武器輸出は見通し難

武器輸出は見通し難

防衛ジャーナリスト
桜林 美佐 氏


聞き手 編集局長 島田一

――日本の防衛産業の状況は…。


桜林 実は「産業」といえるような状況ではなく、大企業の一部門や、多数の中小企業が担っているのが実態だ。潜水艦では1200社、護衛艦だと2500社ほどがプロジェクトに関与している。日本の防衛産業の特徴は、関連大手企業で防衛部門が占める割合が少ないことで、事業規模は平均4%を占めるに過ぎない。例えば三菱重工についても、防衛企業とのイメージが強いが、実際の防衛部門は大きくない。これは、米国のボーイング社やロッキード社は軍需のウエイトが相当大きいのと比べて対照的だ。つまり、日本の場合、各社にとって防衛部門はさほど重要とはいえず、ここ数年注目を集めている武器輸出が解禁されても、よほどのメリットをつけない限り、積極的な事業拡大はされにくい。

――防衛省は輸出解禁に前向きだが…。


桜林 防衛省側と企業側に温度差があるのが実態だ。確かに各社の防衛部門は前向きかもしれないが、本格的に輸出を開始するとなれば、企業全体のブランドイメージへの悪影響は避けられない。やはり防衛ビジネスはまだまだネガティブなイメージが強く、マスメディアにも「死の商人」などと取り上げられるリスクが高い。実際、自衛隊以外に納品するとなれば、どのような使い方をされるのか分からず、第三国に移転したり、最悪テロリストに使用されたりするリスクもある。また、純粋にビジネスの観点から見ても、輸出を行うためには自衛隊に納品するものと比べてスペックを下げるといった改修を行う手間が必要で、その改修コストは決して小さくない。こうした様々なデメリットを考えると、株主の賛同を得ることも容易ではなく、企業側がただちに輸出に向けて取り組むとは考えにくい。

――防衛産業に関わる企業の現状は…。


桜林 現時点では非常に多くの企業が存在しているが、ここ数年の予算削減を受けた受注減少で撤退や倒産が相次いでいる。防衛省としても対策に乗り出しているが、予算が増えない状況下では効果は限定的だ。輸出解禁は防衛省側としては救済策だったのだろうが、企業側は手放しで喜んでいるわけではなく、政府主導でないと困るとの本音を最近漏らしつつある。

――どうすれば防衛産業を守れるのか…。


桜林 単純だが、防衛予算の増額が必要だ。現在の日本の防衛予算は、確かに規模だけでいえば世界ランキングでも上位に位置するが、内訳は50%近くが隊員の給与や食費である「人件・糧食費」が占めている。そのほか、例えば約1200億円の建造費がかかるイージス艦といった大型の装備を、複数年度に分けてローン払いをする「歳出化経費」が30%ほどを占めており、残り20%くらいの「一般物件費」が装備品の開発や購入に充てられているが、この中にはいわゆる思いやり予算や、基地周辺対策経費、装備の維持・整備費も含まれている。つまり純粋に防衛産業に支払われる金額は微々たるものだ。

――現状の5兆円は少なすぎる…。


桜林 ただ、現状のまま政府主導で防衛予算を増額すれば、軍国主義とのレッテルを貼られるのは避けられないため、地道に国民の理解を深めることが必要だ。現政権になってから既に防衛費が増えているという見方もあるが、実際には復興予算捻出のために抑制されていた公務員給与の回復分と、人事院勧告を受けた給与引き上げによるところが殆どで、装備開発の予算が増えたわけではない。同じように民主党政権で微妙に増えたこともあったが、これも子供手当ての導入分に過ぎず、現状では与野党ともに防衛予算を真剣に考えているとはいえない。一方で、現在自衛隊は南西方面の中国の海洋進出を受けた警戒監視などに追われており、負担は増すばかりだ。

――装備も海外から買うばかりだと…。


桜林 時間も予算もないという事情で米国から買うことが多く、例えば最近では輸送機のオスプレイ、無人航空機のグローバルホーク、水陸両用車のAAV-7などを購入している。これには、米国からの売り込みに圧された部分も大きいようだ。米国からの装備品購入は、米政府と直接取引する有償対外軍事援助(フォーリン・ミリタリー・セール)方式が増加傾向にあるが、これはほぼ言い値で買わされているのが実態だ。そうなると本体価格は案外安価ではあるものの、維持・整備にお金がかかり、修理も米国本土でしか行えない。従って輸送費が高くつくほか、場合によっては数年に渡って装備が米国から戻ってくるのを待ち続けるケースもすでにみられている。また、長く使おうにも、米国側が生産を終了すればそれまでで、ほぼ20年は使用する自衛隊にとってはその後の部品調達など維持に大変な苦労を余儀なくされる。長期的にみると、コストパフォーマンスは決して高くないというべきだろう。

――次期主力戦闘機も米国製だ…。


桜林 実際、F-35の導入決定により、準国産戦闘機と呼んでよいF-2製造で培われた日本の戦闘機国産体制がなくなってしまう危機が浮上した。本当は次期主力戦闘機、ないしその次を国産にする構想もあったようだが、財政や米国側の圧力がF-35選定の背景となったのだろう。ただ、それによって、幾つかの企業は戦闘機事業から撤退せざるをえない状況となった。たまたま、東日本大震災で松島基地のF-2が水没したことで再び予算が投じられ、再び生産が開始されたが、その際も一度閉じたラインの復旧には相当苦労したようだ。

――豪州への潜水艦輸出については…。


桜林 豪州側の事情に配慮し、現地雇用を生み出す方法を編み出さなければ輸出の実現は難しい。しかし、潜水艦の製造技術は機密の塊である上、高度な技術を要するものであるため、現地の労働者の活用は本当に難しい。技術的にそう簡単に伝授できるものではないし、安全保障の観点からも、そう簡単に伝授していいものではない。米国の場合は情報管理体制をしっかりと整備しているが、日本は情報管理体制の構築より先に輸出が盛り上がってしまった。自衛隊側には見せないで欲しい場所がある一方で、政府サイドには急がないと間に合わないという焦りもあり、日本として一体化できていないのが現状だ。潜水艦関連企業の下請け企業も今後どうなるのか分からず、不安を抱いているようだ。

――防衛産業の維持は難しい…。


桜林 ベンダー企業には高い技術を要求されるが小ロットの発注となるのも特徴だ。特に船舶は、車両や航空と違って年間1隻建造するか建造しないかが当たり前で、1隻に1つしか必要ない部品の場合、それを生産している町工場は1年に1度しか仕事をできないことになる。潜水艦の場合は、技術を保持するために年に1隻ずつ三菱重工と川崎重工が交互に建造していたが、片方のメーカーにしか部品を卸さない企業は、2年に1度しか部品を作れない環境が定着していた。しかし、平成21年度は、予算が付かず、関連企業にとっては大きな痛手となった。2年に1度しか部品を作っていなかったメーカーの場合は納品が3年に1度になってしまった格好だ。防衛産業の部品は、必要な設備も人材も特殊で、他の製品製造に利用できない場合が多い。町工場に全くの遊休資産を抱える余裕などあるはずもなく、私が話を聞いたある会社は、銀行からの融資で何とか凌いだが、その際も銀行側の審査が厳しく、大変苦労したという。その後、潜水艦の増産が決まったことは同社にとって朗報だったが、それでも1年の空白のリカバーには7年はかかるとのことだった。

――企業の負担が大き過ぎると…。


桜林 サイバー攻撃への対応でもそうだ。防衛省も防衛産業のサイバー対策の重要性は理解していたものの、関連企業に振り分ける予算があるわけではなく、各社に警告だけを行った。結局各社は、自己負担で厳密な対策を採らざるをえなかった。聞けば聞くほど防衛産業と自衛隊の契約は不公平で、夢のない話が多い。そんな状況下では、企業は武器輸出どころではないのは当然だ。輸出三原則の改定などより、まずは契約制度の改善が急務だろう。

――防衛省は危機を理解していないのか…。


桜林 防衛省側も雰囲気は察しており、大臣と防衛産業の懇談を企画したりはしているが、そういう場にでてくるのは大企業の社長ばかりで、会社の上層部は防衛部門の実態をよく把握していないため、「いつもお世話になっています」といった内容がない話で終わってしまう。本当は防衛産業は、戦前のように工廠形式が一番相応しいのではないかと思うが、世間的に許されないだろう。ただ、建前のために非効率な措置が続けられている部分は多く、例えば戦車は三菱重工しか作れないことは分かりきっているにも関わらず、今でも競争入札が実施されている。メーカー側からすれば、毎回準備に無駄な労力が必要となるだけだ。こうした様々な問題を解決していかなければ、防衛産業を維持するのは難しい。しかし、それが出来なければどうなってしまうのか。中国・ロシア・北朝鮮など日本をとりまく国の軍事力が脅威となっているだけになんとかしなければいけないと考えている。