金融資本市場の強化に邁進

金融資本市場の強化に邁進

日本証券業協会
専務理事
岳野 万里夫 氏


聞き手 編集局長 島田一


――今年7月から新たに専務理事に就任したが課題は…。


岳野 日証協の当面の主要課題としては、中長期的な資産形成の推進、金融リテラシーの普及・推進、金融資本市場の機能・競争力の強化、グローバルな情報発信・連携の拡充などの課題がある。このうち、「中長期的な資産形成の推進」に関して申し上げると、家計における個人金融資産の半分を未だ預貯金が占め、株式や投資信託の割合がなかなか増えていない現状を鑑みれば、引き続き資産形成における投資の必要性について理解してもらうための取組みを積極的に行っていく必要があると考えている。そして「中長期的な資産形成」の器としては、NISAや来年から始まるジュニアNISA、確定拠出年金の普及定着が重要であると考えている。そのため、制度の恒久化や拡充は必須であり、日証協としても実現に向けて要望を行っているところである。

――今の株式市場はボラティリティが高く、安定的な資産形成の場となっていない…。


岳野 本年8月の株式市場の変動は、国内要因というよりは中国経済の景気減速をはじめとする海外要因に左右されており、変動が激しい印象となったかもしれない。株式市場が市場を取り巻く環境が変化したことを受けて動くのは、本来の機能を果たしていると言えるが、神経質な相場となっていたことは確かだ。日々の株価変動でさや取りをするような短期的取引より、中長期的な視点で投資をすることが中長期的な資産形成にとっては良いと考えられる。この点においても、NISAの制度上の課題として非課税期間が5年間であるのは望ましくない、本来は投資家が行う投資判断が他律的な要素で決まってしまうからである。

――個人の株式保有比率は依然として低い…。またHFTについても議論がある…。


岳野 確かに、14年度の東証の株式分布状況調査によると、個人の株式保有比率が17.3%と、ここ数年の中では低い比率であるが、一方で保有金額は昨年度に比べ増加している。また、個人株主の数という意味では、前年度比6.7万人増の延べ4582万人と増加していることや、その割合は全体の97%と安定していることから、証券保管振替機構のデータからも個人株主の数(実人員)は増えているという推測もできる。日銀の資金循環統計においては、家計の金融資産における株式保有残高の割合も少しずつ増えてきている。今後も、NISAなどを通じて投資家の裾野を拡大すべく、証券業界としても精力的に活動を続けていくことが大切だ。超高速取引によって個人と機関投資家の市場参加が平等ではないという指摘があるが、投資家目線の取るべき施策について考えていく必要があると考えている。日証協では、日本証券経済研究所と高速取引の影響について共同研究を行っている。

――金融リテラシーの普及・推進で取り組んでいることは…。


岳野 金融経済教育の拡充に向けた取組みとして、教育現場への講師派遣を拡充している。全国の小中学校の土曜学習に講師を派遣し、基礎的な証券投資の教育を行う取り組みだ。日証協職員を派遣するだけでなく、講師として登録している24社・60名程度の証券会社社員からも派遣に協力していただいている。小中学校向けの土曜学習では小中学生に興味を持ってもらえるよう参加型の教材を使って授業を行っている。一方、学習指導要領の改訂に向けた働きかけも行っている。学習指導要領の改訂は約10年ごとに行われており、18年ごろ新しい学習指導要領に基づく教科書が使われる予定である。金融経済教育の拡充を次期学習指導要領に取り入れてもらうべく、大学教授、中学・高校の教員を中心として構成した研究会を設置し、検討を行った。同研究会から本年9月、要望書を文部科学省に提出したが、引き続き関係方面への働きかけを行っていく。

――普及を進めるにあたり重要な点は…。


岳野 金融行政は現在、利用者保護を前面に掲げているが、最終的な目標としては自己責任原則に基づく金融取引の実現を目指すべきだと考えられる。このためには、情報の非対称性を解消するよう販売業者が十分な説明をすることが重要だが、説明の受け手となる個人投資家が金融リテラシーを持たなければ意味をなさない。金融リテラシーは、目指すべき金融システムの前提になると言える。海外では既に、サブプライムローン問題に端を発する金融危機の再発防止策として、金融・消費者教育が必要だという認識ができている。経済協力開発機構(OECD)では、15歳の生徒を対象とした学力到達度の調査(PISA)で、金融リテラシーという柱も加えることとされた。国内でも健全な金融取引が行われるようにするためには、個人が金融リテラシーを持つことが必要となる。

――金融資本市場の競争力強化への取り組みは…。


岳野 この議論は長年行われているが、東京国際金融センター構想をきっかけに、金融資本市場の競争力強化が再度重視されてきているタイミングであるのは確かだ。政府の金融・資本市場活性化有識者会合でも、東京市場をアジアでトップクラスの国際金融センターにするという提言を行っている。東京都も推進会議を設置しており、機運が高まっている。このようななか、日証協や証券取引所などの証券界や資産運用業界とが協力して昨年秋から「東京国際金融センターの推進に関する懇談会」を設置して検討し、9月に報告書をまとめた。報告書では、例えば国内社債市場の規模が小さいままであり、相対的に信用力が低い企業の起債がほとんどない点についても触れている。社債市場の活性化については、日証協としても社債の取引情報の公表をこの11月から行い、流通市場の透明性向上を進めているところだ。

――東京国際金融センター構想の課題は…。


岳野 課題は多岐にわたるが、最も重要なのは資産運用業の強化だ。業界横断的に検討を行うため、9月に投信協、顧問協、日証協を事務局として「資産運用等に関するワーキング・グループ」を設置し、議論を開始した。資産運用業強化に向けた環境の整備や、資産運用業者の運用力の向上、運用人材の育成、資産運用業者が顧客の信任に応えるよう負うべき責任であるフィデュ-シャリー・デューティーの実践、中長期的な資産形成に資する商品の提供などについて集中的に検討する。来年6月をメドに報告書を取りまとめる予定だ。また、ビジネス環境に関する検討も引き続き進める予定である。兜町の開発は国家戦略特区の候補にノミネートされているが、戦略特区という器を使うことができるようになれば、新しい施策の推進も可能となる。

――市場の機能強化に向けて重要なことは…。


岳野 企業が収益を得ることや、社員が報酬を得ることに比べ、活力ある市場を作り上げることはかなり難しい。最終的に市場の機能強化によって関係企業も社員もメリット(ビジネスの持続可能性、安定性や証券市場で働くことへの誇りや生き甲斐も含めて)を得られるということを、市場関係者に理解してもらうことが重要だ。例えば、日証協では株式等の決済期間の短縮(T+2化)に向けた取組みを進めている。これにより市場全体で決済リスクが削減されば、市場参加者全員の利益となるが、当面はコストがかかり必ずしも一企業や社員の短期的な収益や報酬増には直結しない。このため、市場関係者の理解と協力を得て方向性を一つにして取り組むことが必要となる。

――このほか、マイナンバーへの対応は…。


岳野 まずは、マイナンバーの導入に備え、番号の取扱いを安全に行うよう社内態勢を整備することが重要だ。証券会社は、ジュニアNISAなどマイナンバーを用いる点では金融業界のなかでも最先端に位置するため、適正に取り扱いができるよう日証協としても取り組んでいる。本年2月に個人情報やマイナンバーの情報管理態勢の実務的な検討を行うためのワーキング・グループを設置して、必要な協会規則の改正や社内規程モデル等の検討を行った。マイナンバーは税務にも直結するため、個人番号の告知の取り扱いについて、税務当局と相談したうえでその要領を会員証券会社に周知している。さらなるマイナンバーの利活用については、その後の話となるだろう。