PEファンドは従来の邦銀

PEファンドは従来の邦銀

ペルミラ・アドバイザーズ
マネージング・ディレクター
藤井 良太郎 氏


聞き手 編集局長 島田一

――プライベート・エクイティ(PE)ファンドが存在感を増してきた…。


藤井 1976年に創立されたコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)がPEファンドの草分けで、ペルミラが設立されたのは1985年。当社は世界の市場で急成長している。アメリカ系のPEファンドが多い中、当社は、欧州発という特徴を持っており、元々イギリスのマーチャントバンクであるシュローダーの投資部門が独立して誕生した。世界各地に進出する中、日本には2005年に進出しており、既に10年以上の実積を有している。

――日本で妙味のある投資対象はあるのか…。


藤井 「ほぼ経済が成熟化した日本で有望な投資先は乏しいのでは」とよく聞かれるが、日本には、非常に多くの魅力的な企業があると考えている。PE投資というビジネスは、会社が合理的に経営されていれば必要ないのかもしれないが、現在の日本企業は本来のポテンシャルを発揮しきれていないケースが多い。そうした波に乗り切れていない会社に投資を行い、波に乗せることが当社の仕事だ。一般的にいって、日本企業はものづくりについては文句のつけようがない。しかしながらそれを海外に展開したり、あるいはM&Aを行って更なる発展を目指したりすることは得意ではない。そうした状況に対し、投資を行い、例えば能力の高い経営者を連れてくることで、企業が持つポテンシャルを更に発揮できるように調整するのが我々の使命だ。

――実例は…。


藤井 例えばペルミラが投資したアリスタライフサイエンスは、元トーメンとニチメンの農業化学品事業を統合させた会社で、商社の子会社ということで世界中に販路を持っていたが、中核市場は農薬ニーズが限定的な日本で、潜在力を十分には発揮できていなかった。そこで2008年にペルミラが投資した後、本社を海外に移転し、販売先をブラジルやインド、オーストラリアといった巨大農業国にシフトさせ、大規模なM&Aを各国で実施し、2015年までの支援期間中に2桁の増益率を実現した。また、KKRが2014年に80%出資したパナソニックヘルスケアは、かつてパナソニックの100%子会社で松下寿電子工業という名前で、四国にある同社は糖尿病向けの血糖値測定センサーなどを製造していたが、製造にあたっては大幅な無人化に成功するなど、非常に先進的で、専門分野での生産性は世界一といってもいいレベルだった。一方、成長分野に十分な投資がなされておらず、ヘルスケアにおけるグローバルな知見という意味では足りないところがあったのを、KKRが株主になってから成長軌道に乗るようになり、2015年にバイエルの血糖値診断事業を買収して、グローバル企業に成長させている。このような実例が積み重なってくれば、PEが成長を助けることができるというイメージが日本企業の経営者にも伝わってくると期待している。

――投資先の目標件数や金額は…。


藤井 当社の投資は、投資する側と、投資される側のニーズが合致した上で、お互いの合意の上で成り立つ、いわば縁によるものだ。そのためマーケットで株式を勝手に購入するようにはいかず、具体的な目標や予算は敢えて定めていない。当社が成長を手伝うことが可能で、投資先の経営陣が当社と一緒に成長することを望んでいなければ投資は成功せず、このような機会はそう頻繁にあるものではない。やはり、創業者や経営者にとっては自分の会社や子会社、部門は可愛い我が子のようなものであり、それを売却するのはまさに身を切るようなものだ。それを説得するためには、顔と顔を合わせ、当社がなんのために投資し、どのように会社を成長させていけるかをとことん説明しなければならない。商社も類似した活動は行っており、彼らと当社がどう違うのかも話さなければならない。その結果、1年で1社も投資先が見つからないこともあるが、当社はそれでいいと思っている。

――貴社の得意分野は…。


藤井 当社の投資グループは5つの専門分野に分かれており、それぞれ小売・消費財、テクノロジー、産業サービス、金融サービス、ヘルスケアを専門としている。これらの分野に力を入れているのは、これらが今後の成長産業だと考えているためだ。例えば、ヘルスケアについては、今後世界的に少子高齢化が進展する中、確実な需要が増加すると認識している。小売・消費財に含まれる食品についても、今後世界的に中産階級が増える中、食事が人間の最も重要な行為で、根本的なレジャーであることから着実に成長すると見ており、イスラエルの灌漑事業や北欧の魚類ワクチンの会社から、日本の回転寿司チェーンまで幅広く投資を行っている。我々は今後、中産階級の伸びが食品供給の伸びを上回り、食品が足りなくなると予想しており、それに備えて食品の原材料から配送まで、グローバルなサプライチェーン構築に強い関心を持っている。

――日本ではどのような業態に関心があるのか…。


藤井 やはり日本でも当社は成長産業に関心を持っている。世の中には斜陽産業に投資するファンドも多いが、そうしたスタンスは当社が目指す方針とは異なる。例えば現在、競技人口が減りつつあるゴルフ場をソーラーパークに転用する動きがみられるが、当社はそうした投資は結局、労働者を含めたステークホルダー全ての幸せに繋がらないとみている。もちろん投資家としてリターンを出すことは必要だが、当社が望むのは全体のパイそのものを拡大することだ。例えばテクノロジー関連では、当社はビッグデータの取り扱いで世界一位のインフォーマティカという会社に投資しているが、この会社はこれまで存在しえなかった全く新しいサービス誕生に貢献している。このように、世界をポシティブに変えるインパクトがある企業に投資し、成長のお手伝いをすることが本懐だ。日本では、最大の回転寿司運営企業のあきんどスシローに投資しているが、寿司はアニメと並んで世界で通用する日本発のコンテンツだ。当社としては、国内でパイを奪い合うのではなく、グローバル舞台に進出していきたいと考えている。

――成長を重視する投資スタンスは少ない…。


藤井 確かに他のPEファンドで成長にフォーカスしている事例は少ないだろう。これは、短期的に利益を出すためなら、人員削減といったコストカットを行う方が容易だからだ。確かに、日本企業の場合は例えば購買の最適化や不要部門のスリム化などによってコストカットが行える余地が大きい会社は多いが、当社はそれより投資先の成長可能性を重視する立場をとっている。また、当社は欧州系のPEファンドであることから、ヨーロッパ系の人々の特徴である文化多元主義を重視しているように思える。アメリカ人は理屈で物事を進める傾向が強いが、例えばイタリア人と話すと、理屈と現実にギャップがあることは当然と、日本人に近い価値観を感じることがある。投資についても非常に長期的視野を持っている。

――日本PE協会の監事をされている…。


藤井 PE業界の発展にも寄与したいとの考えから務めさせて頂いているが、当社に限らず、PEファンド業界全体に対して、広く誤解があるように思われる。いわゆるハゲタカファンドと何が違うのかと問われることが未だにあるが、我々と彼らは全く異なるビジネスだ。我々は機会主義的に危機に陥った企業の資産を買い叩くわけではなく、インサイダー取引のようなグレーな取引とも全く無縁だ。むしろ、PEファンドの役割はかつての日本のメインバンクを代行するものと考えている。かつて銀行は、単純な債務とはいえない長期資金を企業に投入し、企業と長く寄り添ってきたが、PEファンドも同じように、企業とともに成長を目指していきたいと願っている。残念ながらそうしたPEファンドの役割が十分に認知されているとは言い難いが、いずれそのことを広くご理解頂き、PEファンドの活用を検討して頂ける方々が増えることが私の夢だ。