消費増税凍結が最大の経済対策

消費増税凍結が最大の経済対策

衆議院議員
馬淵 澄夫 氏


聞き手 編集局長 島田一

――アベノミクスには多くの誤算が生じてきている…。


馬淵 私は現内閣官房参与の浜田宏一先生にも師事するリフレ派であり、民主党が与党だった2011年8月の代表選に出馬した際にも、大胆な金融緩和によるデフレからの脱却を訴えた。アベノミクスの第1の矢である金融緩和は私がまさに主張していた政策であり、方向性は正しいと評価している。その後、第2の矢の財政政策と第3の矢の成長戦略が中途半端であったことで成長の動きが止まっていることが問題である。特に2014年の消費税率8%への引き上げは景気回復の大きな足止めになった。やはりデフレから脱却できていない状況での増税は中止すべきだった。消費税創設や5%への増税の際には同時に所得税・法人税等の減税措置を行ったので影響をある程度抑えることが出来たが、今回の3%引き上げは純増税であり、個人消費が落ち込み、景気が冷えるのは当たり前だ。原油安の恩恵により何とかダメージを食い止めてはいるが、消費税率を引き上げて以降の日本経済は2014年度の実質GDPがマイナスに陥るなど、実に惨憺たる状況となっている。

――アベノミクスの対案となり得る具体的な経済政策は…。


馬淵 やはり消費税率引き上げの凍結しかないと考えている。消費増税は民主党が決めたことの声もあるが、社会保障と税の一体改革の際、私はリフレ派の一員として当時の野田首相に対しても消費増税慎重論を唱え、引き上げ時期の半年間延期と景気弾力条項を押し込んだ。しかしながら、安倍首相は2014年の解散総選挙の際に10%への増税先送りを決めると同時に、財務省との交渉で景気弾力条項を削除し、消費税率が自動的に上がる仕組みを作ってしまった。つまり、安倍政権は景気に対する政治判断を放棄したというに等しい。景気条項を法案の附則に残す民主・自民・公明3党合意の内容を無視して自動的に増税をしようとする安倍政権に対抗して、消費税率引き上げの凍結こそが最大の経済対策であると今こそ主張すべきだ。

――消費増税の凍結以外の手立てはあるか…。


馬淵 現在の金融緩和を引き続き継続していくことも有効な手段だと考えている。長期国債の買い入れは確実な効果を示しており、今後はさらに長い年限の国債を買いますべきだ。日銀は長期国債買い入れの平均残存期間を6.5年程度としているが、例えば残存期間10年超の超長期債のみを買い入れるなどの制限を加えることで、さらにポートフォリオリバランス効果が期待できる。また、現在は日銀当座預金の超過準備部分に0.1%の金利が付いているが、この付利金利の存在が銀行の貸し出し意欲を削いでおり、廃止すべきだ。

――一方、安倍内閣が推し進める安全保障政策に対する具体策は…。


馬淵 我々は安全保障関連法案に対して必ずしも反対一辺倒ではなく、対案路線を打ち出してきた。実際に国会に対して領域警備法案を提出したほか、PKO法や周辺事態法についても改正案の国会提出に向けた準備を進めていた。安倍政権の進める安全保障に対しては、集団的自衛権の行使を一部容認せずともほとんどが個別的自衛権で対応可能であり、グレーゾーンと言われる部分については領域警備法を整備すべきだと提言している。安倍政権は「重要影響事態」という概念を設け周辺事態の地理的概念を無くしたが、これはやり過ぎであり、地理的概念はしっかり残したうえで東アジア周辺地域の脅威に対応できるような周辺事態法を整備すべきだ。また、PKOにおいては、他国軍や民間人が危険にさらされた場合の駆けつけ警護については認めるが、治安維持に関しては認めるべきではない。治安維持までが活動範囲に含まれると、暴徒の鎮圧などから戦争の引き金になる可能性があるからである。そして、こうした個別法の上位法として、我が国の防衛の基本的考えを示す安全保障基本法が必要になると考えている。

――北朝鮮が水爆実験を行ったが、近隣諸国の脅威にはどう対処すべきか…。


馬淵 領域警備につき海上保安庁と海上自衛隊の連携による領域警備を可能にするための法律について準備を進めている。さらに、洋上などからのミサイル攻撃が行われる可能性が高まっているため、ミサイル防衛に対処する法案も必要になる。上記のような法案がきちんと整備され、基本法によってキャップをはめることができれば、現時点で憲法改正にまで踏み込む必要はないと考えている。本当に憲法を改正して安倍首相が述べているようなことを行おうとすると、日本は「軍隊」を持ち、米軍の指揮下で世界中に派兵することが可能になることを指向していくことにつながりかねない。現在の日本において、その軍隊の是非について国民的議論の熟度が高まっているとは、とうてい思えない。

――民主党は日米関係を軽視しているとの見方もあるが…。


馬淵 決してそのようなことはなく、元国務省日本担当部長のラスト・デミング氏も、日米関係は鳩山内閣の頃に一時悪化しかけたが、その後の菅内閣と野田内閣ではより強固になったと述懐している。鳩山元首相の「最低でも県外」発言により米国側は約束が反故にされたとの感情を抱いたかもしれないが、決して民主党政権そのものが米国に敵対した訳ではない。東西冷戦は終わったが、我々の同盟国は米国であることには何ら変わりなく、基軸である日米同盟を深化させていくのは当然のことだ。

――慰安婦問題を巡る日韓合意については…。


馬淵 今回の合意により、慰安婦問題は「不可逆的に最終的に解決」と言ってはいるが、朴槿恵氏が大統領を降りた後に合意内容が反故にされる可能性も否めず、最終的な解決になるかは不透明だ。安倍首相は日中関係や日韓関係を改善した立役者のように振る舞っているが、もともと関係を壊したのは安倍首相自身ではないか。自ら悪化させた関係を元に戻したと主張しているだけであり、まさしくマッチポンプだ。

――自民党に代わって政権が担える健全野党の誕生への待望論は強い…。


馬淵 2014年の衆院選の際、私は地元で野党結集の先頭に立つという公約を掲げた。その後も野党結集を目指して水面下で動いてきたが、首相官邸の後押しにより大阪維新の会が分裂したため、野党結集は難しい状況になってしまった。現在の維新の党には元々民主党を離党した議員が多く、仮に合流したとしてもさほどのインパクトはない。また、自民党内のリベラル派についても、政権を担っている限り分裂の可能性は極めて低い。まだまだ、野党結集は難しい局面にあると言わざるを得ない。

――今夏には参議院議員選挙が行われるが…。


馬淵 主要閣僚である甘利大臣が疑惑で辞任し、情勢は流動的だが、私は参院選の前に衆院選が行われることもあり得ると予想している。時期としては来年度の予算と予算関連法の成立後を見込んでおり、早ければ3月にも衆院が解散されるかもしれない。仮に3月5日に解散した場合は4月24日に衆院選を行うことが可能であり、予定されていた北海道5区の補選が総選挙に置き換わることにもなる。解散が行われると考える理由の1つは、国会でTPPに関する特別委員会が4月に設立される可能性があるためだ。我が国農業にとって不利な内容を含むTPPの合意内容について野党から攻められれば、自民党は参院選で地方の1人区の勝敗を左右する農業票を失いかねない。よって、TPPの中身を穿られる前に衆院選を解散してしまおうという判断を下す蓋然性は高い。

――衆院選を解散する大義名分は…。


馬淵 一票の格差については最高裁判所から連続3回も違憲状態の判決が出されており、現在の区割りのままでは選挙は行えないだろう。そこで、私は政治改革の実現を解散の理由にすると見ている。衆院議長の諮問機関である「衆院選挙制度に関する調査会」は、小選挙区7増13減・比例代表1増5減による議員定数10減により、一票の格差を2.13から1.62とするとの答申を出したが、小選挙区で減少するのはいずれも自民党の議席であり、まず自民党内の議論は調査会の答申通りにはまとまるまい。現に、自民党の細田幹事長代行も、最新の国勢調査の結果が出るまでは、議論を先送りにすることを示唆している。このため、一票の格差1.62倍という数字にすりあわせるべく比例を削減、大都市の増区などを組み合わせたお茶を濁すような妙な形の与党案が出てくる可能性がある。今後、2月中旬までに「調査会の案は飲めないが、憲法の要請に応える」という形で与党が新たな提案を出すような状況が起きれば、それこそが解散のシグナルだと見ている。野党結集が難しい状況下で厳しい戦いにはなるだろうが、民主党の1丁目1番地である子育て支援と年金改革、同一労働同一賃金の実現など労働環境の整備を旗印に掲げ、経済成長に資する再分配政策を訴えていきたい。