企業統治の変化に的確に対応

企業統治の変化に的確に対応

日本監査役協会
会長
広瀬 雅行 氏


聞き手 編集局長 島田一

――企業のガバナンスのあり方が変わろうとしている…。

広瀬 改正会社法の施行が今春に迫ってきたことや、東証と金融庁によるコーポレートガバナンス・コードの制定、日本版スチュワードシップ・コードの普及など、今年はガバナンス面で大きく動く年となる。これに伴い、監査役の役割も変化していくであろう。当協会としても、今後の監査役の在り方について発信していくことを考えている。

――東証と金融庁では、2名以上の独立社外取締役を選任すべきとの方針だ…。

広瀬 改正会社法で従来の指名委員会等設置会社に加え監査等委員会設置会社が新設され、取締役会をモニタリングの場と性格付ける制度設計が増え、コーポレートガバナンス・コードで社外取締役の重要性も認識されている。改正会社法では、一定の要件を充たす監査役設置会社に監査役の設置を義務付ける一方で、社外取締役を置かない場合にはその理由を説明しなければならないこととしている。社外取締役に期待される役割と監査役に期待される役割は自ずから異なる。

――社外取締役を置いた場合、監査役と役割が重複するのでは…。

広瀬 社外取締役も監査役も非業務執行役員という点で共通するが、役割は同じではない。監査役は監査権限を有する非業務執行役員であるが、監査役設置会社における社外取締役は、経営方針といった経営の監督機能を担うとともに、重要な業務執行事項についても決議を求められる立場にある。つまり、国内上場企業の約98%が採用している監査役設置会社では、社外取締役は、取締役会に付議される1つ1つの案件について業務執行に関する議案も含めて賛否を示さなければならず、自身が意思決定に加わった案件については、中立性及び客観性を保つことが困難になる。この点、監査役は取締役会の外に設置されており、高い中立性及び客観性をもって業務執行を監査・監督することが出来る。これからコーポレートガバナンス・コード策定の過程における議論等を経て、取締役会、社外取締役、監査役等、それぞれの役割がより明確化してくるのではないかと考えている。

――改正会社法で変わる点は…。

広瀬 改正会社法では、監査役を置く監査役設置会社や、監査委員を置く指名委員会等設置会社に加え、監査等委員会設置会社という新たな会社制度を選ぶことが可能となる。それぞれの制度間に優劣があるわけではなく、企業がそれぞれの状況や適性に合った会社制度を選び、ガバナンス向上のための工夫をしながら機関設計をする時代となる。当然のことながら、各企業は自社が求める取締役、監査役、監査委員または監査等委員それぞれの役割を明確にした上で、その役割に合致する社外、社内のメンバーを考えなくてはいけない。従来の委員会設置会社が登場した際には制度間競争を期待されたが、ほとんどの企業は監査役設置会社制度を採用し続けたため、実際には競争にならなかった。これからは、初めて制度間競争が始まるかもしれない。

――監査役の制度は海外からはわかりづらい…。

広瀬 協会としては、海外も含めた発信力の強化を更に進めたい。これまで監査役の英文呼称は「Coporate Auditor」や、「監査役」をローマ字にそのまま置き換えた「KANSAYAKU」が使われていたが、海外でもその役割が理解されやすいような呼称を検討し、2012年8月から「Audit & Supervisory Board Member」を推奨している。監査役は取締役会と協働して広義の監督機能を果たしていることを分かりやすく示したもので、コーポレートガバナンス・コードの考え方とも合致している。2014年9月に当協会が行った調査では、監査役の英文呼称を定めている上場会社約1,000社中65%が新しい推奨呼称を採用しているとの結果が出ている。もちろん、米国などではモニタリング・モデルが取られているため、これと異なる監査役制度よりも、このモデルに馴染む委員会制度の方がわかりやすいのかもしれない。とはいえ、日本企業の大半が監査役会設置会社の形を選んでいる以上、海外のモデルをそのまま導入するのは日本企業にどこか馴染まない部分があるということだ。

――日本企業に合った制度がある…。

広瀬 改正会社法で新設される監査等委員会制度を選択した場合、モニタリング・モデルの取締役会に移行しやすくなる。ただ、どのような制度を選択するにしろ、日本企業または自社に馴染むような工夫を施すことが望ましい。和を尊ぶ日本では取締役会を監督機能に特化せず執行機能を残す方が文化的に馴染むのかも知れない。その場合は取締役会の外に置かれる監査役という制度は非常に有用である。また、常勤者の存在も重要だ。社内出身の常勤者は、日常的に社内情報に接し、長期的・持続的な視点で企業を見ることが出来る。

――このほかに、改正会社法で変わる点は…。

広瀬 会計監査人の選解任議案を、監査役が決定できることになったことは大きな前進だ。これまでは、監査を受ける側が、会計監査人の選解任議案や報酬の決定権を持っていた点で、インセンティブのねじれが生じていたが、そのうち選解任議案の決定権が監査役に移ることになった。ただ、会計監査人を変更しない場合は、株主総会の議題に上がらず、実務として表面化しないため、外部からはわかりづらいかもしれない。とはいえ、選解任の議案決定権がある以上、会計監査人を継続する場合でも監査役は継続の是非について判断する必要がある。また、株主総会で質問をされた場合も監査役が説明することになろう。選解任権を持つようになった監査役は、逆に言えばしっかりとした決定を行っていかなければならない。また、会計監査人の報酬については、引き続き、監査役に決定権はなく同意権のままであるが、選解任議案の決定権が監査役に移ってもしっかりと監査役として権限行使できるということが示せれば、次の展開につながる可能性も出てくる。仮に、監査役が会計監査人の報酬の決定権も持つことができれば、海外からの監査役への理解も進むだろう。

――ガバナンスの強化のための対応が稼ぐ力を阻害しているのではないか…。

広瀬 稼ぐ力を取り戻すためにもガバナンス強化は欠かせない。国内企業の稼ぐ力が弱っているという現状を改善していくために「攻めのガバナンス」が必要と言われているが、監査役がしっかりと「守りのガバナンス」を行うことで、執行側が安心して経営に全力投球できるようになるという効果もある。また、監査役も単に守りの機能を発揮するだけでなく、経営方針や経営の効率化といった点にも積極的に発言していくことが期待されている。

――会員に対する協会の活動は…。

広瀬 会員として登録している監査役等は7,705名、会員会社で5,919社となっている(14年12月末)。このうち半数以上は非上場企業だ。協会では研修事業を行っているが、会員の企業規模や業種業態は様々であり、全ての会員のニーズを満たしていくために協会に求められるものも多様化している。また、監査役を取り巻く環境も急激に変わってきている。例えば、一連の企業不祥事の結果として不正リスク対応基準の制定等が行われ、監査役との連携を強化することが会計監査人に求められ、会計監査人と面談を行う機会が増加した。監査役が対応すべき事項も増えているため、会員が監査職務を遂行するために必要となる研修プログラムをタイムリーに企画して実行していく方針だ。

――このほか、協会としての取り組みは…。

広瀬 今年は改正会社法の施行やコーポレートガバナンス・コード制定など、コーポレート・ガバナンスを巡る動きが慌ただしくなり、監査役、監査委員あるいは監査等委員になった会員が対応に迷う可能性もある。監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社どれをとっても日本の会社法が求めるガバナンスのレベルを体現すべく、協会としては、まず会員に対し指針を示していく。その上で、会員がそれらの指針に基づき自社において適切な制度運用をしていくことが重要となる。更に、制度変更の中で見えてきた新たな課題についても研究を行い、対応力を高めていきたい。例えば、コーポレートガバナンス・コード原案では、監査役および監査役会の役割について、「自らの守備範囲を過度に狭く捉えることは適切でなく、能動的・積極的に権限を行使し、取締役会においてあるいは経営陣に対して適切に意見を述べるべき」とされている。具体的に何をすればよいかわかりづらい面もあるため、どうすれば良いのか考えていかなければならない。