世界の非常識が日本の常識に

世界の非常識が日本の常識に

SBIホールディングス
代表取締役社長
北尾 吉孝 氏


聞き手 編集局長 島田一

――日本証券業協会のインターネット証券評議会の議長に就任された…。


北尾 1974年に野村證券に入社してから今日まで40年余り、これまでは自分の仕事を通じて証券界の発展に尽くしてきたが、証券界のためにも投資家のためにも、自分の会社を離れて申すべきことを申した方が良いと思い、議長に手を挙げた。日本は個人金融資産の50%超が預貯金に偏っており、先進国の中では極めて異常な状況が続いている。私自身、インターネット証券を起業し、若者達がEコマースで商品を買うかのように株式の売買を行う現象が新たに生まれたことには手応えを感じているが、保守的と言われる欧州諸国でも個人金融資産の2~3割を株式投資が占めていることを勘案すると、まだ開きが大きすぎる。日本でも各人が老後に備えて資産形成に取り組まなければいけない時代を迎えているなか、この状況を変えようと様々な形で啓蒙活動に取り組んでいるが、なかなか実を結ばない。

――間接金融中心から直接金融への移行が進まない背景は…。


北尾 間接金融への偏重が続いている理由の1つとしては、配当の二重課税の問題が挙げられる。古くから指摘されている問題ではあるが、いかなる理由でいつまで二重課税を続けるのか全く不明瞭だ。また税制面では、金融所得の損益通算について、2016年からようやく債券や公社債投信が範囲に加えられる予定だが、未だにデリバティブや外貨預金が対象外とされていることはおかしい。デリバティブ取引がこれだけ盛んに行われているのだから、当然損益通算の範囲に加えられるべきだろう。また、この金融所得一体課税の見直しについてはインターネット証券評議会においても提唱しており、インターネットで個人投資家から賛成票を集めることも提案している。相手が国会であれ金融庁であれ、正しいと思うことは歯に衣着せず発信していきたい。

――税制以外の問題点は…。


北尾 市場の制度整備が欧米と比べて遅すぎる。一例を挙げれば、SBIグループのSBIジャパンネクスト証券では株式の私設取引システム(PTS)を運営しているが、当局は未だに信用取引を認めていないほか、取引量が対国内全取引所の全売買代金の10%を越えてはいけないという規制を課している。先般ニューヨーク取引所がシステム障害でダウンした際、代替機能を果たしたのはPTSだ。日本でも万が一東証の取引がストップした時にPTSが代替機能を果たせるように規制の整備を行っておくべきだが、こうした問題に全く対応していない。世界的にPTSでの信用取引が当然のこととして認められているにも関わらず、日本でこれを禁止していることは合理的な理由を欠いている。

――日本はルールに合理性を欠いていると…。


北尾 今回の日本郵政の上場についても、東証はこれまで親子上場を廃止するとの方針を示しておきながら、なぜ今回はグループ3社の同時上場を認めるのか納得できない。また、どういう根拠で主幹事を選択したのかも全く不透明で筋が通っていない。そもそも財務省が主幹事を決めること自体が問題であり、本来は発行体である日本郵政自らが決めるべきだろう。国立競技場の建設費の問題も同様で、制度のあり方や決定過程の透明性をより高めなければいけない。

――国内のルールが世界のルールとカイ離している…。


北尾 日本の常識は世界とかけ離れており、むしろ世界の非常識が日本の常識になってしまっている部分が多い。こうした部分を直していかないと、日本は世界からの尊敬を集めるような国にはならないし、相手にされなくなってしまう 米国は様々な民族が集まって国家を形成しただけあり、価値観の1つとしてフェアであること、つまり公正公平であることを非常に重視しているが、日本はこれが欠如している。東芝の問題を例に挙げれば、ライブドア事件の時は経営者の逮捕にまで至ったが、東芝のケースではマスメディアは粉飾決算とも呼ばず、「不適切会計」とおかしな表現を使っている。東芝の場合は粉飾した金額が極めて大きいことに加え、会計を偽っていた期間にエクイティを含めた多額のファイナンスを行っており、これは犯罪的な行為だ。東芝の決算にOKを出した監査法人を含め、誰がどのように責任を取るのか明確で公正公平な処分が行われないと、日本は世界からの信頼を失ってしまうだろう。

――日本が世界標準に追いつくためには…。


北尾 米国ではゴールドマン・サックスのCEOが財務長官に就任したが、日本でも実業界からマーケットを熟知した人材を登用し、グローバルの中で常識的と思われるレベルに早く到達しなければならない。また、官庁にも優秀な人間は多いのだから、より早くから民間に出てもらえばいい。もはやキャリア官僚だけが行政を独占する時代ではなく、民間との交流を活性化するべきだ。

――今後、インターネット証券評議会の議長として注力される点は…。


北尾 インターネット証券のみならず、証券業界全体で膨大なシステムコストがかかっているため、システムコスト削減に向け業界としてもっと緊密に連携を取っていきたい。例えば今後、マイナンバーへの対応でもシステムコストが発生する。証券各社でシステムを共通化できるところは共通化し、システムコストを減らすという行動は当然あるべきだと考えている。さらに言えば、システムのプログラミング言語ではCOBOLがずっと使用されているが、新技術の発達に伴いCOBOLのエンジニアは世界的に減ってきている。インターネットの進化に伴い、証券界としても時代の最先端の技術を積極的に取り込むようにならなければいけない。