日本のチベット化を防げ

日本のチベット化を防げ

桐蔭横浜大学・大学院
教授
ペマ・ギャルポ 氏


聞き手 編集局長 島田一

――著書(最終目標は天皇の処刑 飛鳥新社刊)で紹介された中国の「日本解放計画」は驚きだ…。

ぺマ 中国共産党が作成したとされる「日本解放第二期工作要綱」を初めて目にしたのは1970年代のことだった。中国共産党が実際に用いる言葉が散見され、よく出来ているとは思ったものの、内容が内容だけに、当時の私は「工作要綱」が本物か疑わしく思っていた。しかし段々と国会での皇室への野次や、小沢一郎氏が主導したとされる2009年の当時副主席だった習近平氏の陛下との特例謁見、更には岡田克也外相(当時)による国会開会式の陛下のあいさつに対する注文などを見るにつれ、「工作要綱」通りの進展になっているのではないかと思えるようになってきた。特に特例会見については外交儀礼を無視した行為であり、はっきりいって異常だ。小沢氏については、悪気はないと思うが、同じく2009年の大規模訪中の際、胡錦濤国家主席(当時)に「人民解放軍でいえば、私は野戦の軍司令官として頑張っている」などと発言していたところも気になるところだ。当時の胡錦濤氏は人民解放軍の総司令官そのものであり、まるで自分が胡錦濤氏の配下だと認めているような発言だ。マスコミについても不自然な親中報道が見受けられ、まるで「工作要綱」に記されたマスコミ支配が実現しつつあるようだ。

――要綱で記されている中国の狙いは何か…。

ぺマ 「工作要綱」で記された最終目標は天皇の処刑、および日本の分割だ。具体的には左翼政権を樹立した上で戦争の責任者として天皇を処刑、更に日本の人口が減少することから日本人を東に移住させ日本自治共和国を作った上で、西半分を中国に取り組むというものだ。そのために要綱では、日本人に徹底的に第二次世界大戦への罪悪感を抱かせ、精神的にコントロールすることが必要だと書かれている。荒唐無稽に思えるかもしれないが、かつて在日中国大使館の中国人外交官がオーストラリアに亡命した際、日本人に2000人の工作員が潜伏していることを認めており、全くの絵空事とは思えない。はっきり言って、彼らのいう日中友好は目標のための手段に過ぎず、少なくとも沖縄までは支配下におくことを考えているように思われる。実際、中国には過去にも北朝鮮北部の朝鮮人が多く住んでいる地域を自国に併合した「実績」がある。

――中国は何を目指しているのか…。

ぺマ 端的に言えば、かつて世界のGDPの40%近くを占めていた「偉大なる中華」の復興を実現し、アメリカに並ぶ超大国になることだ。かつて鄧小平は「力を十分に蓄えて機が熟するまで力を見せびらかしてはならない」と指導したが、現在はまさに「力が十分に蓄えられた」状況になったわけだ。最近中国は中央アジアからヨーロッパに至る「シルクロード経済ベルト」と、中国沿岸からインド洋を経て中東へと至る「海のシルクロード」構想を明らかにしたが、これはこれらの地域においてアメリカを排除し、覇権国になる意思を示している。既に米国と中国は「コールド・ウォー」とまでは行かずとも、「クール・ウォー」の時代を迎えているといっていい。こうした中国の野望をけん制できるのはアメリカと日本、それにインドだけだが、アメリカは既に守りの姿勢に入りつつある。これはアメリカが相対的に衰退していることや、移民が増加に伴い、国民の意識が変容していることが背景だ。従って、アメリカ兵が日本のために死ぬことを期待するべきではなく、日本としても独自の行動が必要だ。例えば、キッシンジャー博士が指摘したように、インドと協力して、国際世論に訴えたり、経済的協力関係を強化したりすることが重要だ。博士は軍事的対立は避けるべきとしたが、現状を踏まえると、関係諸国間で防衛協力を促進することも重要だろう。

――中国に対して警戒感を強める必要がある…。

ぺマ その通りだ。既に米国も日本も、中国と無警戒に経済関係を深めてしまったため、中国の意向を無視しづらくなってしまった。冷戦時代、米国とソ連はほぼ貿易関係がなかったため、対立を深めても経済的に問題はなかったが、現在の中国とはそうもいかなくなっている。このため、政策的自由を確保するために、中国との依存関係は段階的に薄めていく必要があるだろう。また、中国がしきりに主張する民間交流にも警戒が必要だ。「国と国が上手くいかない時こそ、民間と民間が関係を深める必要がある」という理念は正しいが、それは民間が本当に民間であることが前提だ。共産党独裁の中国では自由な「民間」など存在せず、その行動は当然中国の国益実現を目指すものになる。日本の政治家やジャーナリストはこの点を国民に説明しなければならない。かつて鄧小平は「白猫であれ黒猫であれ、鼠を捕るのが良い猫である」と指摘したが、これは現在の中国でも変わらず、彼らは最終的な目標を達成するための手段は選ばない。多少日本に対して態度を軟化させても、無邪気に安心してはいけない。

――中国の外交政策は強かだ…。

ぺマ 実際、中華人民共和国成立以来の外交を見てみると、度々中国は他国との条約や契約を破ってきた。例えばソ連は当初中国にとってスポンサーであり、革命の先達であり、最大の友好国だったが、結局国境を巡って武力衝突するに至った。アジア諸国に対しても、内政不干渉を約束しておきながら、インドとの国境に突然派兵したり、反政府勢力に武器を供与したりしてきた。はっきりいって、中国にとって他国との約束は「時間稼ぎ」に過ぎない。盲目に約束を信じてしまうと、いずれ後悔することになる。

――日本はまだそのことを理解していない…。

ぺマ 特に経済界やメディアは中国を刺激することに臆病になっている。これは例えば、読売新聞が1967年によみうりランドで実施した開眼式にダライ・ラマ法王を招待したことで中国から追放されたような、過去のトラウマが鮮明に残っていることが原因だ。往時ほどではないが、それでも中国は依然直接・間接的に新聞を監視しており、メディア各社は気を遣わざるをえないのだろう。しかし、歴史認識は国によって違うのは当たり前だ。例えばチベットの人々から見てチンギス・ハーンは英雄だが、中央アジアでは悪魔扱いされている。勿論、歴史認識のあり方を表明するのは構わないが、それを他国に押し付けてはならないし、押し付けを拒否するのは自由だ。大体、チベットからすれば中国こそが現在進行形で人権、民族自決権、主権の三つの権利を踏みにじっている最中だ。中国は1959年、ダライ・ラマ法王の宮殿を砲撃し、宮殿前に集まっていたチベット人を大量殺戮した。チベットを占領した後は、高僧の虐殺や寺院の破壊、大量の中国人移民の投入を通してチベットの「中国化」を推進してきたほか、現在でもチベット語教育を監視し、それに反対の声を挙げる人々を逮捕し、拷問し、殺害している。

――日本は中国とどう付き合えばいいのか…。

ぺマ 日本は現在の地域から引っ越すわけにはいかないし、中国を動かすこともできない。隣人として、現実を踏まえて付き合うことが重要だ。日本が中国を無闇に挑発する必要はないが、中国の意図は知っておいて欲しい。例えば歴史認識についていえば、中国は毛沢東がかつて指摘したように「歴史を支配するものが国を支配する」と考えており、国内外を問わず自分達に都合のいい歴史を押し付けようとしている。しかし、大方のアジアの国々は日本を賞賛することはあっても、批判することはほぼなく、むしろ中国の台頭を非常に心配している。そうした現実を踏まえ、毅然とした態度を日本にはとって欲しい。