投資環境を整備し市場に活力

投資環境を整備し市場に活力

日本証券業協会
専務理事
森本 学 氏


聞き手 編集局長 島田一

――証券業界が今、課題とすべきことは…。

森本 証券業界のビジネスモデルを、経済や金融のトレンドに合わせて発展させる方法を見極めていくことだ。基本的には、国民の資産を投資の方に誘引することが重要となる。市場では、マクロ面ではデフレからの脱却を進めようとしており、ミクロ面ではコーポレートガバナンス改革が行われている。したがって、投資に導きやすい市場環境となっている。欧米と異なり規制対応の面で大きな問題がないため、現在のこの流れを定着・拡大させる好機だと考えている。

――証券会社の取り組みは…。

森本 各証券会社で目標や基盤が違うので、一概には言えない。海外展開、アジア進出が可能なのは一部の証券会社に限られる。ただ、総じていえるのは、投資家の信認を得られるようにすべきだということだ。証券会社を通じて投資を行えば、長期的な視点から見て「割に合う」と思えるようにすることが肝要だ。日証協で取り組むべき活動としては、「投資家の裾野拡大」と「活力ある金融資本市場の実現」という二本の柱を掲げている。

――「投資家の裾野拡大」として具体的に行っていることは…。

森本 「投資家の裾野拡大」としては、NISAが一番の目玉で、他には確定拠出年金制度が挙げられる。NISAは証券投資を行うきっかけの提供という位置づけだ。これを機に、投資を初めて行う個人もいれば、久々に株式や投資信託を購入する個人もいる。

――NISAはまだ新規の投資家には普及していないのでは…。

森本 各証券会社も、恐らく銀行も、NISA口座は1か所の金融機関でしか開設できないため、既存客にまず自社で口座開設してもらうことに最初は注力していた。つまり、最初は既存客の囲い込みが先行していた面がある。その後、新規投資家となる投資未経験層や若年層に広がりつつあると思う。現在の口座開設の手続きが大きな障害になっているとは考えていない。住民票が必要となる点や、最終的に口座開設の通知が来るのに時間がかかる点はあるが、申し込み方法は極めて単純だ。

――税制改正大綱に盛り込まれたジュニアNISAの効果は…。

森本 ジュニアNISAは、親や祖父母の資金で買った投資商品が、子や孫の口座に贈与される点で世代間移転の効果が見込める。また、原則18歳まで払い出し制限がかけられる点で、必然的に長期的な資産形成が行われることとなる。ジュニアNISAを1つのテコとして、中長期的な投資を広げていくという効果は相当あるのではないか。ただ、現行の成人向けのNISAと同様、ジュニアNISAも非課税期間が投資した年から最長5年間と、時限であることが課題だ。現行のNISAとともに、恒久化を働きかけていく。

――そのほかNISAの制度改善の課題は…。

森本 中長期的な資産形成に向けた制度である以上、非課税期間の恒久化が大きな目標となる。その他の改善点は、毎年着実に要望していくことになろう。恒久化のほかでは、投資商品の入れ替えが出来ない点が挙げられる。現行の制度では、商品を入れ替えた場合、NISA口座から出して又入れた扱いとなり、非課税枠がその分減ることとなる。一方、イギリスのISAでは、投資枠内での商品入れ替えが可能となっている。中長期的な投資では、経済情勢によって投資したい商品が変わるのは当然なので、この点においても改善が必要だ。

――確定拠出年金の制度については…。

森本 確定拠出年金については、資産形成に寄与する可能性が高いものの、現在は必ずしも個人の中長期的な資産形成に役立っているとは言い難い。厚生労働省が拡充に向け取り組んでいるが、まだ十分な制度として成熟していないのが現状だ。現行の制度では、個人型DCの普及率が非常に低い。来年度の税制改正大綱で、主婦や公務員も制度に加入できるようになるため、加入対象者は相当広がることとなる。ただ、普及率を高めるには、個人型DCを加入しやすくするなど、制度をより使いやすいものにすることが大切だ。

――その他、投資家の裾野拡大に向け重要なことは…。

森本 金融経済教育により、金融リテラシーを高めることが重要だ。NISAや確定拠出年金は、投資に資金を誘引するインセンティブになるが、それだけでは投資行動による好循環が生まれない。証券業界としても、金融経済教育に積極的に取り組まなくてはならないと考えている。小中学生に対しては、学習指導要領の改訂に合わせ働きかけを行う。また、日証協では小中学校の土曜学習への参画も行っている。小学生向けでは、同伴している保護者にもきっかけの提供となることが見込める。大学では、来年度は50大学で講座を行う目標を掲げ、目標に向け活動することにしている。

――「活力ある金融資本市場の実現」に向けた取り組みは…。

森本 リスクマネー供給を増やすためのクラウドファンディングや、新興、地域企業向けとなる非上場株式の取引制度の法改正に対応できるよう準備している。クラウドファンディングは、基本的には証券会社がインターネット上にサイトを開設して少額の資金調達を仲介できるようにする制度で、これに対する自主規制を検討している。非上場株式の取引制度については、証券会社がこれまでグリーンシート銘柄などを除いて、非上場株式を取り扱って来なかったことから、新たなルールを作る必要がある。新興企業や地域企業の株式取引制度なので、ディスクロージャーの負担は上場会社よりも軽減される。例えば非上場の地元のバス会社に投資したいなど、投資家はある程度自発的に対象企業を知っているのが前提で、その上で投資をしたいという人に勧誘を限定する仕組みを予定している。やや草の根運動的ではあるが、リスクマネー供給の点では効果が徐々に表れてくるのではないか。

――法改正の対応以外では…。

森本 法改正の対応のほか、東京市場の国際金融センターとしての地位向上に向けた活動がある。日証協と日本取引所グループ、投資信託協会、日本投資顧問業協会の4団体で「東京国際金融センターの推進に関する懇談会」を設置した。政府や東京都が積極的に取り組んでおり機運が高まっているため、証券・運用業界の立場からも意見発信をしようと議論を行っている。

――東京の国際金融市場化は過去何度も議論されてきた…。

森本 これさえ行えばよいという決め手があるわけではないが、どこか突破できれば現在の悪循環が解消できる可能性はある。証券会社がリスクを取らないことが問題だといっても、投資家も保守的であったり、発行体も同様に変化を嫌っていたりと悪循環が生じている面がある。以前から何度も議論しており、前進していないとの批判はあるかもしれないが、2020年の東京五輪の開催も控えて、今はタイミングとしては逃してはならない機会だ。東京五輪を機に、東京という都市の競争力を高めようとしている現在、金融は非常に重要な要素になっている。こうした状況から見て、業界を挙げて議論をする意味は十分にあると考えている。

――国内市場の課題は…。

森本 日本の場合は、金融緩和を行っても、リスクマネーの供給に資金が向かいづらい傾向がある。いわゆる低格付けの発行体が資金調達をする手段が乏しい。また、機関投資家がリスクを取らないことから、ややリスクの高い募集有価証券は、個人投資家に販売するのが主力となっている。例えば、発行金融機関の財務内容が一定程度以上悪化した場合に元本が削減されるなどの仕組みをもつCoco債は、これまでの劣後債より更にリスクが高くなっているが、個人向け投資信託に組み入れられる形で販売されている。欧米では金融緩和を行うと、低格付けの発行体に対する資金流入が起こるが、日本では資金調達の手段を選べる高格付け発行体のコストが低下するだけで、多様な発行体への資金流入が起きにくい。この辺が1つの課題と言えるだろう。

――国内市場の将来像は…。

森本 現在の低金利や、デフレはいつまでも続くわけではない。それが変ってきた際にはどうしても投資商品に資金が回らざるを得なくなる。そうなったときに、市場がきちんと機能するよう、今から1つ1つ出来ることを行っていく。すでに、現在でも投資に資金が向かう流れが少しずつ始まっていることから、投資商品に本格的に資金が回っていくのもさほど遠い将来ではないと考えている。