財政のムダをカットし教育投資に

財政のムダをカットし教育投資に

衆議院議員
岸本 周平 氏



聞き手 編集局長 島田一

――障害者の雇用促進に熱心に取り組まれている…。

岸本 障害者雇用は私のライフワークの1つであり、私自身も地元の和歌山県で障害者雇用に取り組んでいるNPOに理事として参加している。地方都市に行くと、NPO活動など社会を支える分野に対して高い関心を持つ若い人達が増えてきている。NPOを立ち上げるためには本業がある程度しっかりしている必要があるが、職員になる若者の間ではお金儲けよりも社会貢献を重んじるという新しい価値観が生まれてきており、新たな変革の推進力となってきている。

――新たな推進力という点では、高齢者の活用も重要となる…。

岸本 年金制度がスタートした当時の日本人の平均寿命は約60歳だったが、今や平均寿命は男女とも80歳超まで伸びてきており、私の地元でも非常に元気な高齢者が多い。また、国民年金に加えて厚生年金も受給していれば生活基盤はある程度安定するため、高齢者の中には豊かな暮らしを送っている人もいる一方で、まだ世間の意識としては「高齢者を支えなければいけない」というイメージが強い。その反面、30代や40代で暮らしに困っている人に対しては「働き盛りのうちはがんばれ」と片付けてしまっている。時代の変化に合わせて、「若い世代が高齢者世代を支える」という従来の構図から、「皆で少しずつ支え合い、あるいは支えられる」という世の中へと変えていくことが必要だ。すでに地方のコミュニティでは徐々にそのような関係が具現化しつつある。例えば、老人介護施設に隣接して保育園が作られており、施設に入っていても元気なお年寄りは子供たちに遊びを教えたり、また、力持ちの子供はお年寄りの手伝いをしたり、支える側と支えられる側の関係がごっちゃになっている。国の制度として、税金を払う人と税金をもらう人という区別をつけた古いパラダイムを脱却すべきだが、まだそういった発想の転換が出来ていない。

――少子化の流れも止まらない…。

岸本 20世紀の日本では、一生懸命働くサラリーマンのお父さんを専業主婦のお母さんが支え、そこに2人の子供がいるというモデル家庭があり、日本の社会保障制度はこの家庭像を基本として設計されている。私が育った高度成長期はこういった家族構成がメジャーだったが、現在は一人世帯が最も多く、一人親の家庭や、結婚しても子供がいない家庭など、家庭のあり方が多様化してきている。また、高度成長期の頃は、労働者全体のうち非正規の割合はわずか8%程度に止まっていた。この8%は学生と主婦のアルバイトが中心であり、残りの92%は正社員だった。また、当時は年功序列の賃金体系であり、年齢を重ねれば給料が増えることが期待できるため、20代で所得が低いうちでも結婚し、子供を育てることができた。だが、今や非正規の割合は4割を超え、正社員は6割を切っている。そのうえ、非正規労働者はおろか正社員の賃金体系も年功序列から能力主義へと移行しており、家族手当も切り下げられた。高度成長期は企業が社会福祉を担ってきたが、状況が大きく変化してきている。

――特に一人親の家庭の子育ては大変だ…。

岸本 我々の時代は地区の小学校・中学校に通った後、公立の進学校に入ってある程度勉強をすれば志望する大学に入学できた。ただ、現在は小学校や中学校の受験をしないと、そもそも志望する大学に行けるような進学校に入学出来なくなってきている。低所得の家庭の場合は月々の高い塾代を払うことが難しく、結果として子供が高い学歴を得られず、所得が低くなると言う悪循環に陥る危険性がある。日本のシングルマザーのうち、約8割の方は福祉に頼らず複数のアルバイトを掛け持ちするなどして働いているが、それでも年収は200万円にもならないケースが大半だ。また、2人親の家庭でも夫が非正規であれば給料が上がらないため、やはり子育てが難しいことには変わりない。

――海外と日本との違いは何か…。

岸本 欧州では同一労働同一賃金の仕組みとなっているため、非正規の場合でも有期契約というだけで正社員と待遇の差はない。また、正社員の場合も職務内容で会社と労働契約を結ぶため、部長などのマネジメント職にならない限りは何歳になっても給与はずっと一緒だ。こうなると、40歳時点での正社員と非正規の差は日本よりもフラットだ。また、例えばフランスでは、大学の学費と医療費が無料であることに加え、子供1人につき2万6000円の手当が受給できるため、シングルマザーであっても子育てには困らない。現在の日本は格差なく平等にいい教育が受けられるという状況ではなくなっており、社会全体で子供を育てるという発想に立ち、国が応分の負担を行うべき時代が来ているのではないか。ただ、問題を提起すべきマスメディアは給与水準的にも恵まれているほか、公務員も民間より低いとはいえある程度の給与をもらっているため、低所得の人が困っているという肌感覚がない。政治家として様々な方の話を聞けば聞くほど状況は深刻であると実感しているが、制度をなかなか変えられないという壁にぶつかっている。

――政府はどのような施策を打つべきか…。

岸本 「子供の貧困」という言葉があるが、日本でも2割近くが貧困世帯となっており、どのような所得の人でも十分な教育を受けられるように国が手当てしなればならない。私は霞ヶ関で25年間働いてきたが、無駄な補助金は山ほどあるし、無駄な仕事をしているため公務員の数も多い。また、社会保障費の増加に加え、自民党政権になってからは公共事業費も増加してきている。今こそ公的セクターのコストカットが必要であり、浮いたお金は全て教育・人材投資に回すべきだ。

――日本にとって真に必要な成長戦略とは…。

岸本 経済が成長することによって初めて税収が生まれるため、経済成長は必要だと考えている。ただ、景気循環と経済成長を取り違えている人が多いのではないか。景気は循環するため、好況と不況が必ずやってくる。不景気の時はじっと耐えるしかないが、自民党政権では不況になると公共事業を増やす傾向にある。公共事業は土木・建築にアドバンテージを与えるわけだが、土木と建築の生産性は産業別で最も低いため、これでは日本の生産性は下がるばかりだ。また、民主党政権時代を含め、政府は生産性を上がるための成長戦略をやり続けてきたが、成果は未だに出ていない。これはマーケットのことを知らない政治家と役人が、「次はITだ」「次はグリーン産業だ」「次は太陽光発電だ」などと勝手にテーマを決めてお金をバラ撒いているためだ。これの無駄遣いを全て止め、借金の返済に回すか、あるいは教育分野に使うべきだ。後は規制緩和を行い、民間の自由な取り組みを促すのが政府の本来の役割だが、安倍政権はこれとは全く別のことをやっている。