目5%弱のペースで増えてきており、これとほぼ同水準でGDPも増加している。同期間、日本の1戸あたりの住宅投資額は増えておらずほぼ横ばい、GDPも横ばいで推移している。内需主導の経済では、生活を豊かにするよう個人がお金を、どうすればたくさん使ってくれるかを考えないといけない。その1つの方法は、最先端の技術を取り込んだ高機能住宅を増やすことだ。技術革新も期待できる。また、住宅投資で重要なのは、住宅資産を支える側で住宅ローンが増加する。貸借対照表の資産側と負債側の両方を経済政策の対象にできることだ。そして住宅投資と住宅ローンが増えることにより、経済効果としては公共投資と国債を減らすことが可能になる。財政の健全化の一助となる。

――債権大国として、日本に求められる役割とは…。

三國 日本がたぐい稀なる債権大国になっていることに、多くの人は気付いていない。実際、考えられないことが起こっている。リーマン・ショック時に資金の逃避先として円が選ばれており、流入した資金で海外の金融機関を期せずして支援していた。世界の中央銀行としての役割を果たしたということになる。今後米国が不均衡是正を進め、赤字を減らしていく過程に入ると、国際通貨としてのドルの発行量も減少する。そのままなら、世界経済は冷え込むことになるが、よくできたもので、日本は経常収支が赤字に向かい、その支払いに円の発行量を増やす。受け身であるが、円は国際的な位置づけを高める。

――政府はどのように経済を舵取りしていけばよいか…。

三國 消費税増税を先送りしたということは、安倍首相のお考えに何か変化があったのかもしれない。アベノミクスが過去の輸出振興の外需主導型経済政策をたどるのであれば、それは駐車ブレーキを外し忘れて車を運転するようなものだ。いくらアクセルを踏んでもスピードは上がらない。今はデフレ効果を伴う消費税増税ではなく、何があっても消費を増加させることだ。そして、日本の円が実力通りに評価され、円の購買力が回復すれば、日本経済は自らの力で成長軌道に乗るだろう。さらにアクセルを踏み込む装置としては、住宅投資額拡大に効果があり過ぎるとされる「住宅ローン支払金利所得控除税制」を導入することだ。金利上昇期をいずれ迎えることを想定すると、最も必要な税制である。