オルタナティブ投資も積極化

オルタナティブ投資も積極化

年金積立金管理運用独立行政法人
理事長
三谷 隆博 氏



聞き手 編集局長 島田一

――昨年10月には基本ポートフォリオの大幅な見直しを行った…。

三谷 我々は5年間の中期目標に沿って資金運用を行っているが、その前提となる経済の状況が大きく変わってしまった。最新の財政検証の結果等を踏まえて14年秋に改められた中期目標では、賃金上昇率プラス1.7%の運用利回りを長期的に確保することがGPIFの使命として与えられた。日本経済の状況を見ると、10年以上続いたデフレから、徐々にインフレ的な状況に移行しつつある。日銀の物価目標2%にはまだ達していないが、下落し続けてきた物価は明らかに上昇に転じており、これを受けて賃金上昇率もプラスになってきている。他方、日銀の量的・質的金融緩和によって金利は押しつぶされており、実質金利は今や明らかにマイナスとなっている。このような状況下で国内債券に重点を置いたポートフォリオを組んでいては、賃金上昇率に1.7%の利回りを上乗せすることは非常に難しくなってしまう。

――国内債券の運用比率が大幅に減少し、逆に株式の比率は増加した…。

三谷 一般的に報道されているような、国内株式の比率を上げるために基本ポートフォリオを見直したということではなく、最近の超低金利を前提に、今後の長期金利の上昇も展望して、望ましい資産構成を算出したということだ。日銀の大規模緩和政策によって、現在のところ長期金利の水準は著しく抑えられており、このままでは積立金は目減りしていく一方、今後適度なインフレ状態に移行し、緩和が徐々に出口に向かえば、必ず金利は上昇する。その過程では、国内債券に大幅な評価損が出ることも計算に入れる必要がある。最新の財政検証では、向こう10年近くは資金が流出していくが、そのあと25年後位にかけては資金の流入が見込まれている。そこで、今後25年間をターゲットに財政検証の前提に沿って国内債券の利回りを推計すると、今回採用した2つのケースでは、名目で2.0%、もしくは2.6%程度になるとの結果が出た。これを前提として、賃金上昇率プラス1.7%を達成するための再計算を行ったところ、国内債券のウェイトは大きく減り、国内株式、海外株式、海外債券の運用比率がそれぞれ増えることとなった。

――新たな基本ポートフォリオへのリバランスの時期は…。

三谷 マーケットの状況を見定めながら、資産構成の割合を変更後の基本ポートフォリオに着実に近づけていくことが基本となる。早ければ良いに越したことはないが、ポートフォリオの変化幅が大きいため、マーケットの混乱を避けるためにも、ある程度の時間をかけていくことが必要となるだろう。今年4月からは5年間の第3期中期計画に入るが、この期間のどこかの時点では組み替えを終えるような形となるだろう。

――外部の運用委託先はどのように決定しているのか…。

三谷 運用の委託先については毎年定期的に見直しを行っており、現在は外国債券のファンドマネージャーの見直しを行っているところだ。我々の原則としては、少なくとも3年間は運用を任せて、その結果を見ながら、新規の応募者も含めて見直しを行うこととしている。伝統的な4クラスの資産については、4年に1度程度のペースで見直しの時期を迎えるようになっている。運用委託先の数については特に決めておらず、100以上の応募者それぞれの特徴を判断しながら、適切な組み合わせを考えている。現在はインハウスを含めて79ファンドがGPIFの資金を運用しており、各資産クラスのファンド数としては、だいたい20前後となる。パッシブ運用、アクティブ運用で大きく性格が異なるため、ファンド毎の運用金額はまちまちだ。

――運用する資金の大きさに対し、職員数は少ない…。

三谷 現在の職員数は私自身を含めて80名程度だ。運用の大半を外部のファンドに委託しているため、我々の主な仕事はファンドの選定やその後の管理・モニタリングになるが、人員が十分足りているとは言えない。出来れば組織としての規模をもう少し大きくして、モニタリングの強化など、様々な形でリスク管理態勢をレベルアップしていきたい。現在は外部のコンサルタントに、給与体系の見直し、専門職の処遇の仕方を含めて検討してもらっていて、最後の詰めの段階に入っている。人件費や組織の人数はある程度弾力的に対応できるように閣議決定もされており、専門知識を持つ人材をより採用していきたい。

――今月には、運用方針を議論する投資委員会を新設するが…。

三谷 現在は法律上、理事長1人が最終的に責任を持つ形で全ての決断を行う仕組みとなっている。ただ、資産運用業務の特徴やGPIFの規模からして、理事長1人が全てを決める独任性ではなく、何人かが集まって議論しながら進める合議制の方がベターだ。例えば、一般的な運用機関であれば週に1回は大きな方向性について議論を行っているが、我々としてもそのような形で、新しい基本ポートフォリオに向けてどのようにリバランスを進めていくか、もう少し頻繁に内部での議論を交わしていきたい、また、従来の基本ポートフォリオでは、上下のカイ離許容幅の中心に合わせて調整を行っていたが、今後はマーケットを見ながら、カイ離幅の中であれば比較的弾力的に対応することが可能となったので、こうしたことからも、新たな委員会で議論を積み重ねていきたい。

――より積極的にリスクを取り、運用効率を上げるべきとの意見もあるが…。

三谷 年金資金の運用としては必要とされる利回りをしっかり達成することが重要であり、利益をむやみやたらと追求していくことはしない。我々としては必要な運用利回りを最低限のリスクで確保するということが基本方針であり、それ以上どんどんリスクを取って儲けようというソブリン・ウェルス・ファンドのような考えは持っていない。パッシブを基本とし、市場全体の動向を幅広く反映するような形で運用して行けば、世界経済や日本経済の成長に伴い、それなりの利回りを着実に得ることはできるはずだ。

――伝統的な資産に加え、インフラ等への投資も開始したが…。

三谷 低金利環境下において、安定的にそれなりの利回りが取れる商品を見つけることは、世界の長期資金運用者にとっては共通の課題であり、我々としてもオルタナティブ投資を避けて通ることはできない。また、我々のように長期的な運用を行う投資家にとっては、流動性リスクを取ってプラスアルファのリターンを得ることが可能だ。世界の年金基金や、日本の企業年金の一部でも、すでにオルタナティブ投資を手掛けており、我々もこうした分野を狙っていく必要がある。特に、不動産はもともと長期投資の一つの大きな分野であり、積極的に取り組んでいければと思っている。ただ、不動産のほか、インフラ、プライベート・エクイティといったいずれの分野でも、良い案件に遭遇することがなかなか難しい。また、日本ではバブルの後遺症で不動産投資は危険だというイメージが残っており、しっかりとした案件から投資を開始していかねばならないだろう。オルタナティブの分野でも運用態勢を整えつつ、いかにして投資機会を確保して行くかが今後の課題になるだろう。

――最後に、新年の抱負を…。

三谷 昨年に行った基本ポートフォリオの見直しを含め、より大きな変革を遂げていかなければならない。国民からの信頼が得られるように、リスク管理の腕に磨きをかけ、プロフェッショナル集団として年金資金の運用に取り組んで行きたい。