16年も着実な成長実現へ

16年も着実な成長実現へ

アセアン経済で記者座談会


――2015年のアセアン経済はどうだったか…。


 悪くはないが、依然ほどの強さもなかった印象だ。2015年の成長率はインドネシアが前年比4.79%(2014年5.02%)、フィリピンが 同5.8%(同6.1%)、シンガポールが同2.1%(同2.9%)など、全体的に減速した。ただ、懸念されていた米国の利上げはさほど影響はなかった。イエレン米連邦準備制度理事会議長が慎重に時間をかけて、マーケットと対話をしながら利上げを行ったためだろう。

 日本企業のグローバル展開の視点からすると、「米国経済」と「中国経済」、「原油価格」がまず気になるテーマというが、アセアン経済はそのいずれの要素にも大きく依存している。米国経済を除いて、15年はまさにその影響が色濃く出た。各国では内需が育ちつつあるとはいえ、依然として外的な要因の影響の強さを感じた。

 確かに外的な要因が各国の経済成長に悪影響を与えたが、景気が鈍化したことが契機となりタイやインドネシアでは外資規制緩和を含む景気刺激策を実施することができたとも言える。特にタイは軍政長期化で経済が滞りを見せていただけに政策の効果は大きいと見ている。今後は、政策を積極的に実行した国がいち早く景気回復に向かうと予想している。

――今後の成長国は…。


 主要国ではフィリピンとベトナムだろう。フィリピンについては、圧倒的に人口構成が若い上、給与が急ピッチで増加していることから、購買力も強まる一方だ。また、英語人材も豊富であることから、今やインドを追い抜き、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の中心的拠点となっている。コールセンターやソフトウェア開発などの総称であるBPO産業はフィリピンでも最も成長性が高く、今や長年の最大の外貨収入源だった海外労働者による送金を上回る勢いだ。2004年には10万人程度だったBPO産業の総労働者数は、2015年には110万人程度に達したとみられる。高い電気料金から製造業の進展が遅れているのは事実で、大統領選の不透明性もあるが、フィリピン経済の見通しは基本的には楽観的に見ていいだろう。

 そんなフィリピンより成長率が高いベトナムの注目点は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に参加しており、参加国の中で最も利益を享受するとみられる点だ。日本企業にとっても、生産・輸出拠点としての魅力が高まっている。TPPを利用した輸出加速をにらんで、すでに繊維・縫製産業では香港や台湾などから投資の波が起きつつあるようだ。また、TPPにより貿易や産業構造が大きく変わる可能性を秘めている。TPPでは原産地条件(関税撤廃を受けるために、商品が対象国の原材料で作られなければならないルール)を満たすことが求められることから、現状で中国依存の強い工業部品や素材の調達を、国内あるいはTPP加盟国にシフトしていかなければならない。ここに日本企業の商機もうまれ、素材や部品メーカーが事業拡大したり生産体制を見直す際には、ベトナムは有力な候補になりえる。北米を中心としたTPP参加国への輸出では、生産拠点の再検討が必要だ。日本の各業界も、これらの検討に既に着手しているとされる。

 インドネシアの成長率は5年連続で減速し、2015年は5%増を割り込んだものの、先行きについては悲観する必要はないだろう。昨年9月から実施した景気刺激パッケージが外国人投資家に好感され、従来、脆弱だと指摘されてきたルピアが昨年末の米国の利上げ以降、堅調に推移している。経済成長の足かせとなる通貨安懸念が一服しているため、金融および財政政策の効果が効きやすい環境となっている。そのなか、政府は1月にガソリン価格の引き下げと政策金利の引き下げを決定。さらに2月中旬には新たな景気刺激パッケージを、さらに4月にはネガティブリスト(外国人の投資を禁止する業種)の改正を予定しているなど、今年は外資主導による景気回復が見込まれている。

――逆に不調な国は…。


 マレーシアは原油や商品価格下落、外需の弱さが大きな下げ圧力になるのでは。これらを反映して、先般修正された2016年予算案ではGDP見通しが従来の前年比4.5%増から4.0%増に下方修正された。日本企業にとっても、現地での販売や生産・輸出活動で厳しい状況になることが予想される。予算案に関連しては、日本企業に対する徴税や罰則の強化という形で影響が表れている。政府の主要財源の石油関連収入が大幅に減少していることから、その補てん先として企業が狙いうちされたもので、石油以外の一般の法人税や個人所得税などからの実入りを増やしていこうという意図のようだ。すでに多くの日系企業に対して移転価格税制の調査が行われたり、地場企業でも民間企業に対しては税務関連の調査が強化されているという。

 タイも、ASEAN経済共同体(AEC)の恩恵を最も享受するとは言われているが、景気回復には依然として不透明感が残っている印象だ。経済成長をけん引する輸出、投資、内需、観光のうち、回復しているのは観光のみ。輸出は中国経済をはじめとする世界経済の回復遅れから今年も停滞が予想され、また内需についてもコモディティ価格の下落を受けた農家所得減少を背景に、消費の低迷が続くと見られている。これらの問題を解決すべく、政府は前月、輸出については需要が目覚ましいCLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)との国境貿易促進に向けた国境通関手続きの簡素化を実施。また、同月に天然ゴムの政府買い取りを決定するなどの対策を打った。しかし、これら対策の効果が実体経済をどれだけ押し上げられるかは不透明との見方も強い。インドネシアのように大幅な外資規制緩和による外資誘致や利上げの余地も乏しいことから、公共投資支出以外にどれだけ実効性のある政策を打てるかが焦点となりそうだ。

 シンガポールも景気に陰りがある。これは不動産市場や製造業売上高、小売売上高などの指標に現れている。ただ同国の場合は、足元の景気だけでなく構造的な問題もあるように感じる。先進国並みの経済水準に達してから久しいが、今後も成長を続けるための試行錯誤の段階、端境期にあるようなイメージだ。当局も、競争力のある知識集約型産業や研究・開発(R&D)を中心とした、より競争力を高めるような投資誘致に力を入れている。ロボット工学や「モノのインターネット」などの最先端技術を育てているようだし、日本企業に対してはデザインやクリエイティブ分野の企業を誘致したいとしている。従来型の産業をそのまま誘致したり、地の利を活かしたハブ拠点を目指すだけでなく、自国から何かイノベーションを引き起こすような産業を作る考えだろう。

――ベトナム以外のCLMVはどうか…。


 ミャンマーへの期待感は強いが、やはり政治に不透明感が強い。とりあえず無事に新国会が開催され、議長指名などの人事が進展しているのは喜ばしいが、最大の焦点である大統領人事が依然明らかになっていない。憲法の規定でアウンサンスーチー氏が大統領に就任できないのは確実のはずだが、足元では憲法を凍結することで障害を乗り越える案も囁かれている。大統領指名が無事済んでも、スーチー氏に国民は過剰な期待を向けているとみられており、スーチー氏が期待に応えられなかった時、強い失望感が発生する可能性が高いことは大きなリスクだ。経済をみても、慢性的な貿易赤字、財政赤字、そして高いインフレが続いており、楽観し続けられる状況ではない。まだ高い成長を享受できるとは思うが、少し注意してみるべきだろう。

 ラオスとカンボジアについては、後発開発途上国であり、また人口が比較的少ないことなどから注目度が低いが、TPPやAECの恩恵を享受し、しっかりとした経済成長を歩むと見られる。両国ともAEC発足を受けて関税撤廃を進めているため、タイ~ベトナム~中国の中継貿易としての機能がますます期待されることに加え、TPPによるベトナムの貿易が拡大すれば、賃金が低い両国へベトナム企業による投資も活発化すると予想される。法律やインフラなど投資環境は決して整備されているとは言えないものの、域内で労働集約型企業が進出できる国である魅力も残されているため、日系企業の進出も期待したい。

――各国様々だが、中国よりはましで、やはりなんとか成長を続けていくのではないか…。