地震予知システムを事業化

地震予知システムを事業化

電気通信大学名誉教授
日本地震予知学会会長
早川 正士 氏


聞き手 編集局長 島田一

――国は「地震は予測できない」と判断しているが…。


早川 1995年の阪神淡路大震災の後も地震学会は「地震予知は不可能だ」と決めつけ、地震の物理(メカニズム)だけを研究すると宣言した。同様に2011年の東日本大震災後も地震予知の可能性を認めなかった。国がまとめた地震予知不可能論はこうだ。「短期の地震予知は不可能。そのため事前の防災が重要」だと。この国の決定に追随してメディアも地震学会と結託し、国民に脅しをかけ続けており、その結果、防災グッズの売上が著しく増加していると聞く。「地震予知は不可能」と結論づけたのは地殻変動を測定する地震学の方の見解。我々は全く異なった概念と手法を用いていると言うことをまず申し上げたい。

――地震を予知する方法は…。


早川 地震を予知するためにはどうすればよいか、それは前兆を探すことに徹底することだ。前兆は、数十年をかけて貯まってくるストレスによって、1年前または1カ月前、1週間前に現れてくる現象だ。それは、力学的現象(小規模地震など)であったり、電磁気現象であったり、動物の異常行動などであったりする。例えば、東日本大震災では数ヶ月前から小規模地震が起きており、直前の3月9日にはマグニチュード7・2の地震が発生していた。こういった前震(主震の前の地震)も前兆の一つ。しかし、前震を伴うような地震は全体の1~2割程度しかないため、他の前兆も探す必要がある。近年地震との明瞭な因果関係が確立したものがあり、これが電離層の乱れだ。更に、動物の異常行動では、ナマズやイルカといった話が有名だが、調べてみたがナマズやイルカと地震に因果関係はなく、前兆と言えるものではなかった。一方で、最近になってわかったことだが、乳牛の出すミルクの量と地震の関係を調べたところ因果関係があることがわかった。このように前兆とみられる現象を探し、一つ一つ徹底的に分析し、因果関係があるか否かを調べていくことが我々のスタンスであり、地震予知学だ。

――地震学と地震予知学は違うと…。


早川 複数の前兆現象は地震との因果関係がすでに確立しているが、その原理(メカニズム)は未だに解明されていない部分が多い。地震学会では前震を前兆として研究する学者は皆無であり、地震予知を否定しているため、可能性を潰している。しかし、メカニズムは後で考えればいい事で、最も大事なことは、長年の観測に基づいて前兆現象と地震との因果関係を証明することだ。地震学ではメカニズムを解明しなければ学問として認めないといった風潮があるが。例えば世界保健機構では、10人中8人が同じ食べ物で食中毒になったとする。それが100人食べて80人が食中毒になったならば、原因がわからなくとも疫学サフィシェントで、その食べ物を「食べるな」と指示を出す。原因つまり食中毒に至るメカニズムはわからなくとも、因果関係が存在するのであれば、行動に移さなければならない。地震予知はこのような病気の解明とよく似ている。大地震が起きて被害が出てからでは遅いのだ。

――地震の予知が可能になってきている…。


早川 従来の地震計を用いた手法では地震を予知するのは到底困難だが、私たちが考案した電磁気を用いた新たな手法では地震予知は可能だ。まずは地震予知の定義をしっかりと理解してもらいたい。定義とは、長期予測、中期予測、短期予知の3つに分けられる。このうち長期予測だが、これは時間スケールでいうと100~1000年単位のもので現代の我々にとって何の意味も無いもの。つまり、何千年前の活断層が動いたなどといった原子力規制委員会の議論はあまり意味がないのでは。そして中期予測とは、例えば今言われている「南関東で30年以内にマグニチュード7の地震が起きる確率は70%」といったもの。これは地震学者が過去200年で起こった地震のデータベースを用いて算出するもの。ただ確率を出すもので、都市計画や地震保険などに使用されるといった点からすれば、ある程度実用性はある。しかし、あくまで確率であり、それ以上でもそれ以下でもない。明日地震が起こるのか、30年経っても地震が起きないのかはわからない。つまり、我々が最も関心があるのは短期予知だ。これは数日または1週間前に地震を予知することで、さらに「いつ」「どこで」「どのくらい(マグニチュード)」の地震かということを決めなければならない。データベースで確率を判断する地震学のテーマに比べ、相当高度なしかも学際的な研究だ。我々は過去の地震には興味は無く、将来の地震を予知することを目指している。

――「いつ」「どこで」「どのくらい」の地震を予知する方法とは…。


早川 地震予知に最も有望な手法であるのが電離層の乱れを観測することだ。地震の前には必ず地圏内で地層にクラック(ひび)が入る。そのクラック発生の時の摩擦、圧電効果などによって電流が発生し、電磁気現象を引き起こす。発生する電磁波は数10~100キロメートル程度伝搬し、電離層を乱す。この電離層の乱れが地震の前兆ということだ。クラックから地震までの期間は決まって1週間程度となっている。どうして1週間かと言われると、そのメカニズムはよく分からない。しかし、メカニズムはわからないが、1週間前に地震が起きるという因果関係は確立している。また、この電離層の乱れを観測するために我々はVLF(Very low frequency)という電波を使っている。VLFは周波数でいうと中波の放送波(500キロヘルツ)よりも低い10キロヘルツ程度の電波。通常、通信としては使われない電波だが、潜水艦の通信などに使われるため、軍事施設を持つ国であればその送信施設を持っており、それらのVLF送信局からの電波を観測することは容易だ。国内各地に設置された多点での受信システムを用いてVLF送信局電波を受信(観測)し、網目状の電波網(ネットワーク)を構築する事で、どこの電離層で乱れが発生しているのかがわかる。また、電離層がどのように動いているのかがわかるというわけだ。また、この手法は、震源が浅い、人間が死ぬ可能性がある大地震(例えば、マグニチュード5.5以上)に限り反応する前兆現象だということがわかっているだけに予知に大変有効だ。

――ノーベル賞級の発見だ…。


早川 1995年の阪神淡路大震災の時に電離層が数キロ下がったこと、つまり電離層の乱れを発見した。これがどういうメカニズムであるかはわからなかったが、大地震の際に地震の前3~4日間にわたり、前兆的に電離層が乱れていることを発見したことから、地震予知の研究を大々的に始めるに至った。それ以前の1980~90年代には地震に伴って電波現象あるいは電気現象が発生するという事例が報告されていた。興味深い事例であったが、当時は非常に特殊な人が特異な論文を書いているという、怪しいというイメージが世界的に優勢だった。私自身も1995年の神戸地震の事例を発見するまではいかがわしいと思っていたぐらいだ。そういう背景もあり、学問としての体系化が全く進んでいなかった。しかしこの20年間で日本を中心として地震の前兆現象に関する研究は飛躍的な発展を遂げ、学問としての体系化が進んでいる。また、2014年には一般社団法人日本地震予知学会を設立し、初めての学術講演会を開くまでに至った。

――事業化した背景は…。


早川 国が地震予知を認めない限り、国の支援は期待できない。そのため、電離層の乱れを全国規模のネットワークにより地震予知するシステムの構築と地震予知学の更なる発展には、国民の皆様のご支援に頼るしかないと考えた。多くの人に精緻で、継続的な地震予知情報を送り、命を守るためにはそれなりの資金と設備が必要だ。そのため、我々は地震予測情報のスマホ配信や法人に対するBCP(事業継続)サービス提供などのために会社を設立したわけだ。更に、私たちが開発したVLF地震予知システムも、法人、自治体に提供したいと考えている。今後、東海、東南海、南海地域で大地震が起きると言われているなか、国が国民を守り、保証できないのであれば、自分の身は自分で守るという欧米式の保険の概念を徹底すべきだろう。我々が配信している地震予知情報を活用してもらい、自分自身で身を守り、家族や会社を守る人が増え、その結果として日本の国民の安全が図れれば良いと考えている。