アナリストの使命と役割拡大

アナリストの使命と役割拡大

日本証券アナリスト協会
専務理事
前原 康宏 氏


聞き手 編集局長 島田一

――証券アナリスト協会の現在の活動は…。


前原 日本証券アナリスト協会は1962年に設立され、今年で53年目を迎えた。協会としてはまず、これまでの取り組みをきちんと継続していくことを活動の基本に置いている。ただ、金融の専門知識は年々進化しているため、協会の所属会員に最新の知識が行き渡るようにし、プロとしてのクオリティを常に保つことが必要だ。また、会員の職業倫理を高めていくことも我々の大きな務めだ。金融・資本市場の発展にはマーケットに対する信頼が必要不可欠であり、プロとして顧客の信頼を得るためには、知識のみならずしっかりとした職業倫理を持つことは極めて重要だ。高い知識水準と職業倫理をキープすることを意識し、今後も金融のプロをしっかりと育成していきたい。

――最近の新たな取り組みは…。


前原 過去50年余り、企業の価値をきちんと評価できる人材を育てるということで証券アナリストの資格試験を運営してきたが、2013年からは企業価値の評価だけでなく、顧客目線で資産の管理・運用や相続、事業承継のアドバイスが出来るような人材を育てるため、新たにプライベートバンキングの資格を新設した。証券アナリストはホールセールのプロとして機関投資家向けに企業価値に関する情報を提供している一方、プライベートバンキングの資格はどちらかと言えばリテールの面で、資産の管理・運用のみならず中小企業の事業承継等についてアドバイスを送ることを目的としている。日本では貯蓄から投資へのシフトが話題となるなか、個人投資家の間では資産の管理・運用について客観的な意見を求めたいとのニーズが強まっており、プライベートバンキングの資格はこうした面でも世の中のお役に立てるのではないかと考えている。

――プライベートバンキングと競合する資格がある…。


前原 国内ではファイナンシャル・プランナー(FP)の資格と競合している部分もある。ただ、FPは一般の主婦なども取得可能で、個人がライフプランを考えるための資格であるのに対し、プライベートバンキングは金融のプロを主たる対象としており、専門知識と倫理観を組み合わせて責任あるアドバイスを行うという点で大きな違いがある。銀行や証券会社が自社の利益優先で顧客に対して売買のアドバイスをするようでは、長い目で見て日本の金融・資本市場は発展していかない。プライベートバンキングの資格保有者は資産の管理・運用、相続、事業承継等のプロとして顧客の立場に立ってアドバイスをすることにより、金融・資本市場の発展につながるし、結果的に自社の利益にも貢献することにもなろう。

――現在の会員数はどのくらいか…。


前原 日本証券アナリスト協会には2015年10月末現在で2万6,427人の検定会員がいる。会員の属性としては銀行・信託・信金・生損保の関係者と証券・投資運用・投資助言業の関係者が各4割程度を占め、このほか事業会社が2割程度となっている。単に銀行や証券だけでなく、事業会社を含めて幅広い層の方々がアナリスト試験に合格しプロとしての知識を使ってご活躍頂いている。一方、プライベートバンキングの資格は、初級が「プライベートバンキング・コーディネーター」、中級が「プライマリー・プライベートバンカー」、上級が「シニア・プライベートバンカー」と3つの段階があるが、資格保有者は現在のところ1,000人程度にとどまっている。ただ、合格者が少ない理由としては、十分な見識のある受験者しか合格できないよう、厳格に採点をしているということが挙げられる。特に上級の試験はこれまで合計36人しか合格していない。

――海外との連携については…。


前原 世界的には米国を拠点とするCFAというアナリスト資格を19万人が保有している。これに対し、我々は欧州・アジア、アフリカ、南米の各国とも連携し、CIIA(国際公認投資アナリスト)という資格の国際試験を運営している。このなかで我々は特に積極的に活動しており、現在は任期2年の会長国として、試験の品質維持や受験者の増加に取り組んでいる。世界では現在、約8,000人がCIIAの資格を保有しているが、このうち日本人が2,700人と全体の3分の1強を占めている。CFAの試験は英語のみ、しかも問題は米国の基準に沿ったものである。一方、我々の試験は母国語でも受験が可能で、かつ国際的なアナリストは、自国の事情をよく理解しているべきであるとの観点から国内試験に合格した者がCIIAを受験することができるようになっている。資格保有者の数という面ではCFAと比べて苦戦はしているが、CIIAの資格をメジャーなものにしていくことが我々にとって重要な使命だ。また、アジア地域では日本のほか中国、韓国、台湾など9カ国がASIFという団体を作り、互いに協力する体制を構築している。

――今後の課題は…。


前原 日本で少子高齢化が進むなか、証券アナリストの資格保有者の間でも退職に伴い資格を返還する人が増えてきている。現在の検定会員の数は約2万6,000人だが、毎年約1,000人が新たに資格を取得する傍ら約5~600人が協会を退会しており、純増幅は結局、毎年約4~500人程度にとどまっている。このため、我々としては大学生をはじめ若年層の会員を増やすよう取り組んでいきたい。また、検定会員のうち女性の割合は7%程度にとどまっており、女性の会員数を増やしていくことも必要だと考えている。社会が成熟化し高齢化してきた現在、多様な消費者のニーズに対応する新たな視点が必要になってきており、女性だから気づくニーズ・生活様式が新たな商品・サービスを創造し、企業の成長力増進に資すると思われる。そうした観点から、女性アナリストの感性と思考・対応力がこれまで以上に求められてくると考えている。

――社会貢献の役割が増している…。


前原 日本版スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードが導入され、貯蓄から投資へのシフトや企業との対話が重要な課題として認識されるようになるなか、証券アナリストの果たす役割は拡大してきていると思っている。例えば、日本版スチュワードシップ・コードは投資家と企業との対話を促しているが、証券アナリストは企業と投資家の双方に対して従来よりも複合的なアドバイスができるように進化していかねばならない。また、企業の情報開示の面でも、情報の利用者として意見や問題点を関係当局に対して発信している。さらに、取り組みが進められている東京国際金融センター構想の実現に向けても、人材の育成は重要になるだろう。我々も時代の変化に対応しつつ、プロフェッショナルな人材の育成という面で公益財団法人として社会に貢献していきたいと考えている。