参院選挙で消費税への民意仰げ

参院選挙で消費税への民意仰げ

嘉悦大学
教授
髙橋 洋一 氏


聞き手 編集局長 島田一

――4~6月期GDPがマイナスなるなど景気が再び悪化している…。


髙橋 景気が回復しない原因は消費増税と中国要因につきる。様々な理由が付けられているが、GDPの構成項目で下がっているのは消費と輸出の2つだ。消費は消費増税、輸出は中国経済がそれぞれ影を落としている。特に消費増税後はインフレ率の上昇もなくなった。消費増税は需要はく落につながるため、一般的に物価が上昇しにくくなるためだ。

――円安によるJカーブ効果も効いていない…。


髙橋 最近ではJカーブ効果を分析することに意味がなくなっている。以前は為替の決定に国際収支が反映されており、それに応じて輸出量が変わるため、Jカーブ効果の分析にも意味があった。プラザ合意以前は為替の決定に有力な金融理論がなく、唯一影響があったのは経常収支だった。ところが、90年代以降は金利の自由化も定着し、為替の決定がマネタリーアプローチ、つまり日本円の量とアメリカドルの量でほぼ決まるようになった。為替が動いても輸出量がすぐに変わらないというのも周知の事実だった。

――為替の変化は輸出量に影響していないのか…。


髙橋 国内に生産拠点を置かず、海外投資が進んでいるため関係がない。円安の効果は、海外拠点からの投資収益の増加に現れる。国内からの輸出量は変わらない。企業としては、海外拠点からの収益増加でも、国内拠点からの輸出増加でもどちらでも収入が増える点で同じことだ。為替の輸出効果を見る必要がなくなったのはこのためだ。

――国内景気はかなり落ち込んでいる…。


髙橋 国内景気は、消費税の逆効果と輸出だけ除けば実はそこそこ良い水準となっている。多くの指標があるが、景気を見るときに重要なのは雇用に関する指標だ。就業者数は堅調に推移している。雇用指標はやや遅行指数となるため、少し前の景気の状態がわかる。逆に言えば、今回GDPが下がった影響は半年くらいすると雇用に現れることになる。GDPが下がり、需給ギャップが少なくなれば半年先の雇用は鈍化する。雇用は、今は結構良い状態を保っているが、現在のGDPの落ち込みを見ると、先行きの見通しは不透明だ。

――今年10月に予定されていた消費増税の延期は正解だった…。


髙橋 今年10月の消費税率10%引き上げを延期し、これを争点に去年総選挙を実施したことは良い判断だった。3%の消費増税は、年間10兆円規模で増税することになるが、これを所得税の引き上げに置き換えて考えれば景気を冷やすのは明らかだ。消費増税という施策は、景気がかなり良くならなければやってはいけない。97年に3%から5%に引き上げた際は、ちょうどアジア通貨危機の最中にあり、消費増税により不況が続いた。アジア通貨危機は本来日本にほとんど影響しないと見られたが、影響を受けた。消費増税について将来の財政不安が解消されれば、国民がお金を使うというのは財務省の論理だが、実際には使われていないことは明白だ。また、日本新聞協会は新聞に軽減税率を適用するよう求めていることから、日本のマスコミも財務省による消費増税に賛成する論調だった。また、マスコミはこぞって去年の総選挙を批判したが、むしろ総選挙によって国民が増税の可否を決定できる民主的なイベントとなった。同様に、次の消費増税は17年4月に予定されているが、これは法律でそう定められているだけで、来年の参議院選挙で見送りを争点とし民主的な判断を国民に仰げばよい。

――景気悪化が続き、7~9月期GDPもマイナスとなる可能性も出ている…。


髙橋 2期連続してマイナスとなる可能性は十分にあり得る。消費増税の悪影響は、13年度と14年度の経済成長を比較すれば明白だ。増税さえなければ、13年度の経済成長はほぼ100点に近いと評価できる。これに加え、今年は中国経済も要因となる。中国の4~6月期GDPはプラス7%と発表されたが、実際は輸入が半期で15%減少したことを考えると、通常それに対応するGDPの伸びはマイナス3%程度だ。また、輸入額は相手輸出国があるため、ごまかしがきかない統計となる。実際のGDPがそれほど伸びていないとすると、対中国向け輸出が大きい日本、韓国、台湾などは影響をかなりうけるだろう。近い将来、爆買いもなくなり、インバウンド需要は期待できない。中国からの観光客を当て込んでいた企業は業況が苦しくなっていくだろう。

――政府が取るべき経済政策は…。


髙橋 最も良いのは減税や給付金だ。特に、年収300万円以下の層は納税額も少ないことから、給付金の方が恩恵を得やすい。妙策を考える必要はなく、国民にお金が直接回るようにして、使い道は個々で決めるのが良い。給付時にはプレミアムなどを付けずに、普通に商品券を配布するだけでよい。今年度、政府は増税により10兆円規模の収入を得たうえ、外為特会の外債運用でも円安で巨額の利益を得ている。これにより政府が利益を得て貯め込んでいるが、はっきり言って政府が儲ける必要などない。特に増税は、無駄な予算を膨張させることにもつながる。予算は見込み税収を元に作成するため、増税ではなく、自然と税収が増えれば無駄遣いも防止することができる。増税をしなければ景気も良くなり、税収も増えることになる。

――金融政策はどうか…。


髙橋 もう一度、追加緩和を行う必要があるだろう。そこにおいては引き続き、日銀が国債を購入することが悪いとは思わない。市場の流動性がなくなるとの批判もあるが、最も優先すべきは日本経済であり、市場の論理は日本経済のごく一部だ。マネタリーベースさえ増えれば、後から資金需要は出てくる。目先だけ見ているとわからないが、景気が良くなってくれば、設備投資は増えていく。最初は内部資金で補うことができるが、徐々に外部資金を調達するようになる。外部資金に対する需要が出てくれば、金利が上昇する。経済が改善しなければ、金融市場にも改善は見られない。緩和の弊害はインフレ率が高くなることだが、インフレ率が高くならない限りは緩和を続けてよい。物価上昇により消費を控える動きを懸念する声もあるが、今は物価は全く上がってない。インフレ率が3~4%程度になれば当然緩和もやめた方が良いが、現状はゼロに近いままだ。

――物価目標2%の達成は不可能か…。


髙橋 金融政策の目標は「国民経済の健全な発展」とあるが、最も重視すべき指標は失業率だ。物価と失業率は逆相関の関係にあり、物価が上がれば失業率が下がることから物価に着目しているだけで、物価目標のみに焦点をあてるのは経済をかなり狭い視点で見ていると言える。失業率が高く、物価が低い状態であれば確かに問題だが、失業率が下がっていて物価も低いならば全く問題がない。

――実質賃金の伸びは見られていない…。


髙橋 人手不足が進行しないと賃金はなかなかあがらない。実質賃金のみに着目した報道が多く見られるが、賃金は雇用の関係で決まるのが基本だ。アルバイトを正規雇用にして給与を上げてでも必要だと経営者が思うぐらいになれば賃金は上昇するが、失業者は低い賃金でも職につくため、失業者がある程度いるうちは賃金自体の水準が少し低下する。全業種の求人で有効求人倍率が1.0倍を超えれば賃金の上昇も見られるだろう。足元では業種によっては既に有効求人倍率の上昇が見られており、人手不足は徐々に進んでいる。このため、その先には個人消費が増加してCPIが上昇するという好循環も期待できると見ている。