中国経済はほぼ断末魔

中国経済はほぼ断末魔

拓殖大学
客員教授
石 平 氏


聞き手 編集局長 島田一

――中国経済をどう見るか…。


 私は大不況の真っ最中だと考えている。中国政府は今年上半期の成長率を7%と発表したが、これはどう考えても嘘だ。例えば、李克強首相がかつて信頼できる指標として挙げた電力消費量、鉄道輸送両量、銀行融資、いわゆる「李克強指数」を見ると、電気消費量こそ伸びているものの、伸び率が1%台に止まり、鉄道輸送量は前年比で約10%減となっている。相手があるために嘘をつけない貿易統計を見ても、上半期の輸入は前年比で10%ほど減少している。中国の輸入は生産財が主体であることから、輸入の落ち込みは、中国の生産活動が縮小していることを示唆している。他の指標、例えば、これまで急成長で中国経済を支えてきた自動車販売をみても、すでに8月分までで5カ月連続で前年の実績を下回っている。数多くの部品を必要とする自動車の販売は多くの産業に影響を与えるだけに、販売減速のインパクトは大きい。その他の商品も、例えばビールの今年上半期の消費量は20年ぶりにマイナスになったし、スマートフォンの販売も減少している。これらを踏まえると、中国の本当の成長率は精々0%近傍といったところだろう。

――なぜこれほど不調なのか…。


 一つの要因は富の集中だろう。消費の増加により生産が盛んになり、生産が追いつかないことで設備投資が行われ、それによって所得が増加し、一層消費が増加する、というのが望ましい経済成長の循環だが、中国では所得分配が十分に行われないため、消費が中々伸びない。日本のGDPに占める個人消費は6割ほどだが、中国は3割ほど。10年前の中国の割合が約5割であることを踏まえると、消費の伸び悩みは顕著だ。富を独占している富裕層は国内で消費せず、海外で消費していることも、消費の不調に繋がっている。それでもこれまで中国が成長できたのは、国民の消費する分の代わりに政府が道路や不動産開発に投資してきたからだが、そのために中国経済はあまりにも投資に依存する形になってしまった。しかし、需要なしにいくら投資を行っても歪みが大きくなるだけだ。今までは内需の不足を外需で満たしていたが、輸出も足元で減少を続けている。これまで中国は安いものを製造し、海外で販売することで外貨を稼いできたが、中国国内の人件費が上昇してきたことで、他の低賃金国との競争に敗れ、このモデルは崩れてしまった。これまで輸出に並ぶ経済の柱だった不動産開発も不振が続いている。統計をみても、不動産への投資は20カ月連続で減少している。これは不動産が売れず、在庫が増加していることが原因だ。

――金融緩和への期待感もある…。


 足元で豚肉価格が急速に上昇していることから、一層の金融緩和の余地はさほど大きくないだろう。そもそも、中国はこれまで紙幣を発行しすぎており、それがインフレに繋がり、中国の人件費増加・輸出競争力の低下の原因になってきた。もし更に緩和するようなことがあれば、一層中国の輸出競争力が低下し、自分で自分の首を絞めるようなことになるだろう。最悪の場合、低成長率・高インフレ率のスタグフレーションに陥る可能性すらでてくる。もし本当にそうなれば、中国経済はいよいよおしまいだ。

――習近平政権に残された手は…。


 ほぼないといっていいだろう。恐らく株価上昇が最後の希望だったのだろうが、それもほぼ失敗に終わった。昨年の秋からの株価暴騰は凄まじかったが、所詮官製バブルであり、経済の下支えがなかったことがここ最近の暴落の原因だ。ただ、暴落自体よりも、政府が株価を支えきれなかった事実の方が重要かもしれない。これまで、中国には「政府が動けば経済はどうにでもなる」という神話があり、日本人もかなりそれを信じていたが、今回の騒動で神話は崩壊した。これからは「政府がいくら頑張ってもどうにもならない」という認識が強まり、それは一層中国経済への不安に繋がってくるだろう。その不安感は、最近各方面で始まった人員削減や給与カットとともに、一層の消費の手控え、そして景気減速を生み出す。国有銀行でさえ賃金を半分カットする動きが見られており、今後中国は日本のバブル崩壊にも似たショックに見舞われることだろう。依然残っているシャドーバンキングや地方政府の債務問題もあることから、ショックは日本以上のスケールになってもおかしくない。日本の場合、バブルが崩壊しても国際的競争力のある自動車産業などは健在だったが、中国にはそうした産業もないため、復興にはかなりの時間を要する見込みだ。貧困層の生活が一層苦しくなるため、暴動が多発し、国内企業も外資系企業も投資を躊躇う展開も予想される。このように中国経済の火種は多く、一度破綻するとどこまで落ちるか分からない。

――日系企業への被害も甚大となる…。


 既に現時点で日系自動車メーカーは苦境に陥っているだろう。販売台数が減少しているだけでなく、価格競争が始まっているとみられ、今後利益はますます縮小してくる。中国で製造し、海外向けに販売するというシナリオも、中国の高い人件費を考えると難しい。かといって、中国から撤退するのも簡単ではなく、大変な労力・エネルギーが必要で、実質的に逃げられない企業もあるだろう。もちろん、中国に輸出している企業も苦しくなる見込みで、特に建設関係の機材を輸出している企業は中国経済減速の影響を正面から受けることになる。中国では不動産開発が停滞しており、そうなれば当然建設機械は不要になるからだ。

――経済減速が本格化した時、日中関係はどうなるのか…。


 恐らく、経済が駄目になればなるほど、中国は日本に擦り寄るだろう。日本には中国が必要とする資本や技術があり、経済が切羽詰れば、日本との関係改善に意欲を示してくるはずだ。話題のアジアインフラ開発銀行も、結局日本の協力なしで運営は不可能であり、その部分でも協力を求めてくる可能性が高い。ただ、中国側が友好ムードをかもし出し始めても、領土・歴史問題がなくなるわけではなく、日本にも他人事ではない南シナ海への進出も止まらない。日本はそのことを踏まえて、中国と付き合う必要がある。これは私の持論だが、歴史的にみて、日本は中国に深入りすると大抵ろくなことがない。70年前の大戦では、日本は大陸に深入りしたばかりに、米国と対立し、亡国への道を歩んだ。今の時代、中国と全く付き合わないわけにもいかないが、距離をおいて、ほどほどの関係を維持した方がいい。企業も同じで、中国とビジネスを行うのはいいが、社運を賭けるのは止めておくべきだ。将来どうなるか分からない国に、希望を託してはいけない。もしビジネスをするにしても、中国事業が破綻しても会社存続に支障がない程度の関係性に止めるのが無難だろう。