中国市場の先を行く市場に

中国市場の先を行く市場に

日本取引所グループ
取締役兼代表執行役 グループCEO
清田 瞭 氏


聞き手 編集局長 島田一

――日本取引所グループ(JPX)が東証1部に上場してから約2年半がたった…。

清田 JPXは13年1月に東証1部に上場し、足元では初値(3740円)と同程度の株価となっている。13年10月に1対5の株式分割を行ったことを考えると、ちょうど株価が5倍に上昇したことになる。12年11月に野田元総理が消費増税を前提に国会解散を宣言した後、アベノミクスが始まり株式市場が上向き始めてから、ちょうど良いタイミングで上場したと言える。マーケット環境が良くなり始めた時期に上場が重なったうえ、東京証券取引所と大阪証券取引所が統合されたことで、システム経費などの設備投資や、組織の重複していた部分がかなり合理化された。取引所は装置産業となるため、損益分岐点を上回り、収益が発生すれば利益率が上がっていくため、経営の合理化と上場のタイミングが良い結果につながっている。

――上場による職員の意識の変化は…。

清田 かつての取引所には、営業という意識があまりなかったが、斉藤惇前CEOによる意識改革の成果もあり、対顧客という意識が浸透してきたのではないか。上場企業については、取引所が管理している面ももちろんあるが、取引所を使っているという面では顧客とも言える。取引参加者といわれる証券会社についても、取引所は考査する立場にもあるが、同時に顧客でもある。また、直接的ではないが取引参加者を通じて、投資家も顧客だ。様々な顧客に取引所を活用してもらうよう、営業をするというカルチャーの変化が起きてきたと感じている。例えば、IPOについては、積極的に企業を開拓するのは証券会社の公開引受部の仕事になるが、取引所の上場推進部も未公開企業向けセミナーなどでIPOの促進を行う。これも取引所を活用してもらう営業の一種だ。上場企業として金融市場に参加してもらい、その企業を育てるよう、証券会社と組んだ企画も行っている。

――今後、特に取り組みたい市場分野は…。

清田 デリバティブ市場を強化していかなければならないと考えている。日本のデリバティブ取引高は海外市場対比で低位に甘んじており、やっと市場が出来かけているというところだ。同じ指数を原資産とするものでも、デリバティブは様々な商品ができる可能性を持っている。大阪取引所は日経225オプションを拡充し、マンスリーオプションに加えウイークリーオプションの取引を開始した。また、新たに、16年半ばに予定している大阪取引所の次期デリバティブ売買システムの稼働に合わせ、東証マザーズ先物指数とJPX日経インデックス400オプション取引を開始することに加え、利便性の向上に向け、ナイト・セッションを現行の翌3時から5時30分まで延長するほか、指数先物取引の日中立会の開始時刻を現行の9時から8時45分に前倒しする。デリバティブはグローバルに広げられる余地が大きい分野だ。為替デリバティブ以外にも、エネルギー資源などを対象とした商品デリバティブも可能性が大きい分野といえる。

――商品デリバティブは総合取引所構想とも関連する…。

清田 商品デリバティブをJPX傘下で取り扱えるようにするため、総合取引所という考え方自体にどう取り組んでいくかというのもテーマだ。東京商品取引所(TOCOM)と統合することだけが総合取引所化というわけではない。商品取引所の開設を認可する権限は経済産業省が持っており、現時点では商品の上場が認められていないわけだが、JPXとしては、経済産業省と金融庁と東京商品取引所との協力関係を上手く作るよう取り組んでいきたい。

――このほか取り組みたい分野は…。

清田 デリバティブ市場の強化に向け、清算機関の機能拡充にも注力する。店頭デリバティブなどの金融商品は、清算機能が十分に発達していないと市場が拡大しない。JPX傘下の日本証券クリアリング機構が国内最大の清算機関となっているが、海外の清算機関の日本上陸といったこともにらみ、ここのビジネスはより大きくしたいと考えている。また、データの活用も課題だ。取引所には、株価以外にも上場企業に関する膨大な情報が蓄積されている。これをより価値があるデータとして発信できるようにしたい。情報に価値があるという意識がさほどなかった時代から継続的にとっているデータも多いが、これを上手に活用して投資家の利便性を高めることができれば、当社の収益の向上とともに市場の一段の活性化にもなる。

――証券化商品やファンドについては…。

清田 商品の拡充、多様化では、インフラを投資対象とするファンドは期待できる。インフラ需要は年間80兆円とも言われており、公的資金だけではなく、民間資金の導入が必要だ。民間資金の導入にあたっては、債券の発行など、金融商品を使って資金調達を行うことになる。投資家に利益を返せるように証券化する商品の上場市場を準備し、この仕組みにより大きな資金調達が出来ることが望ましい。

――海外戦略に対する考えは…。

清田 発足後の中期経営計画で「アジア地域で最も選ばれる取引所」になることを掲げているが、これは容易ではない。東証に上場している外国企業はピーク時で120社超となっていたが、取引が活発に行われていないものがほとんどで、バブル崩壊や金融危機などにより激減した。海外商品が日本の取引所に上場され、市場取引が活発に行われる仕組みをいかに作るかというのも取り組むべき課題の1つだ。ただ、取引所として上場企業の経営者に収益性や資本効率を意識した経営を求めている以上、やたらグローバル展開を行い、収益は後でついてくるというやり方ではいけない。そうしたコスト面を考えると、海外取引所と提携し、商品の相互上場、ノウハウの提供を行うことは大いに可能だ。一方、アメリカのように有力な取引所が複数ある国を除いては、国と一対一でつながっている感覚の取引所が多いため、海外取引所とM&Aを行う機会は極めて少ないだろう。

――海外取引所との競争も課題だ…。

清田 日本国内では圧倒的シェアを占めていると言えるものの、グローバルに見ると、経済成長が著しい海外各国の証券市場に対し、存在感を示す必要がある。欧州、米国、日本の三極だけではすまない時代に突入しているため、日本としてはアジアの中で最も優勢なマーケットとしての地位を維持、発展させなければならない。アジアの金融センターとしての地位を中国に奪われる可能性も十分にある。中国では現在、金融資本市場が実質的に閉鎖されており、非常に特殊な市場ではあるが、経済と同様に市場規模は拡大している。中国市場がグローバルなマーケットに成長するときまでには、日本の取引所をさらに先を行く、信頼性、公平性、透明性が高い市場にしていなければならない。

――上場企業については…。

清田 日本版スチュワードシップ・コードや、コーポレートガバナンス・コードといった企業に対する経営者の意識改革を促す施策によって、日本市場に対する海外各国からの信頼をさらに確かなものにしたいと考えている。コーポレートガバナンス・コードにより社外取締役を置く企業が上場企業の9割に増える一方で、日本版スチュワードシップ・コードは、191の機関投資家が受け入れを表明し、機関投資家が企業経営者と建設的な対話を行い、企業価値向上につながる経営を行うよう促している。アベノミクスによる追い風により投資家が市場に戻ってきているなか、上場企業にコーポレートガバナンスや資本効率を意識した企業経営を定着させたい。また、JPXとしては、引き続き、将来的に日本経済を背負って立つような多くの企業を迎えられる市場でありたいと考えている。東証1部の上場企業は、1989年には1200社程度であったものが、現在では1900社程度となっている。この25年間に新しい成長企業が続々と上場した。IPOを通じ、成長企業が日本経済を支えるような市場が望ましい姿といえる。